ー16ー魔導砲発射
ミネアの指示を受け、仲間たちはそれぞれの役目へと動きを切り替えた。
迫る触手を槍で断ち切りながら、フェルドは甲板を駆け抜けた。
その勢いのまま船内への階段を跳び降りる。
背後では、ミネアの魔法が海水を巻き上げ、鋭い風刃となって触手を切り裂いた。
触手が裂けた反動で海水が弾け、冷たい飛沫がマルクとティオに降り注ぐ。
二人はそれを意に介さず、白と赤の軌跡を描いて甲板を駆け回った。
オルフは盾を解き、戦斧を構えた。
守りから攻めへ――その姿が雄弁にそれを物語っていた。
豪快に振り回した斧が、触手をまとめて薙ぎ払う。
戦場は一瞬たりとも静まらない。
潮と魔力の匂いが混ざり、光が散っては消えていった。
ーー
フェルドが船橋に飛び込むと、素早く魔導砲の準備に取り掛かった。
水晶パネルが揺れる光を放ち、文字が浮かび上がる。
《魔力充填:92%》
「……よし」
その横で、魔力感知機の水晶盤が警告色の光を走らせた。
波形が深く沈み込み、鋭い線が船底方向へと伸びている。
《敵影探知──深度1200以上。接近方向:真下》
「やはり……中尉の感知どおりか」
通常の魔導砲運用では、最大出力で撃つ際は“船の真下から外した位置”を狙うことが鉄則だ。
直下に撃てば、衝撃波を自艦がまともに受ける危険がある。
だが今、敵はあえて死角となる船底の真下から触手を伸ばしてきていた。
まるでこちらが撃つ方向まで読んでいるかのように。
「……つくづく厄介なやつだ」
フェルドは小さく息を吐き、指を迷いなく水晶パネルに走らせた。
最終魔力圧縮を開始する。
深度を1000メートル──いや、敵影はそれより深い。
深度設定をさらに下げ、俯角を70度へ設定。
魔導砲内部で、白金の光に赤橙の火流が絡みつき、脈動とともに船体全体へ重い魔力の音が響いた。
船首の砲門下部で厚い装甲板が重々しい音を立ててスライドする。
普段は閉ざされたままの船首下部が、砲身の可動域を確保するようにゆっくりと口を開く。
船首に据え付けられた鈍い銀色の砲身が、低く軋む金属音を響かせながら、ゆっくりと下方へ角度を変えていく。
やがて傾いた砲身の先端が海底の闇をまっすぐに指し示し、その輪郭を淡い金色の魔力光がうっすらと照らした。
そして、フェルドは船内全域に静かだがよく通る声で告げる。
「30秒後に魔導砲を発射する。総員、衝撃に備えろ」
その声は船の隅々まで伝わり、仲間たちの動きを瞬時に引き締めた。
ミネアの瞳が細く鋭く光る。
「衝撃に備えて、防御結界を張ります。皆さん、時間を稼いでください!」
ミネアは杖を強く握りしめ、全魔力を一点に収束させた。
その前方では、
オルフが雄叫びとともに斧を叩きつけ、マルクとティオが息を合わせた連撃で畳みかける。
三人の動きは極限まで研ぎ澄まされ、まるでこの瞬間にすべてをぶつけるかのように――最後の猛攻が炸裂した。
「天を巡り、万象を統べる風霊の導き手よ――
流れを束ね、穏やかなる守護の環を成せ。
迫り来る禍を打ち払い、我らを包み守れ。
《アエリス・プラエシディウム》!」
フェルドのカウントダウンの声が響く。
「5」
ミネアの足元から広がった風の紋が、仲間たちへ、そして船全体を包むように伸びていく。
「4」
魔導砲の砲口に光が凝縮し、淡い金色の球体が海面を昼のように照らした。
「3」
過負荷に耐えきれず水晶パネルの表面に細かなヒビが入り、船全体がその暴威の魔力に悲鳴を上げる。
「2」
柔らかな光が風の紋と結び合い――淡く緑を帯びた透明な球体の防御結界が瞬く間に形成された。
「1、発射」
結界が展開されるのと同時に、砲口から莫大な魔力が海底へ向かって放出された――




