塾の授業にて
「では、授業を始めます」
夜になって、塾の時間になって授業が始まる。
テスト期間の塾は基本自習だ。
授業よりも各自やりたいことを優先する方が大事らしい。
私はその日、バッグを漁っていてハッとした。
(うわ、やばい…)
持ってきたワークの答えを学校のリュックに入れっぱなしにしてしまっていたのだ。
私はワンチャンあるかもしれないと一縷の望みに掛けて鞄を漁ったが、カケラも出てこなかった。
(どうしよう、明日提出なのに!)
明日提出なのにまだ終わっていないことにも問題があるかもしれないが、そんなことは後の祭り。
さらに、私には塾内に特に親しいと言える人がいない。
話をする人はいるが、こういう時に貸してと気軽に言える人はいなかった。
未だに周囲の人の賢さに気後れしていたのもある。
なので、隣の人に借りるというのも選択肢から消えた。
仕方なく別の教科のテキストを取り出していると、肩を叩かれた。
驚いて振り向くと、今井さんがおそらく無表情に私が今さっきまで探していたワークの答えを差し出してきた。
驚いて数秒固まって、おずおずと受け取った。
ありがとうと身振り手振りで伝えて、前を向く。
(どうして私なんかに貸してくれたんだろう…)
さして親しいとは言えない間柄の人間が困っていると勉強中に気がつくものだろうか?
しかも無くしたものを推察してくれるなんて…
私は嬉しさに泣きそうになりながら使わせて貰った。




