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アルスレア  作者: ゆきつき
第四章 ラグノアの森

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38/40

ー5ー 森での邂逅

「――!」

「――」


声が聞こえる。

知らない声だ。


体がゆっくりと、規則正しく揺れていた。

地面に足がついていない感覚。


――運ばれてる……?


ぼんやりとした意識の奥で、そんな考えが浮かぶ。


「だからさ、そこら辺に放っとけばいいだろ? なんでわざわざ連れてくるんだよ」


「この森には魔物が出る。放っておけば、食われる」


「ソポルの実を食ったアホだぞ? 自業自得だろ」


「……まだ子供だ」


「じゃあ、なんでガキがこんなとこに一人でいるんだよ?」


「知るか。それは本人が目を覚ましてから聞け」


会話が、頭の上を通り過ぎていく。

意味はわかるのに、うまく掴めない。


ロイは、ゆっくりとまぶたを持ち上げた。


視界の端に、誰かの背中が映る。

その背中が、一定のリズムで上下している。


――誰かに……背負われてる……?


確かめようとして、わずかに体を動かした。


「ん? 気が付いたか?」


「んー、まだ寝ぼけてるな。よし」


「おい、サグロス。何するつも――」


「起きろー!!」


「うわぁ!?」


耳元で炸裂した大声に、ロイは反射的に身をのけぞらせた。

次の瞬間、視界が大きく回転する。


「う、わ――っ!」


「待て! 暴れるな!」


支えが外れ、どしん、と背中から地面に落ちた。


「っ……う、うぅ……」


鈍い痛みが走り、思わず声が漏れる。


「おい! 大丈夫か!?」


「レイド、ちゃんとおぶっとけよなー?」

サグロスはケタケタと笑っている。

「お前が言うな!」


ロイは背中を押さえながら、ゆっくりと体を起こした。

額に手を当てると、頭の奥がじんわりと重い。


「……なんか……頭が、ぼーっとする……俺……どうしたんだ……?」


「森の中で眠りこけてたお前を、俺たちが偶然見つけた」

そう言った男が、一歩前に出る。

「その症状は、ソポルの実の影響だろう」


「……ソポルの実?」


「お前が食った、青紫色の果実だよ」

もう一人が肩をすくめた。

「あれには強力な睡眠作用がある。この辺じゃ常識だぞ?」


「……そう、ですか……」

ロイは小さく息をつく。

「……やっぱり、食べるのはやめた方がよかったのか……」


そこで、ふと違和感に気づいた。


「……ん? 俺……誰かと……喋ってる……?」


顔を上げると――


黒髪にヘアバンドを付けた青年と、右の眉に薄く傷を残す、鋭い目つきの男がいた。


「……人……」


思わず、声がこぼれた。


「人だ……! ようやく会えた……!」


ロイは勢いよく立ち上がる。


「すみません! ここはどこですか!? 王都には、どうやって行けばいいですか!?」


あまりの勢いに、二人は目を見開いた。


「……迷子?」

ヘアバンドの青年が、首を傾げた。


「一旦落ち着け」

低い声で、もう一人が言う。

「ここは王都の北東に位置する、ラグノアの森だ」


「ラグノアの森……」


「そうだ。ここから王都へは、陸路で五日ほどかかる」


「……五日……」


ロイは、胸の奥で何かがすとんと落ちるのを感じた。


「お前は、どうしてこんな所にいる?」


「えっと……」

ロイは言葉を探しながら、ゆっくりと説明する。


「船で王都を目指していたんですけど……途中で魔物に襲われて……救難艇で脱出して……そのあと、波に呑まれて……

今日、ここから少し離れた場所に着きました」


「波に……」

男が目を細める。

「四日前に発生した、あの大波か。あれで、旅船や漁船もかなり被害を受けた」


「……そんなことに……」


「災難だったな」


「なあ、レイド」

もう一人が腕を組む。

「そいつ起きたなら、もういいだろ? さっさと行こうぜ」


「子供を森に一人残すのは危険だ」


「……一人?」


ロイは、その言葉に引っかかり、辺りを見回した。


木々の影。

地面。

背後。


――いない。


「あっ……あの! ピンクの子は、一緒じゃないんですか!?」


「ピンクの子?」

ヘアバンドの青年が首を傾げる。


「……いや」

レイドと呼ばれた男も視線を巡らせる。

「俺たちが見つけた時は、お前一人だったが」


「そ、そんな……!」


ロイは唇を噛んだ。


「……俺が寝てる間に……どこかに行っちゃったのか……」


明らかな動揺が、声ににじむ。


「その子は……どういう子だ?」


「えっと……ミネアから預かった子で……まだ……生まれて、半年くらいで……」


「……は?」

ヘアバンドの青年が固まる。


「……半年?」

レイドも眉をひそめる。


「それ、完全に赤ん坊じゃねーか!!」


「え? あ、はい……まだ、小さくて……」


二人は顔を見合わせ、無言になる。


やがて、レイドが森の奥へ視線を向けた。


「この森には魔物が出る。そんな赤子を、一人にしておくのは危険だ」


「……魔物……」


青ざめるロイの反応に、場の空気が一気に重くなる。


「ちっ……面倒くせぇな……」

青年が頭を掻きながら舌打ちする。


「放っておくわけにはいかない」

レイドはきっぱりと言った。

「急いで探そう。俺たちも手を貸す」


「……本当ですか!?」

ロイは、思わず声を上ずらせた。

「ありがとうございます!」


――その頃、森の奥にて。

小さな影が、必死に羽ばたいていることを、

ロイはまだ知らなかった。


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