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あなたは私を信じますか?  作者: 古月 うい
中学一年

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8/15

はじめての機会

「試験一週間前から、部活は休みになります。」


部活に行くと、内岡先生が連絡してきた。


まだ割稽古と呼ばれる、お点前の流れを細分化して一つ一つ行っている最中で、一通りやるのにはまごついていた。


部活の一年生の中で最もギャルだった藤岡玉響さんは不満そうにしていて、稽古を受けるときにはそれを隠してはいなかった。


そんな中でも今井さんの動きには迷いはなく、間違うことがあってもそれが正しいかのような雰囲気があった。


私は覚えるのが苦手で、人より練習が必要だったので部活が終わった後も残って練習していた。


真面目だったわけではない。


他にも何人か残って練習していたから残ったに過ぎない。

一人だったらきっとさっさと帰っていた。


「葵、これのやり方わかる?」


「むしろうちがわかると思ったの?」


葵に聞くと逆に開き直られてしまった。


「だよね」


葵の一人称はうちだったり私だったりしたが、二年になると完全にうちになった。


私は、それが少し羨ましかった。


「ああ、それね」


後ろから声がして、手が伸びてきた。


驚いて後ろを振り向くと、手を伸ばしてきたのは後ろのフローリングの廊下に座った今井さんだった。


「あの、こっち、どうぞ」


単語で区切ってしまって通じないかと後悔したが、今井さんはこっちと示したところに座った。


フローリングのほうが冷たいし距離があるので教えにくいだろうと思ったからで、決して今井さんと隣に座りたかったわけではない。


結果として隣に座っているだけで、意図してはいない。


「あ、お道具。ごめん、ちょっと待ってて」


今井さんは本当に綺麗な動きでお道具を取りに行った。


今井さんを初めて見た時から動きについてしか話していないけれどある意味仕方のないことではあった。


今井さんはいつもマスクをつけていたのだ。


だから、顔はほとんど目しか見えておらず、褒めようにも近くで顔を見ることはなかったのでわからなかったのだ。


けれどこの時初めて近くで見た今井さんの目はほんの少しだけ茶色でかかるまつ毛がとても綺麗だった。


「お待たせしてごめん。えーっと、どこ?」


今井さんの声は優しくて透明感があって、少し冷たくて大人びていて、でも安心する声だった。


「今ここまでいっていて、ここが…」


「ああ。えーっと、ここ?」


今井さんはテキパキと道具を動かして私が詰まっていたところまで動かした。


今まで遠くから眺めていた今井さんがここにいると思うだけでドキドキして、ずっとこの時間が続けばいいのにと思った。


「あの、今井さん、ありがとうございます。わざわざ…」


「全然いいよ。むしろ私の復習にもなるから。」


今井さんは模範的な回答がすぐにできる人だった。


例えば、塾の先生が雑談で奈良自慢をしていたことがあった。


その先生は奈良代表のような人で、鹿がいることや大仏があることをことあるごとに自慢していた。


その日は都があったという自慢だった。


そこに今井さんが一言。


「大阪には難波宮がありますよ」


と言ったのだ。


先生は確かにそうだと納得した。


私は知ってはいてもこういうときに咄嗟に引け合いに出せることができなかったので、今井さんすごい!となった。


「今井さん、茶道に慣れた風だけれど以前やっていたの?」


「華道を少々」


それだけではなさそうな雰囲気をしているが、まあ今は聞けないだろうと思った。


私は、本当にそれだけで満足だった。

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