人間コクピット
若干グロテスクな描写があります。
あと生きてる理由なんてどうでもいいですよね。楽しければ。という訳であんまりおすすめしません。
書いた中でも特に駄作です。おすすめしません。
生きる理由とは、また愛の『一般論』、『人と人を隔てる壁』とは何なのか。人とは何に生き何に死ぬのか。
※2012年11月24日、土曜日、午前1時、修正致しました。
人間コクピット
◆1
過酷な労働の後には、おかしな事を考えがちである。
少なくとも私はそうだ。
◆2
暗い夜道を1人歩く男が居る。
男は、加藤四郎であった。
日々ただ生活をする為に働き、夜遅くに家へ帰る。
ひたすら働き続け十数年。
彼は生きる事に虚しさを見出していた。
暗い夜道を1人歩いて帰る。
帰る家に家族は居ない。
結婚なぞくだらない。その考え方だけは若い頃から変わらない。
実家の両親ともここ半年は会っていない。
私はただただ生きる為だけに徒に働いてきた。
私は、『漸く』と言うべきだろうか、この歳になって生きる事に虚しさを見出していた。
…私は何ゆえ働いているのだろう…
考えなくても分かる事だ、生きる為である。
…私が生きる事に何か意味はあるんだろうか…
柄にもなく哲学的な事を考えてしまう。疲れた時はいつもこうだ。
…いかん…
生きる理由なぞいくら考えても仕方がない。
生きているから生きるのだ、死にたくないから生きるのだ。
人はなぜ死にたがらないのだろうか。
◆3
こんな話がある。
人間は魂を鍛える為に人の体を使って修行している。
…それなら罪を犯す人間は何なのだ…
快楽だけを貪りつづける人生はごめんだ。
…死んだらどうなるのだろうか…
どうもしない、ただ寝ているだけだという人間も居る。
死後魂は別の場所へ行くなどと言う人間もいる。
神を熱心に信じれば救われる、という人間もいる、
…死ぬのは厭だ…
私は年甲斐もなく死を怖がっている。
ただただ永遠に寝ているだけなぞ、絶対にごめんだ。
別段、生きていて楽しい事があるわけでも無いけれど。
◆4
…人を動かしているものは何だろう…
魂か、血か、心臓か。
『魂』という概念は、非現実的だろうか。
私は血が巡っているだけの細胞の塊が意志を持って動くなど考え難いと思う。
…ああ、もうやめだやめだ…
先程からずっと慣れぬ考え事をして、然程教養の無い私の頭はもう限界だ。
◆5
「あら、加藤さんじゃありませんか」
「えっ」
急に前方から現れた女性に話しかけられる。
「今晩は、私、切子です」
…そんな名前の知り合いは居たかなあ…
必死に記憶をまさぐる。
「あッ、君、…山崎君だろ、昔、俺と同じ職場だった」
思い出した。
昔アルバイトをしていた写真店で同僚だった、山崎君だ。
「覚えてくれましたか」
「勿論だ、こんな場所で会うだなんて奇遇だなあ」
「ええ、お久しぶりです」
「いやあ、懐かしいよ、本当に」
「もう十何年振りですね」
「そうだな、どうだ、最近」
「実は、恋人が居るんです」
「ほほう」
「その恋人というのが少し変わっていまして」
「それは、どんな?」
「実は、女の人なんです」
「ええっ」
それはつまり、同姓の恋人という事だ。
私はそういった特殊な恋愛に関しての情報をまるで持ち合わせて居ない。
…人の愛というのは変わったものだ…
人とは何に生きるのか、とふと思った。
山崎君のように一般論の壁を無視し愛に生きるのか。
…それは決して愚かな事じゃあない…
いいじゃないか、本人たちが幸せならば。
しかし人間とはふとした瞬間に違う世界へ行くものだな。
特別な愛というのも、また人間らしいのだろうか。
「上手くやれてるか」
「はい、それはもう」
「それなら良かった」
しかし、あの山崎君が…。
「どうです、久しぶりに」
そう言って彼女が指差したのは小さな居酒屋だ。
はて、…あんな場所に居酒屋はあっただろうか。
…折角懐かしい知り合いと会えたんだ、たまには知らない店もいいだろう…
「それじゃあ、軽く飲もうか」
◆6
「加藤さんは、ご結婚されましたか」
酒がだいぶ回ると、女性は自然とそんな話になるのだろうか。
恐らく訊かれるであろうとは思っていた。
「いいや、まだだよ」
「あら、意外と家庭にすぐ収まるタイプって噂だったのに」
「おいおい、誰が流したんだ、そんな噂」
「それじゃあ、その予定などは?」
「今の所無いな」
「そうですか」
「山崎君、今はどこに住んでるんだ?」
「――町です」
「ほほう」
私が住んでいるのはその隣町だ。
「案外近かったんだなあ」
「そうですね、離れていたと思っていても、人の距離なんて短いものです」
「と、言うと?」
「あ、いえ深い意味はないんですよ」
そう言って彼女はコロコロと笑う。
厭味のない彼女の笑い方は、昔の写真店でも誰1人として敵を作らなかった。
「ねえ、加藤さん」
「何だい、改まって」
「人間って、どうして生きていると思いますか」
彼女もまた、私と同じ事を考えて道を歩いていたのだろうか。
「いやあ、実は私もそれを考えていたんだ」
「答えは出ましたか」
「いや、出ないな。出たらそれは悟りなんじゃないだろうか」
コップを口元に軽く傾け、苦笑する。
「悟り、ですか?」
「ああ、結局生きている意味なんて、死ぬ時に分かるんじゃないかなあ」
「死ぬと、どうなるんでしょうね」
「ううむ、天に召されるだとか魂がもとあるべき場所に帰るだとか諸説あるがね。…少なくとも、私は『神によって救われる』だとか宗教的な事は信じちゃいないよ」
「神様って、いるんでしょうか」
「さあ、どこにお住まいだか知らんね」
軽口を叩く。
「ああ、そういう意味でなく、必要なんでしょうかって」
「うむ?」
必要かって?
私は思わず考えこんだ。神が必要かなど考えた事がないからだ。
第一私はそういった概念にはまるで興味がなかったからだ。
「神というのは、人が信じたいがために作りだした偶像だよ。ああ、これ以上に適切な表現を思い付かんね」
「ううん…何の為にいるんでしょうか、神様って…」
彼女は何やら真剣な顔つきで考え込んでしまった。
何の気もなしに腕時計を見ると結構な時間が経っている事に気がついた。
「もう遅いな、今日はこのへんでお開きとするか」
「あ、そうですね」
「お代は俺が持とう」
「え、いいんですか」
「久々に会えて楽しかった、そのお礼だよ」
「ふふ、じゃあお言葉に甘えますね」
「それじゃあ、近いうちにまた会おう」
「そうですね、これ、うちの番号です」
「ああ、すまんね。…じゃあ、恋人と上手くやってくれよ」
「はい、それでは失礼します」
彼女であれば誰とでも上手くやっていけるだろう。
…人の幸せというものを見るのも悪くないな…
私は酒のせいもあるのだろうが、柄にもなく機嫌よい足取りで帰路についた。
◆7
だいぶ足元がふらついている。
…おかしい、だいぶ飲んだかな…
そこまで酒の量は多くない筈だ。
と、その時、よそ見をしていた私をまばゆい光が照らした。
…いかん…
体が脳みそに付いて行かない。私の体は強い衝撃とともに道路へ投げ出された。
激しいブレーキの音とゴムの焼ける匂いがする。
「だ、大丈夫ですか、しっかりして下さい」
慌てた声がする。若者の声だ。
「い、今、救急車を…」
恐らく、もう駄目だろう。頭を強く打ち過ぎた。
奇妙な感覚がする。
…ここで死ぬのか…
痛みがない。不自然なほどに無いのだ。
…なんだこれは…
頭が割れて行くような感覚がする。しかし痛みはない。
…意識が…
意識が遠のいて行く。私の頭から何かが出たような感覚がした。
それとともに、『いままでの私』の意識は完全に消え去った。
◆8
…ちっ、駄目だ駄目だ、まるで駄目だ。この体ならば悟りを開けるかと思っていたのに。…
瞬間、全てを思い出したような気がした。
私は今何から這い出てきた、急に涼しい感覚、まるでずっと温かい何かに入っていたような。
…畜生、俺は結局何のために生きてるんだ…
私の頭から這い出てきた生き物は、何かに苦悩している。
…畜生、あの神とかいう奴、俺たちをこき使いやがって…
私の小さな体は、徐々に空へ浮かんでいく。
最後に聞いたものは私を轢いた若者の悲鳴。そして最後に見たものは頭が真っ二つに割れて倒れている男性、私だった。
後書きは特になし。
ただ、皆さんの頭の中には何かしらが住んでたりするんでしょうか。
そいつがあなたを動かして何かを研究しているとしたら。
そんな事より俺は今すぐ、いや冬の深夜に外であったかいうどんを食べたい。




