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第1話 趣味 『ゴミ拾い』

「ジリリリリ……」


 太陽が顔を出す少し前に、目覚まし時計が俺を夢から覚ました。

 二段ベットの上からフローリングの床に着地すると、机に置かれた時計の頭を軽く叩く。わざとベットから離れた場所に目覚まし時計を置くのは、二度寝を防止するためだ。

 二度寝したくなる衝動を抑えながら机の上にある携帯を手に取り、パカリと開く。

 液晶には大自然の待ち受けと、本日の時刻が映し出されている。


7月8日 (日) AM 06:00 と……。


 ここで重要になってくるのは意外にも曜日だったりする。時刻もそれなりに意味を持っているが、日付は米粒ほどの役割しか持っていない。

 7月8日が七夕の後日であるとか、二週間後が待望の夏休みだとか、全て今日と言う日には無縁だ。

本当に必要なのは、今日が『第二日曜日』であることだ。

 俺の住んでいる『銀掘町ぎんぼりちょう』では、毎月第二・第四日曜日に『町内清掃』と呼ばれるゴミ拾いがある。そんな老人が進んでやりそうな町の行事に、俺は進んで参加している。

 寝巻着ねまき姿からそれほどダサくないだろうと思う服に着替えていると、ノックもなしにドアが開いた。


拾人ひろと、そろそろゴミ拾いに行くぞ」


 現れたのはアゴヒゲが濃く、ビール腹の中年。父『広見こうみ 茂夫しげお』だ。


「わかった」


 一言返事を済ませ、俺はさっと部屋を出た。




 二階にある俺の部屋から階段を降り、リビングまで到着すると床に敷かれたカーペットの上で寝転がる姉『広見こうみ 愛奈あいな』を見つけた。


「愛奈。ゴミ拾い行くぞ」


「眠いよ~……」


 声を掛けてもカーペットの上をゴロゴロと転がり、離れようとしない。こうなってくると俺の出番はない、放っておいても父が叩き起こしてくれるからだ。

 そうこうしている内に、二階から重い足音が聞こえてきた。すると愛奈は人が変わったように飛び起き、玄関まで駆け抜けていった。


「ほれ、これ持ってけ」


 手渡されたのは小さな草が付着した小汚い軍手に、スーパーで手に入る大きめの袋。これを我が家では『ゴミ拾いセット』と呼び、恵愛けいあいしている。

……父さんだけ。




 軍手と袋をポケットに詰め込み、いざ外に踏み出すと、そこには尋常でないほどの落ち込みをみせる愛奈がいた。

 いつもはそこまで落ち込まないのに……なにかあったのか?


「拾人~……見てよあの道路……」


 愛奈に言われるがまま道路に目を合わせると、思わず悲鳴を上げてしまった。


「うお!? なんだこりゃ?」


 見渡す限りゴミ、ゴミ、ゴミ。まるでどこぞのスラム街でも眺めているようだ。

 おかしい……月に二回でも清掃を行っているのだから、いつもはこれほど汚れてなどいないのに。


「おお! こんなにゴミが散乱してるなんて、やりがいってもんがあるじゃないか」


 遅れてやってきた父さんが歓喜の叫びを上げている。この人ほどゴミ拾いが好きな変人はいないだろう……。


「昨日のへっぽこ台風のおかげだな、喜べお前ら」


 そう言うと豪快に俺と愛奈の背中を叩いてくる。

 そうだ、思い出したぞ。昨日は台風がここ銀掘町に直撃したんだよな……いや、正確には直撃『しかけた』の方が正しいな。例の台風、銀掘町にぶつかる前に低気圧に代わったせいで、暴風雨からただの暴風に弱体化したんだよな。

 そのおかげで、本当は中止になるはずだった町内清掃がそのまま実行されることになった。と愛奈が愚痴ってたな。


「いや~……」


 落胆する愛奈を引きずりながら俺たち広見一家は公民館を目指した。そこで清掃に参加してくれる人(大体が老人)と落ち合い、どこを担当するのか――などなどを決める。




 自宅から北へ五分ほど歩くと、公園が見えてきた。

 『銀掘公園ぎんぼりこうえん』と呼ばれており、広さもそれなりにある。

 横に長い作りで、東側にブランコや滑り台と言った遊具、それと相撲すもうの際に使用する土俵があり、西側はプチ野球ができる程度の広さに、腰を休めるベンチが一つ二つ置かれている。

 要は、東側は遊具で遊び、西側は追いかけっこなどで遊べるように出来ている。

 余談になるが、昔はこの公園でひたすらに銀を掘っていたらしい。ゆえにこの公園は――いや、この町は『銀掘町』なんて呼ばれるようになったとか。

 そんな銀掘公園も、今は目を向けたくないほどにゴミが散乱しており、愛奈はそれを見るだけでため息を漏らしている。

 公民館はここから西にある。俺たちは公園を左折し、真っ直ぐ進んだ。




 銀掘公園を通り過ぎると、公園のすぐとなりにどデカイ病院が鎮座ちんざしている。

 『銀掘病院ぎんぼりびょういん』だ。どちらかと言うと田舎に近い銀掘町に不釣り合いなほどの大きな病院。

 一軒家ばかりの銀掘町で五階建ての、さらに屋上にヘリポートまでついているこの病院はかなり目立つ。

 かくいう俺も、過去に三回ほどこの病院にお世話になったのだが――ここの病院食はマズイ。お医者さんや看護婦さんは皆いい人ばかりなんだが、病院食だけは食えたもんじゃない。

 あの生暖かいトマトの感触を思い出し、鳥肌を立てていると、病院の入口でゴミをはらっているナース姿の看護婦さんを発見した。

 彼女は『島乃しまの 栄子えいこ』さん。俺が初めて入院した時からこの病院に勤めているが、いまだ未婚の三十代。彼氏はいるとの噂もあるが、定かではない。


「おはようございます。今日はゴミが多いですね」


「まったくですよ、子供たちが『拾いがいがあっていいね』なんて言うもんで困っちゃって」


 わざわざ言葉を捏造ねつぞうする父、茂夫。

 その捏造になんの意味があるのか? と疑問に思いながらも簡単な挨拶を交わす。

 栄子さんには何度もお世話になっているし、無視をするほど俺の性格は腐ってない。


「ねえねえ、拾人君」


「はい?」


 手招きされるがままに栄子さんの元に駆け寄ると、小声でなにか伝えてきた。


「もし、今日のゴミ拾いでジグソーパズルのピースを見つけたら、捨てずにあたしの元に持ってきてくれない?」


「ピース? 別にいいですけど――」


「ほんと? よかった~、一時はどうなるかと思ったけど、ゴミ拾いが趣味の拾人くんがいれば十人力ね。それじゃ、お願いね」


 トントン拍子で話が進んでいく……、まあゴミ拾いが趣味か? って聞かれたら否定はできないし、いっちょやるか。

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