お面屋さんのおとこ
あるところに、旅をするお面屋さんがいました。
お面屋さんはいつも自分の作ったお面を被って、リュックサックを背負っています。
そして、お面は大人にしか売りません。
さて、旅の途中でお面屋さんは町を見つけました。
「よし、次はここにしよう」
お面屋さんはそう言って、嬉しそうな顔のお面を被りました。
「お面はいらんかねー」
お面屋さんは大きな声をあげながら歩きました。
すると、一人の女の子が駆け寄ってきました。
「どんなお面があるの?」
女の子はお面屋さんに聞きました。
「嬉しそうなお面、お上品なお面、可愛いお面、なんでもあるよ」
お面屋さんはそう言って、優しそうな顔のお面を被りました。
お面を変えるのは早技で、中の顔はまったく見えません。
「すごい! 今の、どうやるの?」
女の子は大はしゃぎ。
お面屋さんはお面を色々と変えてみせ、最後に得意気な顔のお面を被りました。
「どうだい、すごいだろう」
「すごい! 可愛いお面ください!」
興奮した女の子は早口で喋ります。
お面屋さんは首を振りました。
「駄目駄目、このお面達は大人にしか売っていないんだ」
「そんなあ」
「お父さんお母さんに宣伝してね」
お面屋さんは女の子を置いて町の中を歩いていきました。
「お面はいらんかねー」
お面屋さんは大声をあげて歩きます。
しばらく歩くと、一つの公園がありました。
「ようし、しばらくここで商売をしよう」
お面屋さんはリュックサックを降ろしました。
シートを敷いて、お面を並べます。
「お面はいらんかねー」
お面屋さんはお客さんを待ちました。
優しそうな顔のお面を被っていました。
一人の男性が声をかけてきました。
「お面屋さんはお面を作っているのかい?」
「そりゃあそうさ。なんたってお面屋さんだからね」
お面屋さんは得意気な顔のお面を被りました。
「どうして作っているんだい?」
「お面屋だからさ」
「そうじゃなくて」
男性は悩んだ顔をしました。
「どうしてお面屋になりたかったのか、聞いているんだよ」
「ああ!」
お面屋さんは納得した、というお面を被ります。
「だって、皆がお面を被ったら幸せな世界になると思わない?」
「どういうことだい」
「悲しくても、笑っているお面を被るんだよ。そうしたら本当に笑っている気分になるだろう、ということさ」
「そんなもんかね」
「そんなもんさ」
男性はしばらく考え込んで、
「それじゃあ、笑っている顔のお面を買おうかな」
と言って、お金を払いました。
「まいどあり」
男性はお面を受け取り、被って帰っていきました。
「お面はいらんかねー」
今度はおばさんがやってきました。
「あら、お面なんて売れないと思うけど」
お面屋さんは困った、というお面を被ります。
「そうなんです。でも、お面は人を幸せにするんですよ」
「どういうことかしら」
お面屋さんは得意気な顔のお面を被りました。
「例えば、パーティにお呼ばれした時はお上品なお面を被るんです」
お面屋さんは上品な顔のお面を被りました。
「あらまあ……」
おばさんはびっくり。お面屋さんがとても上品な人に見えたのです。
「それじゃあ、あたしも貰おうかしら」
「ありがとうございます」
お面屋さんは嬉しそうな顔のお面を被り、上品な顔のお面を売りました。
「ようし、売れたぞ。ここは中々良い町だ」
「お面はいらんかねー」
次に来たのは最初に出会った女の子でした。
「こんにちは、お面屋さん」
「こんにちは」
「ねえ、どうして子どもにはお面を売ってくれないの?」
「子どもには必要ないからさ。僕の売ってるお面は魔法のお面だからね」
女の子は首を傾げました。
「どういうこと?」
「お面を被ることで本来の自分じゃなくなるってこと」
女の子はますます分からない、という顔をしました。
「自分が自分じゃなくなっちゃうの?」
「そう。お面を被って良いのは、自分じゃ駄目な時だけなのさ」
「ふぅーん。じゃあねー」
女の子はあまり納得していないような顔で去って行きました。
「聞きましたよ、お面の話」
次のお客さんは、醜い女性でした。
「可愛い顔のお面が欲しいの。そうすれば、恋人が出来ますよね」
「ええ、もちろんです」
「それじゃ一つ買わせてください」
お面屋さんはお面を渡そうとして、少し考え込みました。
「どうかなさったんですか」
女性に、お面屋さんは言います。
「あなたはそれで良いんですか? 愛されても、愛されているのはお面で、あなた自身ではないんですよ」
女性は何も言えません。
「僕はね、生まれた時とても醜くて、母が僕にお面を被せたんです。顔を見せないように、って」
そう言ってお面屋さんはお面を外しました。
その醜さに、女性はびっくりして逃げ出してしまいました。
「ここももう駄目か」
お面屋さんは悲しそうな顔をしました。
「ま、しょうがないさ。旅を続けよう」
お面屋さんはシートを畳み、リュックサックに詰め込みました。
「さようなら」
そう言って、お面屋さんはリュックサックを背負いました。
笑顔のお面を被り歩き出します。
お面の下を、涙が流れていました。
童話祭無事書き終えることが出来ました。
これは童話と言えるんでしょうか。わからないですね。
お面屋さんのお話でした。
前作『ミルクチョコレート』と同じようなテーマを分かりやすく書いてみました。
誰でもお面は被ってますよね。
○影響を受けたもの達
・ゼルダの伝説 ムジュラの仮面
怖いよね。俺の中のお面屋さんのビジュアルはこのゲームの仮面屋さん。
・オペラ座の怪人
仮面つけてたよね。
○ちなみに
ブログやってます。
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ツイッターもやってます。
https://twitter.com/neetonYQN
宜しければ見て下さいね。
読了ありがとうございました