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妹の旦那が立ちション常習犯だった

作者: さとう あか
掲載日:2026/02/18

 立ちションは軽犯罪法違反です。

 


 妹が結婚する。なのでその旦那さんとの顔合わせを近くの小料理屋さんでしている。


 大きな企業に勤め、明るくトークも軽快、清潔感があって顔もいい。でも、引っかかる。そしてどっかで見たことがある?職種も違うし、名前に覚えもない。なのに、どっかで見たことがある気がする。


 どこでだ?気のせい?これがデジャヴってやつ?だんだん自分を疑い始めていた時だった。


「すみません、お手洗いに」


 そう言って妹の未来の旦那は席を立ってお手洗いに。立ち上がった姿を見て思い出した。


 私の通勤しているルートにある駐車場で立ちションしている人だ。


 そう、月に一回は必ず見かける。


 人通りもまばらでビルに180度囲まれているので相手はきっと見られていないと思っているから私のことなんて知らないし、わからないのだろう。でも私は知っている。


 月に一回は必ず立ちションしているやつだと。


 このことを思い出したとき、どうすればいいのか悩んだ。妹に事情を説明してこの結婚を考えなおした方がいいと説得するべきなのだろうか。いや、でも毎月のように立ちションしているだけで借金とか浮気をしているわけじゃない。そもそも入籍日も決まっているような二人に結婚も考え直せと言うのは私には荷が重かった。


 話したほうがいいのか悩んでいるうちに顔合わせの食事会は終わった。


 あとで妹と両親にこっそり話してみよう。そう解散した時に思ったのだが、妹が立ちション男と一緒にやってきた。


「お姉ちゃん、ごめんね。先に結婚して」


 おっふ、わざわざそんなことを言いにきたのか?特に結婚願望がなかったので今まで独身だったのだが、妹の中ではどうやら私が結婚したいけどできていない人間ということになっているらしい。


「気にしてないよ、それより結婚おめでとう」


「うん、私お姉ちゃんより幸せになるね」


 前々から私にマウントをとってくるやつだと思っていたがこうもあからさまにやられるのは初めてだった。少し前まであった妹を心配する感情は霧散していった。


「ええ、応援しているわ」


 立ちションのことについて私は妹にも両親にも何も言わず、そっと距離を置こうと決めた。




 そう決心して半年後、実家から連絡があった。なんでも相談したいことがあるとのことだがどうせ結婚しろせっつくだけだろうと思っていたのだがなぜか妹もいて実家は重い空気に包まれていた。明らかに『いいひとはいないの?』『結婚しないの?』とつっつくような様子ではない。正直妹の結婚式か妊娠がわかったのかと思ったがそうでもなさそうだった。


 どうしたのだろうと構えていた。だが帰ってこいと言われて往復30分の実家にやってきたが誰も何も話さない。流石に鈍感な私でも何かがあったのかはわかる。何があったのかはわからないが。


「何かあったの?」


 重い空気の沈黙に耐えかねた私は家族にそう聞いた。すると父がゆっくりと口を開いた。


「和正君が入院した」


 和正くん、妹の旦那である。まだ若い彼が入院したと言うことはよほど重い病気なのか。そう考えざるを得ないくらいこの空気は重かった。


「もしかして、癌?」


「違う」


「まさか、心筋梗塞とか?」


「違う」


 考えていたことは全部違った。


「転んで頭をぶつけたんだ。特に目立った外傷も後遺症もないそうだ」


 え、そうなの?なのになんでこんなに空気が重苦しい?


「悪化しそうなの?入院が長引きそうなの?」


「いいや、そんなことはない」


 訳がわからなかった、だったらなんでこんなに空気が重苦しいんだ。こんな私の困惑が分かったようで父が重く口を開いた。


「和正君は数人から示談を持ちかけられているんだ」


「え、なんで?」


「その、和正君は長年に渡って複数の、ビルの壁に損害を、与えて、いたようなんだ」


 この父のなんとも歯切れの悪い返答になんとなく察しがついてしまった。


 ああ、和正は長年の立ちションの示談を持ちかけられているのだと。


 顔合わせの後、私はサラッとではあるもののネットで調べていた。立ちションのことを。


 立ちションは軽犯罪法違反になるが何回かされたくらいでは罪に問うことは難しいと。でも長い間その立ちションをして個人所有の建物に修復不可能、困難だか損害を与えてしまったらそれを賠償しなければならない可能性が高いと。要は損害と認められることもあると。


 しかし、それは証拠が集まらないと難しいということもサラッとではあるが読んだ。


 どう言う状況かはわからない、聞けないが示談をがっつり請求できるくらいの証拠を持って和正が詰め寄られていることは想像ができた。長い期間の立ちションによる損害だとは思ったが。


「いったい何をして示談を持ちかけられたの?」


 そう、何も説明されていないのだ。今の時点でどうして示談なんて持ちかけれているかわからない。私は今まで生きていて示談なんて言葉と無縁に生きてきたから尚更そう思ってしまう。立ちションのことなど決して知りませんといった顔をする。


「和正君は数ヶ所でビルの壁に損害を与えていたようで三人の所有者から示談を請求されているんだ」


 何をしたんだと聞いたのにこの躱しかた、誤魔化そうとしているなと考えるには十分だった。父のこの話し方で私は和正が立ちションでビルの壁に損害を与え示談を持ちかけられていると決めつけた。しかし、三人。考えていたよりも多い人数に驚いた。だが、それを表情に出してはいけないと口元を引き締める。


「ちゃんと払うんでしょう?もちろん和正君のお金で」


「その、三百万づつ請求されてな。和正君の貯金だけでは支払いきれないんだ」


「だったら、示談を申し出ている人たちに交渉するしかないんじゃないの?」


 三百万って大きく出たな。でも長い間ビルの壁汚されたらそれくらい腹が立つよね。


「ふ、二人はこれから結婚式もあるしお金、貯めなきゃいけないから、ね?」


 なるほど。結婚を控えている二人のために独身の私に身銭を切らせようってか。え?九百万近くも?立ちションのせいで?なんとなく事情がわかっているので支払いはどうしてもしたくなかった。それに妹は自分で言ったのだ、私よりも幸せになると。


「私がどうこうじゃなくて、まずは相手と和正君が話してからじゃない?私そんな何もわからない状態でお金貸すって言えないよ。そもそもこういう状況だったら和正君が私にお金貸してくださいって申し出るところじゃ?あと私じゃなくてお父さんかお母さんがお金の工面したほうが今後とも問題はないんじゃない?」


 私が親だったら子供の伴侶が立ちションしたことによる示談金なんて支払うのは戸惑うしできたら払いたくないよなとは思うし、黙っている父母の顔から支払いたくないという気持ちはひしひし伝わってきていた。


「いいじゃん、お姉ちゃんおひとり様なんだから。少しくらいお金貸してくれたって」


 ようやく口を開いたと思った妹は恨めしげにそういった。


「九百万って少しじゃないよ。そもそもお金かして欲しいと思うなら和正君が何したのかちゃんと教えて」


 父、母、妹はみんな口をつぐむ。ここまできたんだから立ちションしていたって言ってもいいんじゃないかと思ったが示談金の大きさからそれ以外のことをしていのかもしれないと思い口にしないようにした。


「詳細がわからないんだったら私は何もできない」


 そう言って私は実家から去った。


 正直に言ってくれれば、これからどうするか一緒に考えられたのに。なんてことが頭をよぎった。でも彼らにとっては立ちションのエリートの旦那様が大事なんだろうとどこか寂しく思った。

















 それは突然のことだった。


「きゃー」


 そんな女性の悲鳴が駐車場から聞こえてきた。


 悲鳴から何かあったに違いないと思って駆けつけるとそこにはパンツを下げた男が腰を抜かしていた。


 この場面だけだったら変質者がでたと思うだろう。だが、違った。


 そこに漂う独特の匂いからそのパンツを下げた男はここで小便をしていたことがわかる。そしてその男は今まで防犯カメラで散々みた顔だった。


 もうこれは巡り合わせだと思った。


 その男の顔は防犯カメラで嫌というほど見ていた顔だったからだ。


 長い間、ここいらのビルに小便をひっかけていくやつがいる。監視カメラで顔や特徴が分かっても名前はわからないし、どこのやつかもわからなかった。だから何もできなかった。が、今こいつは転んでいる。今しかないと思った。


「やや!もしかしたら打ちどころが悪いかもしれない!急いで救急車を呼びましょう!!」


「いや、あの、ぜんぜん、大丈夫なんで」


「そんなことをおっしゃらないで!」


 そうだ、そんなことを言うな。やっとお前の名前も住所も勤め先もわかるかもしれないチャンスなんだから。


 悲鳴をあげた女性にここは大丈夫だ、後で連絡して欲しいと俺の名刺も渡して帰らせた。


 立ちション野郎は顔色が真っ青だ。


 やっとお前からビルの修繕費用が請求できると考えたら思わず顔がにやける顔をどうすることもできなかった。


 何を考えたのか、立ちション野郎は顔色が青から白になっていた。





 

 立ちションは軽犯罪法です。

 排泄はトイレでしましょう。

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