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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は観光客である
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情報収集


「美尾、お前に情報を集めてきてほしいのだ」

「情報ですか?」

「そうだ……お前に受付嬢のローラについて情報を集めてほしい」


ジャスティンさんにそう言われて、何の為にそんな事を頼むのだろうと私は疑問に思いました。

しかしその答えはすぐに出ました。


ジャスティンさんは以前、ワイヤーに絡まっていて苦しんでいたところを、ローラさんに助けてもらったのです。

この事を考えれば、ジャスティンさんはローラさんに恩返ししたいと思っているから情報が必要なんだと、自然と答えがわかります。


「どうだろう美尾、お願いできないだろうか?」

「はい、それぐらい構いませんよ。でもどんな情報が欲しいですか?」

「家の住所だ!」


堂々と個人情報を要求するジャスティンさんに、私は少しばかりに呆気に取られました。


「それから恋人か夫が居るのかとか、好きな人のタイプとか、詳細に頼む」


更に続けるジャスティンさんに、私は少しではなく盛大に呆気に取られてしまいました。

一体ジャスティンさんはどんな恩返しをしようと考えているのでしょうか?


個人情報やローラさんのタイプの情報が必要になるという事は、ローラさんに恋人を作ってもらおうとでも考えているのでしょうか?


「ジャスティンさん……プライバシーは守らなければいけません……」


私は苦笑しながら優しく教えましたが、ジャスティンさんは「プライバシー」という言葉がわからなかったのか、すぐには答えませんでした。


漫画で今の状況を表現するならば、頭の上にハテナマークが浮かんでいます。


「そのぷらいばしー、というのはなんだ?」

「うーん、説明が難しいのですが……人に知られたくない情報の事です。ジャスティンさんにも秘密とかあるでしょう?」

「ない!」


ジャスティンさんは即答で断言しました。

私は誰しも秘密を抱えるものだろうと思っていたものの、もしかしたら堂々とした性格のジャスティンさんならこう答えるかもしれないと予想していました。


予想していたものの、苦笑してしまいます。


「ジャ、ジャスティンさんにはなくてもローラさんにはあると思うので、考えてあげてください……」

「ふむ……了解した」


ジャスティンさんが話はわかってくれる人で良かったです。

執拗にローラさんの個人情報を求められたら、私はローラさんを尾行したり、家に不法侵入しなければなりませんでした。


勿論、そんな事は絶対に実行しませんけど。


「それなら好きな食べ物とか趣味の情報でいいだろうか?」

「はい、それぐらいなら聞いても大丈夫だと思います」

「あとやっぱり、好きなタイプは聞きたい」

「は、はい。わかりました」


プライバシーを考えても聞きたいのですか。

私は苦笑しつつも承諾します。


「以上でよろしいですか?」

「うむ。かたじけない」

「じゃあ今から受付で聞いてきますね」


ジャスティンさんと離れ、受付に向かいながら、どうやってこの情報を聞き出すかを考えます。


やはり単純に話をして訊く方法が一番良いでしょう。

問題はその訊き方です。

如何に自然に訊くかが重要です。


そうです! 待ち人作戦でいきましょう。

船で観光に行った人を待つと言って、世間話を持ち掛けるのです。

この世間話で情報を訊き出すという作戦です。


この作戦なら自然に情報を聞けますし、怪しまれる事もないと思います。


そして私は、想太朗さんが帰ってくるまでの時間も考えなければいけない事を思い出しました。

想太朗さんが帰ってきた時に私が元の部屋に居なければ、咎められるのはローラさんですから気を付けなければいけません。


これらの事を考えて受付に入ると、私はローラさんに話し掛けました。


「あの、すいません。次に帰ってくる船はいつ帰ってきますか?」

「えーっと、あと10分程で到着するわよ」


10分あれば、頼まれた情報を聞き出す事ができるはずです。

この時間を使って世間話をし、さりげなく情報を聞き出す事にしましょう。


「次の船に待ち人がいるんです。待ちながら、ちょっとお話しませんか?」

「えぇ、構わないわよ」

「それなら好きな食べ物を教えてくれませんか?」


私は唐突に話題を振りましたが、ローラさんは笑顔で答えてくれました。


「そうねぇ。ロコモコかしら」

「ロコモコ……ですか?」

「そうよ。ご飯の上にハンバーグと目玉焼きを乗せてソースを掛けるの。どれもご飯とマッチして美味しいのよ」

「へぇ~、美味しそうですね」


ローラさんの好きな食べ物はロコモコ、と……。


「私はクリームシチューという食べ物が好きなんです」

「聞いた事だけはあるわね」

「作り方は知らないのですが、牛乳とバターの濃厚なスープが美味しいんです。趣味の散歩の途中に食べると心も落ち着けるんです」

「そうなんだ~」


「趣味が散歩って、ちょっと地味かもしれないですけどね……。ローラさんの趣味は何ですか?」

「私の趣味は……カラオケかしら」

「へぇ、カラオケですか!」


趣味はカラオケ、と……。


「カラオケを作ったのが日本人だから、日本人には感謝してるわよ~」

「有り難う御座います。私が作った訳じゃありませんけど」

「あはは、そうね」

「でも、カラオケって普通は一人では行かないじゃないですか。最近違いますけど、大抵誰かと行きますよね?」

「そうね、やっぱり友達と一緒に行くわね」

「もしかして恋人と行ったりしないですか?」

「そんなまさか~」

「あなたは綺麗ですしスタイルもいいので、恋人もいるだろうと思ったのですが」

「そんな、いないわよ~」


ローラさんには恋人がいない。

これは良い情報ですね、ジャスティンさん。


どうやって実行するのかわかりませんが、これで恋人を紹介してあげられますよ。


「へぇ、意外ですね。もし恋人を作るとしたらどんな人がいいですか?」

「そうねぇ、ワイルドな人が良いわ。筋肉もりもりで、頼れるナイスガイ!」

「なるほど……」


これでローラさんのタイプまで情報を揃えました。

ジャスティンさんが求めた情報は以上になりますね。


それにしても、何故だかローラさんに対して罪悪感があります。

ただ情報を集めているだけなのですが、ローラさんを騙しているように思えるのです。


ですが、ジャスティンさんは恩返しする為に情報を集めているので、きっとローラさんにとって良い事ですよね。

そう私は思って自分を正当化していると、ローラさんは話の脈絡から、こう尋ねてきました。


「あなたのタイプってどんな人なの?」

「私ですか?」


自分自身のタイプを考えた事もなかった私は、すぐに答えられませんでした。

どんな人が好きなのか、唸りながら考えます。


やはり優しい人が良いです。

それはまず前提としてあるはずです。


その他には……いつも静かに笑っているような方が良いです。

心が広くて、包容力がある人も魅力的です。


これら踏まえて、一言をまとめるとすると――。


「どんな事実でも受け入れられる人でしょうか……?」


そう言うと、ローラさんは私の答えを予想していなかったのか、苦笑していました。


「うーん、なかなか深い事を言うわね……」

「あと、眼鏡を掛けている人がいいです」


さらに条件を付け加えると、ローラさんは噴き出して笑いました。

私はどうして笑われているのか、あまりよくわかりませんでしたが、ある事に気が付きました。


私が今挙げたタイプは、想太朗さんに全て一致していたのです。


「あっ、船が着いたみたい。待ってた人が居たのよね?」

「そうでした。えーっと……あれ、乗客の中に見当たりませんね」

「本当に? 電話を掛けてみたら」

「そうしてきますね」


私はそう言って受付を離れ、受付所を出ました。


人を待っているというのはやはり方便ですが、先程言った通り罪悪感があります。


ローラさんの為になるとは言え、嘘を付くとやはり心が痛みます。


それにしても、想太朗さんが自分のタイプ通りの人だったとは感慨ものです。

いや、もしかしたら、想太朗さんを好きになってから自分のタイプが変わったのかもしれませんね。


私は心にしんみりと感じながらジャスティンさんの元に向かいました。




今回は台詞が驚くほど多かったですね。

ガールズトークです。ガールズトークというやつです。

ローラと美尾の話すシーンはこのガールズトークを書く為に描写をできるだけ抜きました。

台詞だけでなんとか状況を表そうとしたんでしたが、どうでしょうか。


それにしても、今回の美尾はいつもと違って悪いイメージが露呈してましたね。

書いている時、僕の頭では美尾が、デスノートの夜神月みたいな顔で「計画通り」と言っている絵が浮かんでました。


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