ー18ー悔恨の涯
――なにかが、頬をつついた。
途切れていた意識が、微かな刺激に引き戻される。
「……ぴゅ?」
かすかな声。続いて、小さな重みが胸にのしかかり、ざらりとした舌が顎をなめた。
「……ん……?」
ぼやけた視界がゆっくりと焦点を結び、ピンク色の丸い影が揺れる。
「……ミーオ……?」
「ぴゅお!」
ミーオは嬉しそうに跳ね上がり、救難艇の中をくるりと舞った。その拍動のような羽ばたきに合わせて、水面を揺らした柔らかな光が窓から差し込む。
夜が明けている――闇と恐怖の圧が、ふっと消えたように感じられた。
ロイはしばらく床に転がったまま、空虚な天井を見つめていた。
静かな波音。揺れる光。
心臓の鼓動だけが、自分が生きていることを確かに知らせていた。
どれほど時間が経ったのかはわからない。
だが、あの怒涛の日の出来事だけは、ゆっくりと脳裏に戻ってくる。
メデュラーゲ。
アルスレアの武器化。
エラストケロナ。
人造種。
体の奥まで震えた、あの鈍い爆発音。
そして――救難艇を呑み込んだ波。
ロイは息を呑み、腕で顔を覆った。
「……マルクさん、ティオさん、フェルドさん、オルフさん……ミネア……」
喉の奥が熱くなる。
「……くそっ……くそ……!」
声が震えた。
胸が痛いほど締めつけられ、うまく息が吸えない。
ようやく戦えたと思った。
初めて、ほんの少しでも皆の隣に立てた気がした。
錯覚でもよかった。そう思いたかった。
だけど、現実は――自分は最後まで、誰かに庇われるだけの存在だった。
守られて、逃がされて、何もできない足手まといで。
皆が命を張って戦っているとき、自分は何もできなかった。
顔のすぐそばに、ミーオが心配そうに降りてくる。
「……ごめん。ミーオ……ちょっと……一人にさせて……」
ロイは目を閉じた。
瞼の裏には、最後に見た皆の姿だけが焼きついて離れない。
――あのあと、彼らがどうなったのか。
考えようとするたび、最悪の情景ばかりが勝手に浮かんでしまう。
胸の奥のどこかが、ゆっくりと裂けていくような感覚がした――
静かな海を、救難艇が規則的な揺れを刻みながら進んでいた。どこまでも青く、ただ波紋だけが広がっていく水面の上に。
ロイはただ一人、果てのない海に取り残されていた――




