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コズミック・ドリフター②欲望の摩天楼(商業ユートピア "アルカディア・ネクサス")  作者: naomikoryo


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第一話:情報屋の流儀

リラ・アステルとの「取引」が成立してから、三日が経過した。

空星陸の新しい「日常」は、彼女の隠れ家――機械と情報に埋め尽くされたあの部屋で始まった。


陸に与えられたのは、部屋の隅に敷かれた一枚のマットと、一日に二本支給される、味も素っ気もないペースト状の栄養バーだけだった。

栄養バーは銀色のチューブに入っており、歯磨き粉のように絞り出して食べる。

味は、湿った段ボールとでも言えばいいのだろうか。

お世辞にも美味いとは言えない代物だったが、飢え死にするよりは遥かにマシだった。

少なくとも、ウロボロスで口にした、あの油の浮いた汚水よりは。


陸の定位置は、部屋の隅のマットの上だった。

そこから彼は一日中、リラの仕事ぶりを眺めていることしかできなかった。


彼女こそが、この部屋の主であり、心臓部だった。

リラは部屋の中央にあるコンソールへ、女王のように腰掛ける。

そして細い指先で、目まぐるしくキーボードを叩き続けた。

壁一面を埋め尽くすモニターには、常人には到底理解できないほどの情報が、常に洪水のように流れ続けている。

どこかの星系の航路図。

企業の株価チャート。

暗号化されたチャットログ。

様々な人種の顔写真が並んだリスト。

そして、どこかの暗い廊下を映し出す、リアルタイムの監視カメラ映像。


時折、彼女はヘッドセットを装着し、クライアントとの通信を始めた。

その様は、まさに圧巻だった。

ある時は、流暢な銀河共通語で企業の機密情報を高値で売りつける、冷徹なビジネスウーマン。

またある時は、誰も知らないようなスラングを操り、裏社会の運び屋と次の仕事の段取りを組む、抜け目のない交渉人。

そしてまたある時は、古代の――すでに死語となったはずの言語を使い、どこかの大学教授らしき老人と、歴史について学術的な議論を交わす聡明な研究者。


彼女はまるでカメレオンのように、相手に合わせて人格と口調を使い分け、この世界のありとあらゆる情報を金に換えていた。

その姿を見ていると、陸は、自分がとてつもない人物と契約を結んでしまったのだという事実を、改めて思い知らされた。


だが、そんな彼女が陸に向ける態度は、徹頭徹尾ビジネスライクで、そして冷徹だった。


「おい、そこの」


彼女は決して、陸の名前を呼ばない。

「あんた」か「そこの」だ。


「栄養バーは一日に二本。それ以上欲しければ、あんたがこれから稼ぐ金で買いな」

「トイレとシャワーはあの奥だ。ただし、五分以上使うな。水の値段は、この星じゃ馬鹿みたいに高い」

「部屋の機材には絶対に触るな。あんたの汚い指紋で私の商売道具が汚れでもしたら、その指をへし折る」


彼女の言葉には、一片の温かみもなかった。

陸は彼女にとって、まだ名前を覚える価値もない、ただの「道具」。

希少なスキル「惑星渡り」を内蔵した、便利な機材。

その程度の認識なのだろう。


死の恐怖から解放されたことへの安堵は、確かにある。

最低限の生存は保証された。

しかしその代償として、陸は、飼い始めたばかりの犬か、あるいはまだ使い方の分からない新しいツールのような扱いを受けていた。

その事実は、じわじわと、しかし確実に、彼の自尊心を蝕んでいった。


ある時、陸は、リラがモニターに映し出された一枚の画像――家族写真のようなもの――を見ているのに気づいた。

そこには、リラによく似た銀髪の男女と、まだ幼い頃のリラが、幸せそうに微笑んでいた。

しかし彼女は、その映像を、まるで虫でも見るかのような、冷たい無感情な目で見つめていた。

陸がその視線に気づくと、彼女は何事もなかったかのように、すぐその映像を削除してしまった。


彼女にも、過去がある。

そしてそれは、おそらく幸福なものではないのだろう。

だが陸には、それを詮索する権利も、資格もなかった。

二人の間にはまだ、とてつもなく厚く、冷たい壁が存在していた。


陸は支給された栄養バーを、味を感じないまま、ただ機械的に胃へ流し込んだ。

ここでの生活に、命の危険はない。

だが、人間としての尊厳は日々、少しずつすり減っていくようだった。


俺は道具じゃない。

空星陸という、人間だ。


その当たり前の事実を、彼女に認めさせるためにはどうすればいいのか。

答えは、一つしかない。

彼女が「道具」として期待している、この「惑星渡り」の力を完全に自分のものにすること。

そして彼女が認めざるを得ないほどの価値を、自らの手で示すことだ。


陸は右腕の、スキルチップが埋め込まれた痣を強く握りしめた。

その黒曜石の紋様が、彼の決意に応えるかのように、かすかに熱を帯びた気がした。

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