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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は美尾である
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秘密の部屋


秘密の部屋への階段を下りていくと、以前通りに洞穴が広がっていました。


何かがある訳ではなく、明かりだけが天井で煌々と輝いています。


「この階段、少し長いよね」


向井さんの声がやけに大きく聞こえました。

コンサートホールのように広い洞穴に反響しているのです。


「確かに長いですね。上りはさすがに疲れます」

「そうだよね。だからエスカレーターに変えようかなって考えてるんだ」

「えっ、変えられるんですか?」


私は驚かずにはいられませんでした。


現実的に考えて、エスカレーターを設置するには随分とお金が掛かります。

それほど贅沢できる資金が神社にあったとは意外だったのです。


いや……それ以前にこの場所は一般人には秘密にしていたはずですから、業者には頼めないはずです。

エスカレーターの設置はできないのではないのでしょうか。


「いったいどうやって設置するのですか?」

「ふふ……業者にでもお金を払って頼むと思ったかい?」


向井さんは私をからかうように笑いました。

悔しい事に、向井さんの予想通りに業者に頼む事を考えていましたけど。


「因みに、エスカレーターとエレベーターでどちらが安いかと言うと、エレベーターの方が安いみたいだね」

「へえー、それは初めて知りました。……って、そんな事はどうでもいいんです!」

「あははは」


いつもなら坂井さんがツッコミを入れる役目なのですが、代わりにその役目を担わされてしまいました。

ノリツッコミなんて、初めてやりましたよ……。


「それで、結局どうやって設置するんです?」

「妖術でちょちょいとやっちゃうのさ」


まさかと思いましたが、やはり妖術なのですね。

エスカレーターは電気も必要とする機械だというのに、それさえも妖術で用意できてしまうとは驚きです。

今更ですが、妖術は万能ですね。


「腰を下ろす場所を作るから、少し離れててね」


階段を下り終えると、向井さんはそう言いました。

果たしてどう作るのかと疑問に思っていると、向井さんは指をぱちりと鳴らしました。


すると何かが爆発して、目の前に白煙が上がります。

煙たくて咳をしながら手の平で扇いでいると、その煙の中からソファとローテーブルが現れました。

家具だけですが、待合室のような空間ができたのです。


「あ、相変わらず向井さんの妖術はすごいですね」

「有り難う。ほら、ソファに座って」


向井さんの妖術に驚きながら、言われるままソファに腰掛けます。

彼も私と向かい合うようにしてソファに座りました。


ところが向井さんは、ソファに座った途端に表情が強張りました。

にこにこと微笑んでいた顔が真剣になったのです。


「さて、早速話を聞こうか。いったいどんな話なんだい?」


真剣に私の話を聞いてくれる事は嬉しいのですが、私はさらに緊張してしまいました。


手に汗を掻きそうになりながら、話を切り出します。


「私が想太朗くんの事を好きなのは知っていますよね」


向井さんは目を細めてから肯定しました。


「話はその事について何です。私がずっと悩んで、苦しんできた事なんです」


私はそう切り出して話の内容へと進めていきます。


「好きなら、その人と結ばれたいと思うのは普通の事ですよね。自分の中で葛藤しちゃう事もありますけど、結局は結ばれたいはずです」


私は今まで自分が苦しんできた事を思い出します。

悩みや苦しみをどうにか理解してもらおうと伝えます。


「でも私は猫又で、想太朗くんは人間です。猫又の正体を知られる危険がありますし、結ばれる訳にはいきません。それは小向さんが再三に渡って忠告していた事ですよね」


私は美鈴さんが琢磨さんに正体を明かした時の事を思い出しながら言います。

向井さんは静かに頷きました。


「でも私はどうしても諦められないんです。諦めようと思っても諦めきれず、死ぬ事さえも考えてしまう程に想太朗くんが好きなんです。だから……今日は向井さんに交渉しにきたのです。猫又という正体を明かす許しをもらう為に」


話をしている間、向井さんは表情をぴくりとも動かしませんでした。

眉一つ動かさず、黙って聞いていたのです。


「交渉、と言うには案をもってきているんだろうね?」

「はい。猫又の危険を防ぐ案を考えてきています」


私は珍しく、胸を張れるほどの自信を持っていました。

それもそのはずです。

私は坂井さん達とのショッピングの後、必死になって向井さんを納得させる案を考えていたのです。




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