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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は観光客である
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画策

やっぱり台詞を書くより地の文を書いていた方がすらすらと書けます。

もしかしたら、僕は台詞を書くのが苦手なのかもしれません。



想太朗さんに引き取られ、ホテルに戻った後も、私はどうにかジャスティンさんの話を聞けないかと考えていました。

想太朗さんの元を離れ、受付所の側にある船着き場に行く事を画策していたのです。


こんな事を考えるのは良くないと思いましたが、この計画は私に与えられた唯一の活路でした。

想太朗さんを想っていながら、ただ側で見ていられるような術を得る方法なのです。


だから私はどうしてもあの船着き場に行ってジャスティンさんの話を聞く必要がありました。

この術さえ得られれば、私が我慢するだけでみんなが幸福になれるのです。


私はその夜、あまり眠る事ができませんでした。

ケージの中で、この計画の事を考えていたのです。


計画は簡単でした。

身代わりの術で自分の身代わりをケージに置き、明日想太朗さんが寝静まった頃にこのケージに戻ってくるのです。


あの身代わりなら、想太朗さんは私だと認識してくれるでしょう。


しかし身代わりの術が失敗して、想太朗さんに妖術の事や私の正体が知られてしまった時の事を考えると、不安で不安で仕方がありません。


そうならない為にも、私は妖術を完璧にこなす必要があります。

身代わりの術以外に他の妖術も使う機会があると思いますが、その一つ一つを注意しなければなりません。


私は他にも考えていた事がありましたが、失敗した時の事を一番不安に思っていました。

この不安故に、今夜はよく寝付けなかったのですが、気が付くと私は眠っていて、目覚めると朝日が上っていました。


寝坊してしまったかと思いましたが、想太朗さんはまだ寝息を立てていました。


安堵の息を漏らすと、私はすぐに妖術でケージの鍵を外します。

外に出て、身代わりをケージの中に作り、元通り鍵を締めました。


妖術が完璧に発動した事を確認すると、私はその場を離れようとします。


その時、カツン、という不審な音が想太朗さんの方から聞こえました。

驚いて振り向きましたが、想太朗さんは何事もなく眠っています。


想太朗さんが起きてしまったかと思いましたが、先程の音は何かがぶつかった音で、何事もなかったのでしょう。

私は胸を撫で下ろして、部屋から出ていきました。


音を立てないように静かに扉を閉めると、私はホテルのトイレで人間化しました。

問題なく人間化すると、ホテルを出て、ジャスティンさんのいる船着き場に向かいました。


ホテルから船着き場までの距離はそう遠くはないので、歩いて行きました。

人通りは時間帯の所為か多くなく、自動車もたまにしか通りません。

あまり人目に付きたくないので、人通りが少ないのは都合が良いかもしれません。


しかし、私は道を歩いている間、以前坂井さんに聞いた話を思い出しました。

現在の日本は平和過ぎて、日本人が外国に旅行に行った時に犯罪に遭いやすいという話です。


当時、私は日本でも悪い人に襲われそうになったというのに、外国に行ったらどうなってしまうのかと戦慄したのですが、今はその外国にいます。


人通りの少ない場所は犯罪に遭う事も多くなるので、私は今、とても危険な事をしているのではと思いましたが、案外何事もなく船着き場に到着しました。


何も起こらなくて良かったのですが、少し拍子抜けしてしまいました。

気を付けるべきだとは思いますが、少し損をした気分です。


それはさておき、ジャスティンさんは昨日と同じ場所にいるでしょうか。

私は想太朗さんがホテルで眠るまで帰れないので、時間は一日分あるのですが、できれば早く彼の話を聞きたいです。


心配しながらその場所に行ってみると、ジャスティンさんはそこには居ませんでした。

海面だけが光を反射しながらゆらゆらと揺れていました。


私はがっくりと肩を落としてしゃがみます。


しかし、ジャスティンさんだって食事や睡眠が必要です。

本来なら朝ごはんを食べる時間帯ですし、ジャスティンさんはどこかに食事しに行ったのかもしれません。


それか、ジャスティンさんはまだ眠っているのかもしれません。

イルカは頭を半分ずつ眠らせて休息を取るという話を、以前本屋さんの図鑑を読んで知りました。


だからもしかしたら、この海の下で眠りながら泳いで――。


……と、考えていたところで、急にジャスティンさんが顔を出しました。


「今日も白だぁーッ!!」

「きゃあああーッ!」


水が掛かってしまうほどの勢いでジャスティンさんが飛び出してきたので私は尻餅を付いてしまいました。

しかしすぐに私は下着が見えてしまっている事に気付き、隠すように座ります。


下着は隠せたのですが、私はジャスティンさんに二度も下着を見られてしまった事に涙が流れそうになります。

下着を見ようとするジャスティンさんに憤りさえ感じ、濡れたワンピースの端をぎゅっと握り締めました。


「お、おい……何も睨む事ないじゃないか……ちょっとした冗談だって……」

「想太朗さんにも見られた事ないんですよ……」


予想ですが、確かに想太朗さんに下着を見られた事はないと思います。


ですが、ジャスティンさんは想太朗さんが誰の事か知るはずもありません。

ただ、頭の上でハテナマークを浮かべているだけです。


「と、とにかく悪かった、もうしない……」

「それなら私のお願いを聞いて下さい」


私はつっけんどんに言いました。

服も濡れましたし、また下着も見られてしまいましたし、さすがに私も怒らずにはいられません。


その私に慌て、ジャスティンさんは仕方なく言いました。


「わかった……」

「本当ですね?」

「あぁ、本当だ、できる限りの事は聞こう……」


ジャスティンさんは本当に申し訳なく思っているのか、彼にしては弱々しい声で言いました。



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