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この世界は俺に何を求める? -The Rising of the Suicide-  作者: 白ノオト
第一章 箱庭
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ep3.「Blindness」

 少女はナイフを拾い、震える手でゆっくりと自分の喉元に当てる。彼女の目には、きっと何も映っていないのだろう。いや、恐らく絶望かそれに似た何か。それしか映っていない。

 そんな状況なのに、どうしてこんなにも冷静に考えてるんだ? なんで俺はこんなにも他人事のように思っているんだ?俺は結局、そんなことのようにしか思っていないのか。

 そうじゃないだろ。やっぱり、怖い。今だって足が動かない、一向に動こうとしない。恐怖心が、足を、全身を、心さえも、鎖のように絡めて縛る。いつだって縛る、どんな時だってストッパーが掛かる。自らに制限を課す。でも今はそれじゃダメなんだ。動け。動け、動け。動け動け動けっ動け動け動け―――――。

 頼む・・・・・・動いてくれよ。




 ただ助けることは正義だ。でも助ければ今度は俺がいじめの標的になる。またいじめられる。またあの苦しみを、また痛みを味わってしまう。そんなのは御免だ。助けなければ彼女は死んでしまう。でも助けたら俺はどうなる・・・・・・?


 俺はどうしたらいいんだ・・・。

 こんな時に、自分を鼓舞する言葉を慌てて探しても見つからない。そもそも持ってすらいない。

 こういうのは理屈じゃどうにもならないなと思い知らされる。結局、死んだからと言っても自分が変わるわけじゃない。今日まで固めていた覚悟は無駄だった。


 自分の中の何かが壊れる。この5年間で育ててきた自信・自尊心・自己肯定感等々。いや育ててきたんじゃあない。放置して、勝手に増えていったものだ。初めからこんなのなんていらなかった。じゃなきゃ、過信することも、見て見ぬふりをすることもなかった。




 ザッ


 少し足を動かしたくらいでも、静かなところならよく響く。逃げようとして足を引いたらわかりやすいほど音が鳴った。

 恐怖が湧き上がる。今俺は何をした? ダメだ何も考えられない。足が動かない、逃げようとしない。このままじゃ、今度は俺が・・・・・・。


「誰だ」


 この声は、アイツの声だ。嫌に耳に刺さる、棘のある声。それは酷く冷徹で、殺気を帯びている。それが俺の頭の中を覆う。このままじゃ、ダメだ。身体は恐怖に従って一向に動こうとしない。

 足音がどんどん近づいてくる。その方向をじっと見つめていると、黒い影が現れた。


「お前今ここで見てただろ。答えろっ!」


 相手の怒号に怖気づき、ついには口まで開かなくなってしまう。

 しびれを切らしたのか、相手は俺に掴みかかり、投げ飛ばす。


 ドサッという音と鈍い痛みが背中に走る。目の前には、俺を見下ろしてる奴がいる。逃げる暇も反撃をする暇もなく、馬乗りをされて、最初に6発位を顔にもらった。


「やめ・・・」

「うるせぇ! 死ね! 死ね!」


 鼻、目、腹など、いいように殴られ続けた。嫌な感覚を思い出した。俺が最初にいじめられた時も、確かにこんな感じで殴られた。殴られた後はもっとひどくて、他の人に殴られたことをバレないように、痛いのを我慢した記憶がある。ホントは言った方が良いんだと思う。でもそんなことしても意味なんてない。どこも放任主義を貫く。


 痛みが常に走る。唇から血がにじむ。痛い、と感じはするものの、大して辛い訳じゃない。そんなことよりも、なんでこんなことになったんだ? という後悔で嫌な気分になる。


 何分殴られたのだろうか。体感10分は殴り続けている気がする。実際は2分くらいなのかもしれない。


 とうとう興味がなくなったのか、奴はゆっくりと立ち上がった。そして興が冷めたと言わんばかりに、少女の手からナイフを奪い取る。どうやら少女は自殺していなかった。


「明日も来るよな? じゃなきゃ、コイツがどうなってもいいのか?」


 奴は脅しのつもりなんだろう。少女のことを指差してそう言った。でも俺はその質問には答えなかった。

 後悔は残る。恐怖もあったし、何より痛かった。反面、正しいようにも思う。事実少女は自殺しなかった。当初自分がしようとした事に、半分当てはまる。


 起きようとするが、身体が動かない。恐怖ではなく、単純に力が入らない。肺の下あたりにかなりもらったせいで、動こうとしても痛みが邪魔をする。


 そんな時、誰かが俺の腕を掴んでくれた。振り向くと、そこには少女の姿があった。さっきまであんなことがあったせいか、憂鬱な顔をしている。


「大丈・・・夫?」


 彼女の腕には痣や、切り傷が多くあった。あいつにやられたのだろう、想像したくない程痛ましい。まずいものを見てしまったかのように、目を逸らす。感が良いことに、俺の目線に気づいた彼女は咄嗟に腕を隠す。


「あ、これは・・・その」


 嫌なことを思い出したように、口をつぐむ。自分のせいでこうなってしまったために、罪悪感が残る。


「ごめん・・・・・・。えっと」


 どんなに謝ろうとしてもダメだ。言葉が見つからない。どうしたらいいのかを俺は知らない。もちろん謝りたいという気持ちはある。が、それ以前に俺はこの少女に何を話せばいいのかがわからない。仮に謝ったとしても、その先を知るのが怖い。


「大丈夫・・・。気にしないで」


 彼女は笑みを浮かべる。しかしそれは、大丈夫ではないときのそれだ。同時に、それを何だか懐かしく思ってしまった。俺は一度だけ、それを見たことがある。一体いつ、どこで見たのかは忘れてしまった。しかし、ほとんど同じ表情をする人を見たことがある。


「それより、助けてくれてありがとう」


 唐突にこんなことを言われるものだから、自然と声を漏らしてしまった。

 俺は何もしていないのに、なんで感謝するんだ?


 彼女はどうやら、俺が逃げようとした行動を、助けてくれたと勘違いしているらしい。もっとも、自分はそんなつもりはなかったわけだから、余計に罪悪感が募る。なんて説明すればいい? いっそこのまま噓を貫くか? そっちのほうがいいのかもしれない。そんなことを言えるような雰囲気ではない。


「いや、でも」


 それでも言わないと後悔する。自分が一番その噓を嫌う。

 その時、焦ったような口ぶりで


「ごめん・・・・・・。私、帰らなきゃ」


 気づいたら、彼女は視界から消えていた。

 周りを見渡すと、太陽はもうすぐで隠れるといったところだった。このままここに居てもしょうがないな、と思った。家に帰った方がいいのだろうか? それとももう少し感傷に浸るべきなのだろうか?

 感傷に浸る、なんて大袈裟に言ってみたが、実際はもっとくだらないことに違いない。ただ、今日の自分の行動は何か意味があったのだろうか、そう軽く思うだけである。




 気づいたら、家に着いていた。足が勝手に自分を運んだと言った方が正しい。


 良く分からない感じだ。何も考えずに家に帰ったはずなのに、頭の中でぐるぐると何かが渦巻いている。それは今の心情と呼ぶに相応しく、色んな感情が複雑に混ざる。所々にムラがあって、同じように自分の感情が揺らぎ続ける。


 帰って来てからも、だらしなく考える。いつも見る武器庫も、今日だけは何もしてくれない。あの漆黒の剣も、もはや鉄塊にしか見えない。それだけ自分が思い悩んでるのだろうか。もしかして、それはただの甘えなのかもしれない。実際は悩んでなど無く、悩んでる自分を演じて逃げようとしているのだろうか。


 いくら悩んでも、漆黒の塊は口を閉ざし続けるだろう。そんなこと、自分が一番よくわかってる。

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