ー2ー 誰もいない海岸線
海岸線に沿って歩いて数時間が過ぎた。
太陽の位置が変わっても、目に映る景色はほとんど変わらない。
寄せては返す波の音。
砂を踏みしめる自分の足音。
それだけが、ひたすら続いていた。
勢いよく飛び出していったミーオも、今はロイの腕の中で静かに眠っている。
小さな体が規則正しく上下するのを感じながら、ロイは前を見つめた。
「……どうしよう」
思わず声がこぼれる。
「だいぶ歩いてるのに、誰とも会わないな……」
海岸線はどこまでも伸び、行く先にも振り返った先にも、人の気配はなかった。
ロイは足を止め、片側に広がる森へとちらりと視線を向けた。
深い緑が折り重なるように広がり、奥は昼間だというのに薄暗い。
風は吹いているはずなのに、葉ずれの音はほとんど聞こえなかった。
「森を進むべきかな……」
ぽつりと呟く。
「けど、結構深そうだし。日が暮れるまでに抜けるなんて、無理そうだよな」
答えは出ないまま、ゆっくりと足を前に出した。
そのとき――
ぐうううう、と、やけに大きな音が鳴った。
「……あ」
踏み出しかけた足が空中で止まる。
「そういえば……陸に着いてから、何も食べてなかった……」
腕の中で、小さく身じろぎがした。
「……ぴゅ?」
ミーオが目を覚まし、きょとんとした顔でロイを見上げる。
「あっ……ごめん。俺のお腹の音で起こしちゃった?」
「ぴゅあぁぁ……」
ミーオは眠たそうに大きなあくびをして、翼を伸ばした。
その仕草に、ロイの口元がわずかに緩む。
「ミーオも起きたし……何か食べ物でも探そうかな」
視線を海へ向ける。
「海は……魚を獲ろうにも、道具が何もないな」
ふと、船での出来事が脳裏をよぎった。
腹を空かせたロイに、笑顔で釣り竿を貸してくれたティオ。
そして、ノヴァダイを釣り上げるのを手伝ってくれたオルフ。
たった数日前のことなのに、ずいぶんと遠い昔の出来事のように思える。
――あの時の二人は、今ここにはいない。
その事実が、遅れて胸に落ちてきた。
ここにいるのは、自分とミーオだけだ。
物思いに沈んでいると、頬に軽い衝撃が走った。
「……?」
ぺち、ぺち。
「きゅう?」
ミーオが小さな前脚で、ロイの頬を叩いている。
「あ……ごめん、ごめん」
ロイは苦笑し、頭を軽く振った。
「ちょっと考え事してた」
改めて周囲を見回す。
海岸には、相変わらず何もない。
「海辺で食べ物を探すのは難しそうだし……森に行ってみようか」
森の奥を見つめながら、続ける。
「少しだけだ。何か見つけたら、すぐ戻ろう」
「ぴゃっ!」
短く、元気な返事。
その声を合図に、ロイは森へ向かって一歩踏み出した。
海風が背中をなで、波の音が少しずつ遠ざかっていった。




