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アルスレア  作者: ゆきつき
第三章 蒼海の試練

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ー7ー海上戦と共鳴

前方から、無数の影が飛び出してきた。


どれも人の上半身ほどの大きさをした、小型のクラゲのような魔物。

半透明の触手がうねり、毒々しい光をちらつかせている。


マルクが低く息を吐き、白い光を手に駆けだす。

一方で、ミネアはその場に立ち止まり、緑の光が静かに脈打つ。


次の瞬間――


マルクの手には鋭い剣が、ミネアの手には美しい杖が現れる。


マルクの剣が風を裂く。

白光が奔り、数体の魔物が一瞬で斬り伏せられた。

その隙にミネアが詠唱を終える。


「穿て、風の槍――《アエリス・ランシア》!」


放たれた風の槍が鋭く、的確に敵を貫いた。

切り刻まれた魔物が光の粒となって砕け、潮風に溶けていった。


「すっ、すごい……!」

圧倒的な光景に、ロイは息を呑む。


「坊主! ぼさっとしてっと、やられるぞ!」


背後からオルフの怒鳴り声。

反射的に振り返ると、側面からも無数の魔物が飛び出してきた。


オルフが腕輪に触れる。

黄色の光が閃き、その手には巨大な戦斧が握られた。


「おおおおっ!」

雄叫びと共に振り抜かれた斧が、魔物の群れをまとめて薙ぎ払う。


その刹那、上空から影が一つ落ちてきた。

ティオだった。

双剣を構え、落下の勢いを乗せて、海面から跳ね上がった魔物を次々と斬り裂いていく。


双剣が振るわれるたび、刃先が赤橙の軌跡を描き、鋼がぶつかるような火花が弾けた。

空気が焼けるような熱が走り、斬られた魔物は蒸気を上げて崩れ落ちる。

鉄と潮が混ざった匂いが、戦場を覆った。


ティオはひらりと甲板に降り立ち、口の端を上げた。


「よお、ロイ! そんなとこで尻餅ついて、腰が抜けちまったか?」


「え、あっ、いや、ちが……!」


返す暇もなく、全方位から新たな群れが押し寄せてくる。


「こいつら、数が多いのが面倒なんだよなー!」

ぼやきと同時に、船内から低く響く詠唱が届いた。


「天に座す雷霆の王よ――

その咆哮を我が手に。

轟け、閃け、すべてを貫け――

《トニトルス・フルグル》!」


直後、空が裂けた。


紫電が幾筋も走り、雨のように降り注ぐ。

鋭い光と振動が空気を貫いた。

閃光が海面を白く染め、波が一瞬、凍りついたように静止する。


次の瞬間、轟音とともに魔物が光の中に溶けていった。


「メデュラーゲ――雑魚に等しい魔物だが、数が多い。触手の毒に気をつけろ」

フェルドが船内から姿を現した。

その手には、雷光をまとった槍がある。


「はっ、はいっ……!」

ロイは反射的に背筋を伸ばした。

(この人たち……強い。訓練のときとは、まるで別物だ……)


「海面下にまだ多数います。エルドランさん、ラグナーさんは出現次第迎撃を。

グランディアさんは応戦しつつウェールグさんの護衛を。

私とリュースさんは魔法で援護します」


「了解!」


四人の声が重なり、再び戦闘が始まった。



マルクとティオが同時に前へ飛び出した。

息を合わせたような連撃が、波のように魔物を押し返していく。


「おう、“黄金コンビ”! 今日も絶好調だな!」

オルフが豪快に笑う。


二人の金髪をからかってつけたあだ名だが、息の合った連携ぶりもあって、今ではすっかり定着していた。

「任せてくださいよー!」

ティオが軽く手を振る。


マルクは露骨に顔をしかめた。

「……その呼び方やめてもらえませんか? こいつとコンビ扱いなんて最悪なので」

「おいおい、コンビって呼ばれて照れてんだろ?

本当、素直じゃないな!」

「誰が照れてるか。そのうるさい口を閉じろ」


ティオが斬撃を放ちながら、にやりと笑う。


「先輩、コミュニケーションとるのも大切だって、誰かが言ってましたよね?」

「お前とそんなものとる気はない。その気持ち悪い言い方も、やめろ」

「うわっ! ひっでぇ!」


戦場の中でも、二人の掛け合いは止まらない。


しかし次の瞬間――


「穿て、雷――《トニトルス・ミッシル》!」


フェルドの放った魔法が、紙一重で二人の間を抜け、

その先にいたメデュラーゲを撃ち抜いた。


バチン! という音と共に、ティオとマルクの髪が一瞬ふわりと逆立つ。


「全く……何をしているんですか」

ミネアが呆れ声を漏らす。


「仲が良くて、いいことじゃねえか!」

オルフが笑う。


「お前たち、時と場所をわきまえろ。次やったら消し炭にしてやる。覚悟しておけ」


フェルドの冷たい声に二人の顔が同時に青ざめた。


「……」


「返事は?」

「了解です……すみませんでした……」


ロイはそのやり取りを見つめながら、遅れて息を吸い込んだ。


(……手刀だけで済んでたのって、優しかったんだな……)


――


いつの間にか、空の色がゆるやかに変わり始めていた。

淡い光を帯びた雲が流れ、海面には橙の揺らめきが映る。

甲板を照らす陽は傾き、風がわずかにひんやりと頬を撫でた。


それでも、戦いは終わらない。


海面下から次々と現れるメデュラーゲ。

軍の面々は迷いなく迎撃を続けている。


「中尉、敵の数が異常なまでに多い」

フェルドの声に、ミネアが小さく頷いた。

「……ええ。それに、動きが不自然です。まるで“何か”から逃げているような」

フェルドがわずかに目を細めた。


短いやり取りのあと、再び剣戟と詠唱が響く。

その中で、ロイはただ、オルフの背中に庇われて立ち尽くしていた。


(……俺、何もできてない)


ポケットに入れたアルスレアを取り出し、強く握りしめる。

魔力を込めるが、何の反応もない。

訓練のときと、同じだった。


『アルスレアは普通のコルディアと違う』

――ミネアの言葉が頭をよぎる。


(違うって……何が? どうすれば……?)

焦りと無力感が胸を締めつけた。

(このままじゃ、何もできない……どうしたらいい?)


――応えてくれ、アルスレア!



その瞬間、世界が息を止めた。



風も、波も――仲間の声も。


すべてが、ひとつの瞬間で静止していた。

聞こえるのは、自分の鼓動だけ――


……いや、違う。


手の中から、もうひとつの鼓動が返ってきていた。


「アルスレア……?」

淡い光が、掌の中で静かに瞬いた。


それは言葉ではない。

けれど確かに“意思”の揺らめきだった。

ロイの心に、じんわりと何かが伝わってくる。


「……そっか、君には意思があるんだね」

自分でも驚くほど、自然に言葉がこぼれた。


「今まで、君のことを“道具”だと思ってた。だから応えてくれなかったんだね」


アルスレアが小さく光を返す。

その光はどこか、微笑むように優しかった。


「ごめん……気づかなくて」

ロイは小さく息を吐く。

「今、船が襲われている。このまま何もできずに守られてるだけは嫌なんだ」


アルスレアの光が強くなる。

それは、彼の決意に呼応するように。


「俺も、みんなと一緒に戦いたい。力を貸してくれないか?」


光が海風のように柔らかく脈動した。

その温もりを感じながら、ロイはそっと目を閉じる。


「……ありがとう。一緒に行こう」


その言葉に応えるように、光が弾けた。



――次の瞬間。


風が吹き抜け、波が打ち寄せる。

……剣戟の音が戻ってきた。

止まっていた世界が、再び動き出した。


ロイはゆっくりと目を開けた。


夕光が海面に反射して、視界がゆらめく。

彼の手には、“それ”があった。


淡く蒼白い光を宿したアルスレア。

それはまだ刃の形をしていない――けれど、確かに“応えてくれた”証だった。


ロイは静かに息を整え、その光に魔力を流し込む。


ふっと、彼の瞳に白い光が灯る。


その光は、手の中のアルスレアと――同じ色をしていた。


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