イルカのジャスティンはワイルドである
イルカって可愛いですよね。人懐っこいですし、つぶらな瞳とか尾ひれとか、癒されますよね。
知ってますか? 白イルカは今や有名ですが、ピンク色のイルカがいるんですよ?
アマゾンカワイルカと言って、その名の通り、アマゾン川に生息する固有種なんだそうです。
シロウスイロイルカというイルカもピンク色をしているのですが、このイルカは見た事があります。
頭を触ってみるとぷるぷるしてて、猫の肉球みたいですごく(ry
妖力で気配を消しながら受付を歩きます。
一応、この後ローラに見つかってもいいように人間化しておこうと思い、トイレに入りました。
個室に入って鍵を掛け、いつものように人間化します。
それにしても最近は人間化にも慣れてきました。
以前よりも妖力を抑えて人間化できるようになり、光の放出も抑えて、より隠密に人間化できるようになりました。
個室の外に人が居たとしても、怪しまれる事はないと思います。
ですから、私は安心して人間化する事ができました。
人間化を終えて、トイレの鏡で姿を確認します。
うんうん……いつも通り、女優の美生とほぼ同じ容姿に変身できています。
そして、妖力で編んだ白いワンピースと麦わら帽子が、涼し気な容姿を演出できていました。
さすが私が憧れる女優の美生さんです。
この服装も似合っています。
人に見つからないようにトイレを出て、受付の外に出ます。
私を呼んでいる誰かを探しますが、声のようなはっきりした手掛かりではないので、すぐには見付けられません。
立ち止まって私を呼ぶ"気配"を探って、ようやくその誰かの居場所を見付けられました。
その場所は受付にとても近くで……いや、近くというよりも受付のすぐ側でした。
ヨットやクルーザーなどを停めている船着き場です。
そこで私は、その場所に誰が居たのか思い出しました。
想太朗さんと受付に行く前に会った、あの動物です。
ローラが船着き場によく居ると言っていたあのイルカさんだったのです。
「私を呼んだのはあなたですか……」
私はイルカさんの前でしゃがみ、妖力で話し掛けました。
するとイルカさんは意外にも野太い声で返事をしました。
「おっ、思った通りお前は俺と話ができるみたいだな」
「は、はい……」
「よかったよかった。俺は人に通訳できる奴を探していたんだ」
イルカさんは野太い声でがっはっはと笑っていますが、私は何だか釈然としません。
「んっ? どうしたんだお前、冴えない顔してるが」
「その……言い難いのですが、外見と性格のギャップが大きくてびっくりしてるんです……」
「なんだ、そんな事か。しかしそれは最近話に聞く、ギャップ萌えというやつか。俺にもそのギャップというものがあったのか、良いことだ」
イルカさんはがっはっはと笑っていますが、私は笑う事はできません。
このギャップが人の気を惹くものなのかはわかりませんでしたが、少なくとも私は良いものとは思えませんでした。
しかしイルカにもきっと個性があります。
十人十色と言いますし、私の想像通りのイルカさんが居るはずです。
「君、もしかして失礼な事考えてないか?」
「いえ、意外なギャッブを受け入れるのに必死だったのです」
確かに失礼な事を考えていましたが、私は淡々とそう誤魔化しました。
嘘は付いていませんし、イルカさんは怒っていませんし、この状況は良しとしましょう。
「それでお前は俺の事をイルカさんと呼ぶが、俺にも名前があるんだが」
「あっ、そうでした。イルカさんの世界にも名前はあるはずですよね」
猫又は動物と話せるものの、あまり動物と話した事がなかったので意外に思えました。
しかし、よく考えたら当たり前の事かもしれませんね。
イルカも互いを区別をするはずですから。
「それで、俺の名前だが……」
「はい」
イルカさんはそう前置きした後、何かを溜めるように間を置きました。
前置きの通り、やはり名前を明かすのでしょうが、一体どうしたのでしょう。
私は動かないイルカさんに、そう困惑しながら見つめていました。
それでもそのイルカさんは目を瞑って間を置いていましたが、突然目を見開いたと思うとこう叫びました。
「悪を裁き、善を救う……そう、それは正義の味方……そしてこの俺ッ! ジャスティンだ、よろしくな!」
ドジャァーン!
まるでそんな効果音が頭の中で響きそうな自己紹介を、このジャスティンさんはしてくれました。
しかし私はその効果音が脳内で響いていたものの、心には響きませんでした。
それどころかジャスティンさんの外見と性格によるギャッブが驚くほど大きくなっています。
ジャスティンさんは自信があって、豪快でワイルドな方なのですが、目の前に居るのは瞳がつぶらで可愛らしいイルカなのです。
これほど大きなギャップに私は平静を保つ事ができません。
「それでお前の名前は何というんだ?」
ジャスティンさんは大胆不敵に尋ねました。
私は困惑していましたが、慌ててつつも名乗ります。
「森田 美尾と言います。姿は人間ですが、普段は猫の姿をしている猫又です」
「猫又ねぇ……ふぅん、猫が人間に変身してるのか……」
ジャスティンさんは不思議そうに私を見つめています。
しかし無理もありません。
人間に変身できる動物なんて、私も猫又以外に見た事も聞いた事もありません。
「お前がどこまで人間に近く変身できてるか確かめさせてくれないか?」
「はい、いいですけど……」
唐突に言われて思わず了承してしまいましたけど、一体どうするのでしょうか。
どこまで人間になれているかなんて、鏡で確かめる事以外に試した事もありませんし、思い付きません。
ジャスティンさんはどんな方法で確かめるのかと考えていると、ジャスティンさんはにやりと笑います。
何処かの誰かと同じような笑顔です。
「美尾はさっきからそこにしゃがんでいるけど、俺からするとパンツが丸見えなんだぜ」
「きゃぁぁーッ!」
私は思わず立ち上がって下着を隠しました。
今先程までずっと下着を見られていたと思うと、顔が真っ赤に染まってしまいます。
「ハハハハ! 確かに人間みたいだぜ! そんなに顔を真っ赤にして恥じらうって事はよ!」
「それは良かったですけど、イルカも女性のパンツ見て喜ぶものなんですか?」
「あぁ、女が必死に隠してるから、見れた時は何故か達成感があるってイルカの間でも流行ってるんだぜ」
そんな! イルカ達の間でそんなものが流行ってるなんて!
私は下着を隠しながら、最近のイルカ事情に戦慄していました。
ジャスティンさんのギャッブだけでなく、イルカ全体の印象もどんどん変わっています。
ジャスティンさんに会う以前にあった、純粋で健気というイルカの印象が崩れ落ちています。
次からイルカに会う時の心構えさえも変わってしまいそうです。
「そうそう。茶を濁す話も終わったところで、そろそろ本題に入らせてもらうぞ」
「本題ですか?」
これまでの話で、既にジャスティンさんとの話に気乗りしなくなっていましたが、私は膝を押さえて応えました。
「美尾、お前に情報を集めてきてほしいのだ」
あんな前書きしておいてこんな話、なんだか申し訳ないです(-_―;)
イルカのためにフォローしておきますが、本当はジャスティンみたいに太々しい性格していないんじゃないかと思います。
美尾が持っていた印象の通り、純粋で健気な性格のイルカがほとんどなんじゃないかと思います。
水族館でイルカショーをしているイルカは、ジャンプなどの技が上手くいかないと、自分の自信を失って落ち込んでしまう事もあるらしいんです。
ですから、ジャスティンのような性格のイルカは少ないんじゃないかなと思います。
そして、次回の話は今まで通り、2週間以内には投稿します。
できれば1週間で投稿したいので、頑張って早めに書きますね!




