ー4ー瞳に宿る光
翌日。
束の間の休息が終わり、日が変わるとまた“地獄の訓練”が始まった。
朝はフェルドの講義。これはまだ何とかなった。
だが次のマルクによる剣術訓練で、状況は一気に悪化した。
「昨日休んだんだから、今日は元気だろ。厳しめに行くぞ!」
マルクの口元に浮かぶ笑みは、どう見ても“優しさ”ではなかった。
その笑みを見た瞬間、ロイは悟った――
今日も地獄の一日だ、と。
結果は――手も足も出ずボコボコにされた。
休みを取ってくれたときは神様だと思った。
……でも、やっぱり悪魔だった。
そして今。
ロイはミネアによる魔力制御訓練を受けている――
ミネアの声は静かだった。
けれどその一言一言には、不思議と心を落ち着かせる力がある。
「もっと集中してください。魔力を“使おう”とするのではなく、“感じて”ください」
「……」
言われた通りにしてみるが、魔力を“感じる”というのがどういうことなのか、さっぱり分からない。
額を伝った汗が落ちるのを感じながら、ロイはため息を飲み込んだ。
ミネアは叱りもせず、急かしもしない。
ただ静かに見守っている。
その優しさが、逆に胸に刺さった。
「……俺、やっぱり才能ないのかもしれません」
視線を伏せたまま、ロイは小さく呟いた。
ミネアは少し首を傾げ、彼の目をまっすぐに見た。
「……才能というよりは、アルスレアが普通のコルディアと違うのだと思います。
昨日、ラグナーさんから“釣り用コルディアの発動維持ができていた”と報告を受けましたので、単に魔力不足が原因とは考えにくいですね」
(あの釣り竿で、そんなこと試してたの? あの人……)
ふざけているようで抜け目のないティオの顔が脳裏に浮かんだ。
“イエーイ”とポーズを決めるその姿が、一瞬、頭をかすめた。
――
「……あなたが今、どの属性を扱えるのか、確かめてみましょうか」
「えっ!? そんなの分かるんですか?」
ミネアは軽く頷いた。
「では、もう一度アルスレアに魔力を込めてみてください」
ロイは言われるままに息を整え、アルスレアを両手で包む。
うつむいたまま目を閉じ、静かに魔力を込めていく。
木の軋む音が遠のき――波の響きだけが耳に残った。
「……いい調子です。そのまま、目を開けてください」
ミネアの声が、すぐ近くで穏やかに響いた。
指示に従い、ゆっくりと目を開ける。
視界に入ったのは、少し身を屈め、下から彼の様子を確かめるように見つめるミネアだった。
「えっ――!?」
あまりの距離の近さに、ロイは思わずのけぞる。
ミネアのまつげが光を受けてかすかに震え、彼女の髪がふわりと揺れた。
「集中してください」
ミネアは微笑もせずに言う。
「は、はいっ!」
彼女の視線が、心の奥まで覗き込むように射抜いてくる。
心臓がドクドクとうるさい。額に汗がにじむ。
やがて、ミネアのまつげがわずかに伏せられた。
「……あなたの属性は光のようですね」
「え? どうして分かるんですか?」
「魔力を使うとき、瞳に光が灯るんです。その色で属性が分かります。
この光は魔力が強いほど強くなります。あなたにはうっすらと白い光がありましたので、“光属性”です」
ロイは思わず自分の目をこすった。
見えるはずもないのに、まだそこに光が残っている気がした。
――
「光……昨日ティオさんがコルディアを使ったときの赤い光や、中尉さんの治癒魔法の緑の光も属性の光ですか?」
「ええ。赤は火属性。緑は風属性です」
ミネアは指先で空をなぞりながら、順に七つの色を挙げていった。
青は水、紫は雷、黄色は地、黒は闇。そして白が光。
「アルスレアの霊晶石が七色あるってことは……七属性を使えるってことですか?」
「その通りです。
私はあなたが“未登録の複属性持ち”かもしれないと思っていましたが……どうやら違うようですね」
ロイは“未登録”という響きに首をかしげた。
「複属性持ちは珍しいんです。二属性までは稀にいますが、三属性以上となると極めて稀。
魔力量も比例して増えるため、三属性以上の者は国によって“登録”され、管理されます」
ミネアの声が少しだけ硬くなった。
その言葉の端に、微かな苦味がにじむ。
「七属性持ちって……いるんですか?」
「神話の英雄オルセリアがそうだったのではないかと言われていますが、実在は確認されていません。
……ですが、“人工的に作り出そうとする者たち”はいます」
ミネアの瞳が一瞬だけ陰を落とした。
その一言の重さに、ロイは息を呑む。
「生まれ持った属性を増やすのは、古くからの禁忌です。力は暴走し、精神は汚染され、そして肉体は異形へと変わる。
実際に、そうした“実験の結果”生まれた存在が確認されています」
静かな語り口なのに、その言葉だけが氷のように冷たく響いた。
ロイは言葉を失い、手にしたアルスレアを無意識に握りしめた。




