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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は美尾である
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残した言葉


次の日。朝起きると、私の隣には想太朗くんが眠っていました。

いつものように想太朗くんのベッドで目覚め、想太朗くんの家の天井が私の目の前に視界に入ってきます。


想太朗くんの寝顔も普段通り、安らかで心地良さそうな顔でした。

少し違うところを言えば、心なしか幸せそうな表情をしている事でしょうか。

私まで幸福に包んでくれるような表情をしていたのです。


なので幸福に満ちた、とても気分の良い朝でした。

窓からは朝日がいっぱいに差し込んでいて、神々しささえも感じます。

私には勿体無いほどに綺麗で、素晴らしい時間でした。


そんな朝でも、一つだけ変わった事がありました。

見えている世界は普段と同じでも、少しだけ状況が違うのです。


それは私が猫の姿ではなく、人間の姿をしている事でした。

飼い猫として一緒に寝ていたのではなく、人として一緒に寝ていたのです。


私は猫の手ではなく、人間の手で想太朗くんの頭に触れました。

私の心が愛おしい気持ちでいっぱいになり、その想いを伝えるように、ゆっくり頭を撫でます。


私はこうして頭を撫でているだけでも幸せでした。

心が温かさに包まれ、自然と顔が微笑み、ずっとこうしていたい気持ちになるのです。


私は撫でていた手を想太朗くんの頬に寄せ、自らの顔を近付けました。

想太朗くんの寝息を感じながら、彼の顔を見つめます。


そして私は、その寝ている彼の額にそっと唇を寄せました。

想太朗くんを起こさない程度に、軽く、優しく。


その口付けには想太朗くんを愛おしく思う気持ちの他に、感謝も込められていました。


この家に住ませてくれてありがとう。

遊園地や水族館に連れていってくれてありがとう。

幸せな時をありがとう。


今までに感謝したい事を思い出しながら口を寄せていました。


それから私はベッドを出て、身支度を整えました。

想太朗くんが冷えないように、毛布もきちんと掛け直します。


そして私は、部屋にあったメモ紙と鉛筆を使って、彼への書き置きを残しました。

伝えたい事を一言でまとめて記し、部屋の扉を開けます。


最後に想太朗くんの寝顔を一瞥し、

幸福を胸に抱いて部屋を出ました。

昨日までの暗い気持ちはなく、悔いのない清々しい気持ちで部屋を出ていったのでした。






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妙な虚しさで目が醒めた。

ふとした目覚めだったけど、何故か心が不安になるような、焦ってしまうような朝だった。


しかし見えている世界は、いつもとなんら変わりなかった。

天井は僕の家のもので、当たり前の事だけど、白くて高い。

部屋を見てみても、家具は同じ位置にあって窓からは朝日が差し込んでいた。


それなのにどうして僕はこれほど虚しく感じるのか。

僕は疑問に思ったけど、すぐに答えがわかった。

一緒に寝ていた美尾さんが隣にいないのである。


僕は美尾さんがいたはずの場所に手で触れてみた。

まだ温かくて、微かに彼女の香りが残っている。

確かに僕は美尾さんと一緒に寝ている。

それならどうして居なくなってしまったのだろうか。


家を探しても美尾さんの姿は見付からなかった。

もしかしたら朝食を作ってくれているのではないかと思ったのだけれど、キッチンにも彼女は居なかったのである。


そして、飼っていた猫のミオも家に戻ってきていなかった。

昨日から姿が見えないと思っていたけれど、どこに行ってしまったのだろう。


僕の不安や焦燥感は次第に大きくなっていった。

何か大切なものをなくしてしまいそうで、胸がざわざわと騒ぐ。

呼吸さえも荒れ始め、息を切らしながら彼女を探した。


何かの冗談であってほしいと願いながら家を探した。

僕を驚かそうと、どこかに隠れている。

そんなささやかな冗談であってほしかった。


しかし見付かったのは、部屋に置いてあった一枚のメモだけだった。

書いた覚えのないメモが、ちょこんと机の上に置かれていたのである。


僕はそのメモを手に取り、今の状況の全てを把握した。

冗談なんかではなかったとわかり、その場に立ち尽くし、途方に暮れる。


絶望にも似た感情に満たされた僕は、もう何も考える事はできなかった。

「大好きでした」と一言だけ記されたメモが、僕の手によって小刻みに震えていた。



想太朗が見つけたメモが誰によるものか、メモに書かれていた言葉がどういう意味を表すのかを意図的に作中で書いていないのですが、伝えたい事が伝えられているかどうか心配です。

サブタイトルにあるように、残した言葉がキーワードなのですが、伝わったでしょうか?(汗

書くべき事をわざと書かないでやんわりとほのめかすストーリーを書いたつもりなのですが、どのくらい書かないでも読者様に伝えられるのか大丈夫なのかが、今回は書いてて難しかったです。

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