色々とありがとう。大好きだよ。
初めて訪れたつばめの墓。それは小さな丘の一角に建っていた。
ーー手を合わせるだけ。手を合わせるだけ。
そう思っていたのに、いざ目の前にすると足が動かない。目は墓に刻まれた名前を離そうとしなかった。
いつの間にか蝉の声が消えていた。冷たいものが背中を伝って身体中に広がっていった。指先の感覚もなくなっていった。急に血の気が引いて、心臓だけが飛び出しそうなくらい跳ね上がっていた。
やっぱり癒えない。
この傷は治らない。
それでも。
それでも。
「約束したから……」
ポケットから封筒を取り出した。古い祠に入っていたものだ。
自分が神社を訪れたとき、古い祠に手を掛けるのをつばめは知っていたのだろう。だからそこに手紙を置いていた。
自分が居なくなってしまってからのことを書き綴っていた。幽霊になっても、なお。
便箋の文字と墓に刻まれた名前を交互に見ながら、返す言葉を探していた。
『追伸:約束破りの君へ』
『覚えてる?』
「…………」
あのときから5年が経った。
5年という長い月日、つばめを待たせてしまった。だけども待っていてくれた。来るかどうかもわからない自分のことを、ただ、ひたすらに。
最後の便箋を見た。つばめの5年分の思いと、自分への問いかけが綴られていた。
祭りの空気とは一変して爽やかな風が流れて行く。
蒼真は片手に持っていた花を供え、手を合わせた。
ーーもう、怖くない。大丈夫。
目を閉じるとつばめの姿が見える。祭りの波の中にゆらゆらと浮かぶその顔は笑っていた。
「そうま、大好き」
そんな声が、聞こえた気がした。
ゆっくりと目を開けた蒼真は微笑みながら言った。
「……俺も」