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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は黒猫である
8/63

飼い猫になると言う事

今回から第二章が始まり第一章よりも長い話を展開。

それとこの章から新キャラが登場します。 章タイトルからわかるかもしれませんが、黒猫の猫又です。 首に鈴が付いた首輪を付けているのですが、実際の猫はそんな首輪を付けられるとストレスになるみたいです。 子猫の時から付けていると大丈夫みたいですが、野良猫は嫌がるみたいですよ(・Д・;)




お風呂から上がった猫の姿の私は、絨毯の上で寝ていました。

少し逆上せてしまったようで、ぐったりと横になっています。


しかし、意外に思う事が一つだけありました。お風呂がこれほど気持ちがいいものだったという事です。温かいお湯が体の上を流れ、滑らかな泡が体を撫でていく。それがこれほどにも気持ちがいいものだったとは予想していませんでした。


「少し長く入れすぎちゃったかな……」


お風呂から上がってパジャマに着替えた森田さんが、ぐったり寝ている私を見て言いました。ゆっくり手を伸ばして、優しく私の頭を撫でます。


「冷房利かせてるからすぐ涼しくなるからね」


私の少し長めの白い毛が、森田さんの手に従ってふわふわと揺れます。

ドライヤーで乾かされた後なので、更にふわふわ流れていきます。


「あとは猫砂かぁ……。いきなり飼うって決めたから何も用意してないないし……。

ちょっと代わりになるもの探してこようかな」


そう言って森田さんはリビングを出ていきました。

私はそれを寝ながら見ていました。


少し体を起こして、改めて森田家の中を見渡してみると、さすがお金持ちのお家だなと思いました。

フローリングの広いリビングに絨毯が敷いてあり、その上に大きい薄型テレビ、ローテーブル、ソファが並べてあります。

側にはダイニングテーブルがあって、ソファの後にダイニングキッチンがありました。

ダイニングテーブルの向こうにも部屋が見えますし、玄関に二階への階段もあるのです。


私はもう少し家を見たいと思い、立ち上がって隣の部屋に歩いていきました。

ダイニングテーブルの下を潜り、ジャンプして扉の取っ手を引いて開きます。


そして中へ入ってみると、そこには広くて本の匂いのする部屋が広がっていました。

目の前に机、両側と背後の壁には本が詰まった本棚が一杯に並んでいます。

他には真ん中に黒っぽい色の机とソファがあるだけで、厚くて難しそうな本が敷き詰められているだけの部屋でした。


「あっ、こら美尾!」


不意にそんな声がすると、森田さんが私の体を抱き抱えました。


「ここは父さんの仕事部屋だから入っちゃダメだぞ」


そう言って森田さんは、私を連れて部屋を出ます。叱る、と言うよりも注意すると言うような声です。

 

想太朗さんは注意で済ませましたが、私は叱られるような事をしたと考えていました。

先日両親を亡くした想太朗さんにとって、この部屋は大事な部屋なのです。

ですからこれからはあの部屋に入らないように気をつけましょう。


「それにしても美尾。今日はどこで寝ようか」

 

寝床ですか……いつもは森田さん家の庭にある椿の下で寝ていますが……。


「今日は僕と一緒に寝ようか。他に寝るとこないし」

 

私はその言葉に、声を出してしまうそうになるほど驚愕しました。

私は飼い猫ですから普通の事と思うのかもしれませんが、私はただの猫ではなく猫又です。

人間にも変化できますし、私は雌で、人間で言えば女なのです。


「大丈夫。僕はそれほど寝相悪くないから」

 

そういう問題ではありませんでした。

繰り返すようですが、森田さんと一緒に寝るという事は言い変えれば同衾するという事で……って私は何を卑猥な事を考えているんですか!


しかし私が森田さんに抱えられながら頭の中で暴走している内に、先程見た玄関からの階段を上って二階に来てしまいした。

森田さんは部屋に入ると私を降ろし、ベッドに潜ってしまいます。


「ほら、一緒に寝よう美尾。大丈夫だから」


想太朗さんは毛布をめくり、ベッドに入るように呼んできます。しかし私はやはり素直に入る事はできません。

 

しかし、今の私は猫の姿ですし、ただ森田さんの側で眠るだけです。

猫である私と森田さんの間に何かある訳がないのです。

そうです、何か起こる訳でもないのです。

それに私は別段想太朗さんの事が嫌いな訳でも、想太朗さんと寝たくない訳でもありません。


ですから今日からベッドで眠る事にしましょう。

私はそう決めて、ゆっくり歩いてベッドに潜り、想太朗さんの枕元で丸くなりました。


「ほら、温かいだろう? 気持ちいいだろう?」


そう言いながら森田さんが優しく私の背中を撫でます。


た、確かにベッドがふかふかで、温かくて、今までの寝床よりもずっと気持ちが良いです。

それに隣に想太朗さんがいて、何故か心が安心して落ち着きます。特に想太朗さんの手の平が心地よくて、私を段々と眠りに誘ってくるのです。


「じゃあ御休み。また明日ね、美尾……」


はい……森田さんも御休みなさい……。

良い眠りを……。

私はそう心の中で答えて目を閉じました。

ベッドが気持ちいいからか、安心しきっているのか、すぐに私は眠りに落ちました。


そうして森田家に来て初めての日を終えたのでした。同時に森田家での生活が始まったのでした。




----------------------------------------------------------




朝起きると、想太朗さんはもう既に目覚めているのか、ベッドには私一人になっていました。

フローリングで少し大きめの部屋に、窓から太陽の光が差し込んできます。

窓は開いているようで、風がカーテンを膨らませながら部屋に入ってきます。

 

私は体を起こして伸びをし、森田さんがいるであろう、一階のリビングに下りました。下りてリビングを見渡してみると、既に外出用の服に着替えて、洗面台から出てきた想太朗さんを見つけます。


「あっ、起きたのか美尾。早いな」


森田さんは台所に入り、白いお皿に乗った料理を私の前に置きます。


「ほら、美尾の為に作った朝ごはんだ。インターネットで調べて猫用のご飯を作ったんだ。いきなり飼うって決めたから猫缶がなくてね……」


 想太朗さんは照れ臭そうに頭を掻いていましたが、私は想太朗さんがご飯を作ってくれた事に、飼い猫にしては優遇が良すぎると驚いていました。

確かに朝ごはんがないと私が困りますが、ご飯を作ってくれるとは予想していなかったのです。 

 

勿論、私は朝ごはんを作ってくれて、嬉しかったです。

ですが、同時に飼い猫がこんな贅沢してもいいのかと心配になりました。


それでも有り難みと歓喜を感じながら朝ごはんを食べてみると、予算通り想太朗さんの料理は美味しいものでした。想太朗さんの温かみが伝わってきて、料理の中の慈しみを感じられます。


「よかった。上手くできたみたいだね。じゃあ僕は学校に行くよ。外に出ていく時はそこの小窓を使ってね」

 

ダイニングキッチンにある、開けられた小窓を指差しながら言うと、森田さんは玄関に歩いていきました。


「じゃあ僕は学校に行くよ。外に出ていく時はそこの小窓を使ってね」


 ダイニングキッチンにある、開けられた小さな窓を指差しながら言うと、森田さんは玄関に歩きました。


「じゃあ行ってきます」

 

はい。行ってらっしゃい。

 

私がそう心で呟くと、森田さんは出掛けて行きました。

家に一人になった私はリビングに戻り、森田さんの言っていたダイニングキッチンの窓を見上げます。

その窓は本当に小さいもので、人には通れないほどの大きさの、飾りのような窓でした。


私は台所にピョンと飛び乗って窓に飛び移り、窓から外へ出ていきました。

特に出掛ける用事はないのですが、外に出ようと出掛けるのでした。


森田さんの家を出て人間化した私は、小向さんがいる月見里(やまなし)神社に向かいました。

特に目的や訳はありません。

ただ、散歩がてらに私が森田さんの家に住み始めた事を小向さんに伝えに行こうかなぁ、と思ったのです。


人間化は森田さんの家の庭で済ませました。

森田さんの家には誰もいないのですし、公園で変身するのも庭で変身するのも同じだと思ったのです。

だから、前に寝床にしていたツバキの茂みに隠れて人間化し、恐る恐る家を出て神社に来たのでした。


そうして神社に来てみると、小向さんではなく坂井さんを見付けました。

小向さんの家の、玄関の側を箒で枯葉などを掃いています。


「あの、坂井さん。小向さんがどこか知りませんか?」

「小向さん? それならさっき出掛けていったわよ」

「そうですか……。それならしばらくここで待っていますね」

「あぁ、どうぞ……」


私は家の玄関に寄りかかって小向さんを待ち始めました。

どうせ今日は何の予定もないのですから、しばらく小向さんが帰ってくるのを待つ事にしましょう。

 

しかし、何やら坂井さんが不審そうな表情でこちらを見ています。

掃除していたはずの手も止めて、こちらをジッと見ているのです。


私はどうして坂井さんがそんな風に私を見ているのか見当がつきませんでした。

何か坂井さんに失礼な事をしてしまったり、恨みを売るような事をしてしまったのかと思い、今までの事を思い出してみましたが、やはりそのような憶えはありません。


困惑しながらもう一度今までの記憶を振り返っていると、坂井さんは再び近付いてこう問いました。


「森田さんって、もしかして小向さんと付き合ってるの?」


私は思わず噴き出しそうになりました。

小向さんにも魅力はありますが、私は小向さんと付き合ってはいません。


それに私にはちゃんと、他に想いを寄せる人がいるのです。

なのに、どうして私は小向さんと付き合っていると誤解されているのでしょうか。


「違うんです! 私にはちゃんと他に好きな人がいるんです!」


私は顔を真っ赤にしながら否定しました。

小向さんと交際していると間違われた事よりも、好きな人が居ると告白する方が恥ずかしかったですが、私は否定する為に言いました。

 

すると坂井さんは意外そうに呆気に取られていましたが、すぐに追求してきました。


「へぇ~そうなんだ。その好きな人って誰?」


告白するだけでも顔が真っ赤になってしまうほど恥ずかしかったというのに、坂井さんはその部分を深く追求してきました。


しかし、言う分には問題ありませんでした。私の想い人は坂井さんの知らない人ですし、その当人に知られてしまう可能性はないと考えていいと思います。

坂井さんが他の人に教えてしまうかもしれませんが、彼女の性格から考えてそんな事はしないと思います。


ですから、問題は私の羞恥心だけです。


「だ、誰にも言いませんよね?」

「勿論、言わないわよ。約束もする。だから教えて」

「で、でも恥ずかしいです……」

「大丈夫よ。私が力になってあげるから教えて」

「うう……」

 

私の顔は先程よりも赤く照っていて、顔から火が出そうです。

比喩ですが、それほど顔が熱くなるほど言いにくい事なのです。

 

しかし、坂井さんは誰にも言わないと約束してくれましたし、力になるとも言ってくれました。

だから、坂井さんに話そうと思うのですが、なかなか口が動きません。


「そ、その……」

「うん」

「私の好きな人は……」

「うんうん」

「森田 想太朗さんという人なんです!!」

「へぇー、どんな人なの?」


羞恥心を乗り越えて、想い人の告白をしたというのに、坂井さんはまだ追求してきました。

先程恥ずかしくはありませんが、既に私の頭はパンクしてしまいそうです。


「想太朗さんはいつも冷静ですが、静かに微笑んでいる姿が印象的な人です。一言で言ってしまえば聡明な方でしょうか?」

「へぇー、どこで出会ったの?」


うっ、まだ追求しますか……。

坂井さんの表情が私を睨んでいた時と打って変わって、楽しげな表情になっていましたが、私は気にせず話を進めようとします。


私は森田さんとの出会いの事を思い出しました。

最初に出会ったのは猫の姿の時でしたが、坂井さんに話す訳にはいかないので、人の姿で会った時の事を思い出します。


私が最初に想太朗さんと出会ったのはこの町の商店街でした。

悪い人に襲われていた私を、想太朗さんが救ってくれた事が切っ掛けです。私がお礼をする為に想太朗さんを喫茶店に誘い、そこから私達は仲良くなったのです。


その話を坂井さんに話すと、彼女は実に興味深そうに、飽きもせずに聞いてくれました。

坂井さんは以前、自分はどんな会話でもいいから人と話す事が好きと言っていたのですが、本当にそのようです。


「それで、その森田さんとは今も会ってるの? また会うような約束してるの?」

「いいえ……会う約束なんてしてませんし、会わな……いんじゃないでしょうか……?」


想太朗さんと会えない。

彼の家で飼い猫として住んでいますが、人の姿で会う可能性は少ない。


そう考えると、私の胸はなんだかキツいものに縛られました。


焦燥感……そう、私の胸は焦燥感に縛られたのです。

森田さんと会えず、あの約束っきりになってしまうと焦り、寂しさを感じているのです。


「そんなのダメじゃない! その人が好きなら早くデートの約束をしないと!」

「デ、デート……?」

「そうよ! 食事でも遊園地でも映画館でも行って、その想太朗さんと居る時間を作るのよ!」


デートという単語はテレビの番組やドラマで聞いた事があります。

デートとは、親しい男女が遊園地や映画館に遊びに行く事だと思っているのですが、私が想太朗さんとそのデートというものをしている光景を想像すると、とても恥ずかしくて胸がむず痒くなってしまいます。


しかし、私はその光景に憧れました。

恥ずかしいのですが、想太朗さんと時を過ごせるのなら、どんな苦痛も幸せに変わるような気がしているのです。


「しかし、デートをするならば今から約束を取り付けるしかありません。そうすると私の森田さんへの気持ちが知られてしまいそうですよ……」

「知られてもいいじゃない」

 

私は坂井さんの言葉に驚愕しました。明らかに違うと感じる事を坂井さんは言っていると思いました。

しかし坂井さんは堂々とした表情で告げました。


「知られたっていいじゃない。その気持ちに嘘でも非でもあると言うの? それなら知られたっていいじゃない」


ビシビシィ!


そんな音が私の脳内で雷のように響きました。実際には鳴っていないのですけど、私の頭の中で効果音がついてしまう程その言葉には力と衝撃があったのです。


「それに知られた方が恋が成就しやすいかもしれないわよ? 気まずくなって関係が壊れてしまうかもしれないけど、相手はあなたの事を意識せざるを得ないもの」

「そ、そうなんですか……」


私は坂井さんの言葉にすっかり洗脳されてしまいました。

坂井さんに感銘を受け、今すぐにでも森田さんにデートの約束を取り付けに行きたくなってしまったのです。


「わかりました……私、今日森田さんに会って約束を取り付けようと思います!」

「そうよ、その意気よ! 私はミオさんを応援してるからね!」

『何を応援してるんだい?』


第三者の声に驚いて、声の方を向いてみると、そこには小向さんがいました。

全く気がつかなかったですけど、どうやら月見里神社に帰ってきたようです。


「こ、小向さん……! 驚かさないでくださいよ!」

「あれ、坂井さん。私は驚かしてなんていないけどなぁ」

「それならニヤニヤしながら言わないでください!」

「はっはっはっ」


私もビックリしてしまったのですけれど、なんだか二人のやり取り(コント?)を見ていたら笑ってしまいました。

小向さんはよく坂井さんをからかったり、セクハラまでするのですが、なんだかんだ言ってこの二人は仲が良いのでしょうか。


私はそんな事を考えていましたが、私は小向さんに報告する事があって神社に来た事を思い出しました。

しかし……私は想太朗さんに会いたくて居ても立っても居られなくなっていました。

日はまだ昇ったばかりですから森田さんが帰ってくるのはまだ後の時間ですけど、この人間の姿で森田さんと会い、もっと親密になりたいと思い始めたのです。


そして私は、坂井さんの洗脳の所為かあまり真っ直ぐに物事を考える事ができなくなっていました。

想太朗さんと食事をする為のお金を、今すぐに月見里神社で働いて稼ごうと考え始めていたのです。


そんな事、小向さんが迷惑しますし、断られると思います。

ですが私は、当初の目的も忘れて、頼むだけ頼んでみようと思い、小向さんに向かってこう言いました。


「小向さん。無理な相談だと思いますが、今すぐにこの神社で働かせてくれませんか?」

「……どうしてだい?」


小向さんは意外と冷静に訊いてきました。私はすぐに答えます。


「お金が必要になったのです。今からだなんて無理だと自分でも思いますけど、急にお金が必要になったんです!」

「ふ~ん……。まぁ、君は以前働いた事あるから、別にいいけどね」


あれ……意外と承ってもらえましたね。もっと悩まれると思っていましたし、断られるとも考えていました。


「じゃあ坂井さん、ミオさんに巫女装束を着付けてやってください」

「はい」


坂井さんの顔を見てみると、彼女は私を見てニヤニヤ笑っていました。きっと私の心を察して笑っているのでしょう。


「ほ、ほら……坂井さん、行きますよ……」

「はいはい」


私は、ニヤニヤ笑う坂井さんの後を追って小向さんの家に上がり、赤面しながら坂井さんに付いていきました。


そして私は巫女装束に着替え、太陽が落ちるまで神社で働きました。売店で御守りを売ったり、境内を掃除したりします。


しかし私は、小向さんに森田さんの飼い猫になったと伝える事を忘れていたのか、遂に小向さんにその事を伝えないままお仕事を終わらせて神社を出てしまいました。

 

この伝達事項はそれほど重要な事ではなかったので構わないのですが、私は完全に目の前が見えなくなっていました。



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