幽霊なんだって!私、霊感無かったのに突然幽霊が見えるようになったんだ。不思議だよね。何でかなぁ……。
今日は祭りのため清掃係がやってきた。毎年のことであり、自分も参加していたため、今年も同じように掃除をしていた。
病気のことが気がかりで外へ出ることを規制してきた周りの目を盗んで、人気のないところでゴミを拾う。みんなが立ち入らないような雑木林の中に投げ込まれた空き缶などを拾った。
それにしても天気がいい。良すぎるぐらいだ。この分なら、一週間後に控えた祭も無事に行われそうだ。
つばめはホッと胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。
不思議と祭の日には雨になったためしが一度もない。本当に奇跡のようだった。大袈裟すぎるかもしれないが。
「でも、そのお陰で蒼真に会えるんだから!」
暑さがなんだ。蒼真に会えるならどんなことだって我慢できる。元気よく、青い空に向かって伸びをした。
空き缶を拾い、ふいと顔をあげたつばめの目には誰も映っていない。
「……みんな帰っちゃった、よね?」
流れる一筋の汗を拭う。誰も居ないのなら具合がいい。独り言をぶつくさと発している変な女の子と思われる心配がない。
「ーー太一くん」
何処と無く呼び掛けると、大きな林を背負うように建つ祠からひょいと色白の顔が見えた。いつものようににんまりと笑う太一は、無邪気に昆虫を追いかける夏休みの少年と変わらない。ただ、足が透けていることを除けば。
「つばめちゃん、昨日ぶりだね」
そして、いたずらっ子の微笑みで私を見つめた。
私は今日あったことを話した。それが日課だった。あれこれと話をして、時々相づちを打ってくれる。太一の聞くスタイルはいつもこんな風だった。
真夏の炎天下だというのに涼しいのは木の陰で守られているからだろう。太一は体温を感じない体だから私はなんとも言えないが。
そして会話が一段落すると彼は太陽を見上げ、悲しそうな顔をした。何を思い、何を考えているのだろうか。いくら霊感のある私でも、気持ちまで読み取ることはできない。私はまた黙って彼の顔を見上げ、そして会話を切り出す。
「今日はお祭りのための掃除なんだけど、いつもより多く人が集まったね」
なんとなく、切り出した話題だった。太一は同じ台詞を何回も聞いているはずなのに、うんうんと頷いてくれた。
「ーーあ」
太一はふと何かを思い出したように声を漏らした。空を見て、目を開いて、近い遠くを見ているようだ。
「太一くん。どうしたの?」
私の問いかけに、彼はすぐ答えてくれなかった。もう一度「あ」と言うと顔に陰をおとし、俯いた。そこにはもう、あの無邪気な微笑みは無かった。
数秒ほど間を開けて私の方を振りかえる。太一は真剣な眼差しをしていた。
聞けば、私がここに来る数十分前、男の子が自分の姿を見たという。嘘だ、と思った。同時に、太一は私に嘘はつかない、とも考えた。それに、よくよく考えてみれば確率は少ないけれど霊が見える人だって居るじゃないか。そう、霊感がある人ーー私みたいに。
ただ、一つ引っ掛かった。蒼真も霊が見えると言っていたのだ。ただ、たまにしか見えないらしかったので、5年の歳月がその能力にどう影響しているのか見当もつかない。
ーーもし蒼真なら。いいや、もし蒼真じゃなかったら……?
「て、手紙はっ……手紙はどうなったの? 祠は開けられなかった?」
急に大きな声を出してしまい、太一はビクッと体を震わせた。思わず謝る。
「……つばめちゃん」
太一は優しい声で私の名を呼び、顔と顔を近づけた。
「僕が守るって言ったから、大丈夫」
すごく、すごく安心できる言葉だった。嗚呼、私は一体何を心配していたのだろう。
えへ、と太一は笑った。つられて私も微笑む。
手紙は蒼真に渡すものだから。大切なものだから。……蒼真は5年前の約束を覚えているだろうか。いつ会えるか分からないけれど、約束の場所に置いていたら気づいてくれる。そう信じて。
「ごめんね。ありがとう」
太一に感謝してもしきれない。