ー8ー光は醒め、刃となる
ロイが、覚悟を決めて駆け出した。
「坊主っ!?」
オルフが驚きの声を上げる。
突如として前線へ飛び出したロイに、誰もが一瞬、息を呑んだ。
甲板に鳴り響く足音。
吹きつける潮風が、ロイの髪を乱暴にかき回す。
明るい茶色の髪が夕陽を受けてきらめく。
その姿は、まるで光の粒をまとっているかのようだった。
ロイの表情は、どこか別人のように澄んでいた。
(あいつ……何してやがる!?)
ティオが反射的に双剣を構え、マルクが眉をひそめる。
だがその中で、ただひとり――ミネアだけが、何かに気づいたように目を見開いた。
「……まさか――!」
ロイの握った拳が、光を帯びていた。それはただの魔力の輝きではない。
生命の鼓動のように、脈動している。
メデュラーゲの群れが波を蹴って襲いかかる。
それを正面から受けるように、ロイは迷いなく突き進んだ。
刹那――
蒼白い閃光が、戦場を照らした。
海風が乱され、潮の匂いが弾ける。
ロイとメデュラーゲがすれ違う瞬間、眩い一閃が走った。
時が一拍、遅れて動いた。
断たれた影たちが、音もなく崩れ落ちる。
ロイの手には、一振りの白銀の剣。
夕陽を受けてきらめくその刃は、蒼白い光を宿し、まるで祈りの残光のように揺らめいていた。
ティオが、唖然とした表情で目を丸くする。
「……マジかよ。あいつ、成功させやがった!」
マルクが小さく口元を緩める。
「……やったな」
ミネアは風に髪を揺らしながら、静かに呟いた。
「……美しい剣ですね」
フェルドが頷く。
「見事だ」
オルフは豪快に笑い、戦斧を肩に担ぎ直した。
「これは祝杯をあげんといかんな!」
その直後――
海鳴りのような咆哮が、甲板を震わせた。
水面が盛り上がり、巨大な影が海を裂いて姿を現す。
甲羅のような背中。七つの隆起線が光を放ち、海水が噴き上がる。
その巨体は、荒波を割って現れた動く岩塊のように甲板の縁へと迫っていた。
「エラストケロナ……!」
ミネアが息を詰める。
エラストケロナの出現とともに、海水が一気に押し寄せ、船体が大きく傾いた。
フェルドが足場を踏みしめ、すぐさま冷静に状況を読み取る。
「どうやらメデュラーゲは、あれから逃げていたようだな」
オルフは戦斧を解き、喉元のチョーカーに触れた。
黄色の光が弾け、盾が姿を現す。
「ここが正念場だな」
ミネアはすぐに指示を飛ばす。
「ウェールグさん、エルドランさん、ラグナーさん、
グランディアさんの四人でエラストケロナの討伐を。
私とリュースさんは魔法で周囲のメデュラーゲを抑えます。
エラストケロナの甲羅は物理攻撃も魔法も弾きます。
――頭を狙ってください」
「了解!」
鋭い声が四方から返る。
オルフがロイの肩を軽く叩いた。
「坊主、エラストケロナの突進攻撃に気をつけろ」
「わ、分かりました!」
マルクがちらりと視線を向ける。
「ウェールグ。お前がエラストケロナの頭を狙え」
「はっ、はいっ!?」
突然の指示に、ロイは思わず素っ頓狂な声を上げる。
マルクは薄く笑った。
「なんだ? できないのか? こりゃ訓練内容をもっと厳しくしないとな」
「えっ、えっと……」
その横でティオが明るく笑い、双剣をくるりと回す。
「ははっ! 心配すんなって! ちゃんと俺らがサポートしてやるからよ!」
オルフも盾を構えながら、頼もしく言い放つ。
「お前の突撃の道は、俺たちが作ってやる。臆せず突っ込め!」
ロイは一瞬きゅっと唇を噛み、それから強く頷いた。
「――はいっ!」
嵐のような戦いが、いま始まろうとしていた。




