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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は観光客である
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アドバイスと約束

それから私達は随分長く話していました。

立ち続けている事にも疲れ、浜辺に腰を下ろして話していました。


時間を計っていなかったので正確にはわかりませんが、二時間は経っていたと思います。


想太朗くんとのお話はとても楽しくて、気が付けばそれほどまで話し込んでしまっていたのです。

それに、敬語を使わずに話していると、やはり想太朗くんと仲良くなれた気がしたのです。


それほど仲良くなったと思うなら、私は自分の悩みを相談できるんじゃないかと思いました。

例の、好きな人を諦める辛さを少しでも和らげられないかという悩みです。


これは私自信の悩みなのですが、ジャスティンさんの悩みでもあります。

私だけでは答えを出す事ができませんでしたし、ジャスティンを助ける為にはもう誰かに頼るしかなかったのです。


「あのね、想太朗くん」

「なに?」

「私はね、実は悩みがあってこの場所に来ていたんだ」


私はそう話を切り出しました。

想太朗くんは凛とした面持ちで聞いています。


「私の友達の話なんだけど、その人に好きな人がいるの」

「うん」

「本当に好きで、他の事が盲目になるくらい好きなんだけど、どうしても諦めないといけなくなっちゃったの」

「うん」

「それで私がどうにかして辛さを和らげてあげたいんだけど、どうすればいいのかわからないんだ」

「ふむ」


想太朗くんは難しそうな表情をしながら考えていました。


しかし案外すぐに答えが出たようで、持ち前の冷静さを顔に浮かべて話し始めました。


「どうして諦めないといけないのかわからないけど、僕なら告白してすっきりした方がいいってアドバイスするかな」

「告白?」

「そう。諦めないといけなくても、意外と言ってみると楽になるものなんだよ」

「それは想太朗くんが経験した事なの?」


私の質問に想太朗くんは苦笑しました。

言いづらそうに身動いだ後に、曖昧な口調で言いました。


「中学時代に、ちょっと……」


想太朗くんの経験だったようです。

少し誤魔化していましたが、想太朗くんの中学時代に何かがあったようです。


この事実を知って、本来なら私は嫉妬したのかもしれませんが、私は悲しく思いました。

想太朗くんを諦めないといけない私は、嫉妬する権利さえもないと思ったからです。


それでも私は何とか悲哀を隠そうとしました。

私の心を悟られる訳にはいきません。


「そうなんだ。でも告白したらすっきりする事はわかったよ」

「うん。ミオさんの友達に教えてあげたらいいよ」

「うん。そうしてみる」


想太朗くんは顔を赤くして照れていたので、私の気持ちに気付かれてはいないでしょう。

安心できましたが、それよりも私は想太朗くんのアドバイスが気になっていました。


確かに想太朗くんの言う通り、何もせずに諦めてしまうよりは、告白してから諦めた方がいいかもしれません。


このアドバイスをジャスティンさんに伝えれば、彼は少しでも幸せになれるかもしれない。

今すぐにでも伝えてあげた方がいいかもしれない。


そう思うと、私は居ても立ってもいられない気持ちになりました。

早くジャスティンさんのいる港に戻りたくなったのです。


「あの、想太朗くん!」

「どうしたの?」


いきなり息を巻いて話を始めたので、想太朗くんは動揺しました。


「私、今からその友達に会ってくる。もう会えないかもしれないから急がないといけないの」


想太朗くんは理解してくれたようで、微笑んで頷いてくれました。


「それじゃあ行ってくるね」

「うん」


私は砂を払いながら立ち上がり、想太朗くんに手を振りながら港に向かい始めました。


「あの、ミオさん!」


去ろうとしましたが、想太朗くんの声が私の足を止めました。

私は振り返り、想太朗くんの話を聞きます。


「今度またどこかに遊びに行かないか? 水族館でも映画館でも、また遊園地に行ってもいい」


距離があるので、大きい声で言われた話は、本来なら断るべき話でした。

私はもう想太朗くんと関わるべきではないからです。


しかし私は想太朗くんが先程言った助言を思い出しました。

何もせずに諦めるより、告白してから諦めた方がいいという事です。


これはジャスティンさんだけでなく、私にも言える事です。

もう一度だけ想太朗くんと出掛け、告白してから彼の元を離れるべきじゃないかと思ったのです。


だから私は想太朗くんの誘いを受けるか迷いました。

少しの間、想太朗くんに待ってもらい、ゆっくりと考えました。


この決断をするのは簡単ではありませんでした。


想太朗くんと別れる事は、猫の姿でも会わない事も含めるので、尚更迷いました。


しかし私は疾うに想太朗くんを諦めると決めていたはずでした。

決めていたにも関わらず、今まで想太朗くんを想う事を止めれなかったのです。


だから想太朗くんと出掛ける事を決めました。

同時に彼と別れる決意もしたのです。


「うん、わかった。また一緒に行こうね」


答えを出すのに時間が掛かったというのに、想太朗くんは微笑んでくれました。



そして私は想太朗くんと予定を合わせ、一緒に出掛ける予定を立てました。

場所はまだ未定で、駅前に集合するまでに決めてきてくれるようです。


しかし私は複雑な気持ちでした。

想太朗くんとまたデートができて嬉しいのですが、別れる為だと途端に悲しくなるのです。


ですがこれは仕方がありません。

この恋は最初から成就しないものだったのです。


それよりも、今はジャスティンさんの事を考えましょう。

一番目の前にある現実はその件です。


再び港へと歩き始めた時には、もう陽が沈みかけていたので、急がなければならなくなりました。

早くジャスティンさんの元へ行って、想太朗くんの助言を伝えてあげなければ。


そう思いながら、私は歩を進めて港へ向かいました。



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