ハロウィン
「トリックオアトリートぉ!」
ハロウィンの後の早朝の清掃作業に従事していたら目玉が飛び出ているゾンビに出会った。
あれか。オールしちゃった人か。
めんどくさくなる前に立ち去ろうと目を逸らすと、見えてないの?みたいな顔で手を振ってきた。
「ぁれぇ?みーんな大ウケのはずなんだけど……」
「ハロウィンはもう終わりましたよ」
「ぇえ!?」
軽口を言ってみるとなぜか驚かれた。
「お、終わっちゃったの?また来年?」
「また来年です」
あからさまにテンションが下がっていた。泣き出さんばかりだった。こんな人の目のあるところで泣き出さないでほしい。
まるで自分が泣かせたみたいだった。いや、はたから見れば完全にハロウィンの朝に女性を泣かせている男に見えるだろう。
早朝から清掃活動までやってるってのに奴らと同列にみられるのは勘弁したいところだった。
「確かに……そう言われてみれば人がいないと思ってたのよ」
「はいはい、ゴミはありますか?回収してるんで」
「ゴミなんてないのよ、今日のために準備してきたお菓子しか持ってないのよ」
「お菓子?」
「いる……?単価高いチョコもあるのよ」
「いりません」
見ると手持ちのジャックオーランタンのバッグから色々なお菓子を出してきていた。
人通りもまばらな早朝に絡んでくる人に警戒しないわけにはいかない。
落ち着いてみると急に恐ろしくなってくる。
この人はいたって本気で今日がハロウィンだと思っていたのだ。
まだ寝ぼけておかしな返答をしてる線もありうるが、
「お菓子だけに?」
無言で立ち去ろうとすると、走って通せんぼしてきた。
「待って待って!ほんっとに今日はハロウィンじゃないの?今日の夜とかでもなくて?」
「はい」
暇で清掃作業に参加したとはいえ、そろそろ帰りたいと思っていたところだった。
えーどうしよう、とか言っているが、帰ったらいいと思う。
「清掃やってるの?偉いねえ、飴ちゃんあげるねぇ」
今になって気づいたのか、それを口実に飴玉を握らせようとしてくる。おばちゃんか。
「いただけませんって」
「甘いもの欲しくなるでしょ?遠慮しなくていいのよ?」
断り続けると、仕方なく、といった感じであきらめたようだった。
「そんじゃあしょうがないねぇ、ユミコちゃんとか食べるかなぁ」
「それじゃ、教えてくれてありがとうね!」
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」
来年ね、と照れながら笑う姿は、ビルの間から昇ってきた太陽に照らされて、
普通にゾンビだった。明るくなった分グロさが増していた。
首を揺らすたびに目玉も揺れる。露出度が高い格好もやけにリアルな血の気のない肌や腐りかかった傷口が見えるせいで痛々しいだけだった。
彼女はそのまま路地裏の方に走って行った。
何だったんだ……




