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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は黒猫である
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小鳥遊 琢磨


「どうもこんにちは。君が美鈴が言ってた美尾さんか!」


琢磨さんは明るい声で言いました。

私も微笑みを浮かべて明るく挨拶します。


「どうもこんにちは。今回手伝わせていただく森田 美尾です」

「いやいや、そんな畏まらなくてもいいよ。むしろこっちが畏まる立場なんだし!」


今日は美鈴さんの家でもある、琢磨さんのお家を訪ねました。

言わずもがな、琢磨さんと会って話をする為です。

これから何かと関わる事が多いですし、手伝う事になったのですから一度はお話しなければ。


それにしても、琢磨さんは思っていたよりずっと若いようです。

30代と聞いていましたけど、あまりそんな風には見えないのです。

顎と口元にある髭と長めの髪が見た目を老けさせていますが、それでも20代の後半ぐらいの年齢に見えます。


でも部屋は散らかって荒れていました。

美術に使う道具が床に無造作に転がっていて、カーテンも閉められたままで部屋は暗いままです。


「いやぁすまないね……部屋を片付ける時間がなくて、カーテンも開けたら借金取りに居留守を使えないんだ……」

「い、いいんです。仕方がない事ですから……」


奥では美鈴さんが部屋を掃除している姿が見えました。

という事は少しは掃除されているという事なのでしょうか。あまり気にしませんけど……。


「それで美尾さん。単刀直入に訊くけど、君も猫叉なのかい?」


本当に単刀直入に訊かれて、私は少し不意を突かれてしまいました。

真実を言っていいものかと迷いましたが、美鈴さんも琢磨さんを信じて告白したんです。

きっと信じるられる人です。


「はい。こんな姿をしていますが、私も猫叉です」

「へぇ……でも確かに魔性めいたオーラがあるよなぁ……」

「オーラ、ですか?」

「いやなんでもないよ。なんでも」


琢磨さんは否定した後、美鈴さんが淹れたお茶をすすりました。

人にも妖力から成るオーラが見えるんでしょうか?


「それにしても何年も絵を描いてるなんて、本当に画家を目指しているんですね」

「そうだね……いい歳した大人にもなって恥ずかしいけど」

「いえ私は立派だと思いますよ。その夢を少しでも手伝えるなんて、光栄です」

「ありがとう。そう言ってくれるのは君と美鈴だけだよ」


琢磨さんは嬉しそうににっこり笑って言いました。

本心から成る、淀みない綺麗な笑顔です。


しかし私は琢磨さんの言葉が気になりました。

立派だと言ってくれるのは私と美鈴さんだけ。


それなら他の人はそうは言わず、逆に諦めなさいとか、大人になりなさいと言っているのかもしれないと思ったのです。


そうだとすると、夢を追い続ける事は大人気ない事なのでしょうか。

私はそう思いませんが、世間ではそんな風に捉えられているのでしょうか。

夢を諦めて財産や名誉を手に入れるよりも、夢を叶えた時の方が至福だと私は思うますのに。


人も本当は幸せの方を欲しているでしょう。

財産も、本当は幸福の過程にしか過ぎないもののはずです。


しかし私から見た人の姿は、幸福ではなく財産や名誉を手に入れる為に生きているように見えます。

猫叉から見た人間の姿はその様に見え、幾分遠回りしているかのように見えるのです。


だから私は、夢を追い掛ける琢磨さん、そして想太朗さんを立派に思えました。

心からこの二人を応援したいと思えたのでした。




その日から私と美鈴さんは、琢磨さんの為に一緒に月見里神社でアルバイトをしていました。

琢磨さんが生きる為に必要なお金、借金を返すお金を稼ぎました。


毎日働いていましたが、それほど苦ではありません。

美鈴さんと一緒に楽しく働いていますし、人の為に働いていると思うと自分に誇りを持つ事ができるからです。


それに誰かと一緒に何かをするという事は楽しいとは思いませんか?

アルバイトに限らず人と一緒に何かをすると、一人で行うよりも楽しい、と私は感じるのです。


それと、私達は琢磨さんの油絵の宣伝もしていました。

演奏会や講演会などを行っている講堂を回り、琢磨さんの絵を飾らせてもらったりしました。


勿論断られる講堂もありましたが、さすが長年描いてきた琢磨さんの絵です。

これまで3ヶ所の講堂が琢磨さんの油絵を飾ってくれて、宣伝は滞りなく成功していきました。


まだ展示してくれそうな場所はありますし、とりあえずは沢山の人の目につくようになったのです。

そんな日々を過ごし、2週間の時が過ぎました。


今日は私にとって大きな日です。

前々から楽しみに待ち望んでいた日、想太朗さんとデートする日です。


私は人間とデートする事はいけないのかもしれないと悩んでいましたが、私はこのデートだけは行こうと決めていました。

このデートに行ってしまえば、もっと想いは募ってしまうでしょうが、それでも想太朗さんと行きたいと思ったのです。


だから私は、その問題を気にしながらもデートを楽しみにしていました。

そして今日になって、どんな服を着て行こうかと、想太朗さんの事を想いながら服を選んでいます。


清潔さ漂う白いワンピース、カジュアルにYシャツとネクタイ。

色々な候補を挙げましたが、リボンがついたパステル調の赤い服にコートを羽織り、プリーツスカートとタイツという服装にしました。


巫女さんの服以外の服はいつも妖力で服も発現させていますが、今回はちゃんと服を買い、本物の服を着て想太朗さんを待っていました。


この日、私が待ち合わせ場所に着いたのは30分前です。

待ち合わせ場所の駅前に立ち、色々な事を考えながら待っていました。

服は変ではないかとか、デートの時想太朗さんとどんな事を話そうかとか。


そうしている内に30分はすぐに経ち、待ち合わせの時間になりました。

私はいよいよ緊張してきて、胸の鼓動が早く打つようになってきました。

手を当てて確かめなくてもそれがわかります。


そんな時、誰かが私の肩を叩きました。

控え目で優しい手つきの叩き方。


誰だろうと後を振り向いてみると、その瞬間私の頬に指先が当たりました。

想太朗さんが私の頬に人差し指をつついていたのです。


「そ、想太朗さん……!」

「やぁ、待った?」

「そ、そんなに待ってませんけど、どうしてつつくんですか?」

「いやぁ、なんかからかいたくなっちゃって……」


楽しそうに笑っている想太朗さんに頬をつつかれて、私の顔は真っ赤になってしまいました。

私は頬を膨らませて抗議します。


意外です。

想太朗さんってこんなやんちゃな一面があったんですね。


でも、そんな面を見せてくれたという事は、私に心を開いてくれているという事でしょうか……?


「もう、からかわないでください」

「ごめんごめん。じゃあ行こうか、時間なくなっちゃうから」

「もう……わかりました」


私は想太朗さんに怒った振りをしながら一緒に駅に入っていきました。

ドキドキした気持ちを隠しながら。



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