好きな人が婚約破棄をされ、それに私が巻き込まれたんですけど、結果、上手くいったみたいです。
(あ、あれって変人で有名なマルケス様ですわ。 あまり近づいてはいけませんわ)
(え、ええ。 そうした方が宜しいですわね)
(そうしましょう)
多くの貴族が通う名門フェリアル学園で、その男は廊下ですれ違いざまに三人の貴族令嬢に避けられた。男はそんなことはお構いなしといった様子で、何事もなかったかのようにその場を後にする。その男にとってはいつものことだったからだ。
「よう。 マリー今日も手伝ってくれるか? 新しい事を思いついたんだ」
勢いよくドアを開け、先程の三人の令嬢の時とは違い、明るく別人のように目を輝かせながら教室に一人しかいない女に声をかけた。
「もう違う実験ですか? この前は失敗に終わりましたもんね。 分かりましたよ。 でもシアンヌ様の事は良かったのですか? 婚約者でしょう。私とばかりいるとシアンヌ様も気を悪くしてしまいますわ」
マリーからチクッと言われると、男は笑いながら応えた。そんな事はまるで気にも留めない様子だ。
この高笑いしている男は辺境伯家の四男、セドリック・カルステンといい、学園内では変人扱いで有名な男だった。シアンヌとはセドリックの婚約者ではあるが、この時代にはよくある親同士の政略婚によるものだ。
「シアンヌとは元々気が合わない。 それにあいつは俺よりもガードラス・ギルバードに夢中だ。 さっきも一緒に廊下を歩いていたしな」
「そう………ですか。 確かガードラス様のギルバード家は、セドリック様と同じ辺境伯位ですよね?」
「家柄なんてどうでもいい。 俺はそんな家がどうとか興味がないからな」
「知ってますよ。私もセドリック様とは長い付き合いですからね」
私、マリー・アントはセドリック様と子供の頃に社交会でってから10年と、随分と古い付き合いになる。
「いい実験があるんだ。俺に付き合う気はないか?」と、いきなり何も知らない私に怪しく声をかけられたのが切っ掛けだ。
「なあマリー、俺はそんなに変人か? 今日も廊下で擦違様、彼女達に変人扱いされたんだが」
「え、ええ。そうですね。随分と変わっているかと思います。 フェリアル学園では攻撃魔法や、剣術などが主流の中、セドリック様は全く目もくれず生活魔法や、錬金術といった誰も興味を持たないような事に力を注いでますから、それは変な目でも見られでも仕方がないかと思います」
「むむ、そうなのか?」
「そうですよ。 貴族の方でそんな事をやっているのはセドリック様くらいですよ。 普通は形上だけでも剣術か魔法を習いますよ」
「ははは。 俺だけか。 それは面白い。 でも、これからは時代が変わる。 攻撃魔法や剣術なんてものは、時代と共に廃れていくだろう」
「そうは言っても、まだ変わらないと思いますよ」
「そんなことはないさ。 街を見てみろ。 治安も少しづつ良くなり、街道は整備され、魔物も出没も王国騎士団がいることで減りつつある。 もう起き始めているのさ、物流が豊かになれば人々の関心は暮らしの豊かさを求めるようになる。 そうなれば生活魔法や生活品といった快楽や、娯楽を求めるようになっていくのさ。 それが人の欲求だからな」
「そうは言われても。 今だに魔法や剣が主流の世の中で、いまいちピンときませんよ」
「いずれ分かる。 だから今日はこの設計図を元に、こいつを作ってくれないか?」
「はいはい。 分かりましたよ」
マリーは設計図を元に作業に取り掛かかり始めた。何年もこう毎日セドリック様から頼まれた物を作るようになってから、細かい要求までも何となく分かるようになってしまった。
でも私は賢くない。それだけじゃない。勉強どころか剣術も、魔法まで凡才だった。これ以上頑張れないと思って挑んだ試験でも結果は学年の上位三割にも届かない凡才だった。
でもそんな私にも一つだけ取りえがあった。
それは手先だけは器用だった。物を作ったりするのが得意だった。細かい調合の錬金術など、資料にある物をそのまま作るのが得意だった。それに最初に気付かせてくれたのはセドリック様だった。
社交会で、大人達が大勢いるの中で一際、悪目立ちしたセドリック様は、皆から避けられながら、つまらなそうにしていた私に声をかけてきた。それが私を変える切っ掛けとなった。
言われるまま簡単な物を作ったら、セドリック様は『お前、天才だな!!』と大喜びし、それから私の所に毎日来るようになった。
最初は分からなかった。こんな設計図を書けるような子供ながらに天才だと思っていたセドリック様が、何故ご自身で物を作らないのだろうと。
だが、それは直ぐに分かることになった。
物作りを一緒に作業した時だ。『いたっ!!!』と、簡単な外装の木箱を作る作業で、釘打ちで何回も自分の指を金槌で打ち付けたのだ。それも一回だけではなく何回も。それどころか物は壊す。設計図通りにならない。と、アクシデントが発生し過ぎて完成すらしなかったのだ。
そこで私は分かってしまった。
セドリック様は天才で、剣術も魔法も得意だ。だけどもの凄く手先が不器用だった。
どれだけ私が頑張っても学業で一番になれないように、セドリック様は手先が不器用なのは治せなかったのだ。
それから今に至るまでセドリック様が持ってきた設計図を私が作るという図式が完成されてしまったのだ。
勿論嫌々ではない。私の可能性を広げてくれたセドリック様には感謝しているし、なんなら密かに想いを寄せている。そんな事はセドリック様には知る由もないだろうけど。だけどセドリック様には婚約者のシアンヌ様がいる。私も子爵の娘だ、無理矢理取ろうなんてことは考えた事もない。それくらいは立場を弁えている。
私は金属板を変形させ、四角くなった金属の塊の中央に魔石を埋め込み、小型化させた魔法陣を裏に書いたボタンを押すと炎が出続ける不思議な物が出来上がった。
「セドリック様。 出来ましたよ。 完成です」
「おお! やはりマリーは天才だな!! 毎回お前の腕の技術には惚れ惚れする。 お前が俺の助手になってくれて本当によかった」
思わずその台詞に急激に胸が高鳴る。セドリック様は何も考えずに言っただけだろうとは思うけど、不意をつく台詞は反則だ。それに腕に惚れただけで私に惚れた訳ではない。高鳴る気持ちを私はしまい込んだ。
「で、これはなんでしょうか? 便利な物?とは思うのですが」
「これは魔導焜炉だ」
「魔導焜炉?」
「そうだ。 魔石を利用して火を出し続ける道具だ。 これがあれば生まれつき魔力がない、魔力が少ない人達も楽に料理が出来る」
「ああ、確かに。 もしかしてこれって凄い発明では?」
「さあな。 だが、商会に持ち込む価値はある」
「マリーありがとう! 今から俺は忙しい。また会おう」
「え? ああ、はい。 お疲れ様です」
セドリックは魔導焜炉を持ち、急いで部屋を出ていった。
セドリック様はいつもあんな感じだ。今に始まったわけではない。
解放させたマリーは、日も傾きかけていた為、帰り支度をして校舎を出ようと歩いていたのだが、運悪く校門でシアンヌとガードラスに出くわしてしまった。
気まずいと思ったマリーは早々に立ち去ろうとしたのだが、シアンヌがマリーを呼び止めた。
「あら、そこにいるのはマリーじゃない?」
「あ、これは先に挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。 シアンヌ様、それにガードラス様」
挨拶をするマリーに見下した態度を見せながら話しかけてくる。
「いつも貴方、私の婚約者のセドリック様と一緒にいますわね。 何をしていらっしゃるの?」
「はい。生活魔法の研究をセドリック様とは一緒にしています。 けしてやましい関係では御座いませんので」
「別にそんな事気にしてませんわ。 それにそんな地味な魔法の研究なんてして何の意味があるのかしら。 まぁ、この際ですけど、あの変わり者の婚約者なんて私も願い下げですの。 よかったら貴方に差し上げますわ」
そう言うと、ガードラスの方を向き、腕を引き寄せ自慢げに見せてきた。
一体私は何を見せられているのだろうか。
この下らないやりとりをしているくらいなら1秒でも早く家に帰りたいというのに。
「私、ガードラス様と婚約するつもりなの。 だからセドリックとは婚約破棄するつもりでお父様には伝えていますの」
「あ、はい。 それはおめでとう御座います。 二人とも末永くお幸せに」
私はその場をサラッと流して立ち去った。
苛立つ気持ち。その気持ちがなんなのかをマリーは分かっていた。
二人が気に食わない。シアンヌ様はセドリック様の事を何も分かっていない。あの人の生活魔法や物にかける情熱を何一つ分かってはいない。自分の為ではなく、誰にでも生活が豊かになるように、そんな思いを込めた魔法や、開発を馬鹿にした。
こんな事を思うのは初めてだった。いっそ不幸になればいいと。
◇
それから暫く経った。
セドリックが商会に持ち込んだ魔導焜炉が認められ、商標を手に入れ開発が進んだ。
販売してからは王都では気軽に使える焜炉が便利だと爆発的にヒットをした。
私はそれを喜んだのだが、セドリック様は相変わらず普段と変わらずといった様子だった。何故かと聞くとまだまだ世の中には便利に出来るものが沢山あると言うからだ。
周りからの生徒の扱いも一変し、変人から天才へと評価がガラリと変わった。
それにシアンヌ様の勝手な都合で婚約破棄をされたというのに、セドリック様は何もいつもと変わらない飄々とした姿は私の目から見ても天才寄りの変人だなと正直思った。
私には今の現状から便利になるものがどういったものかは分からなかったがセドリック様から見たら、見る視点が全然違う事だけは分かる。きっとこれからも凄いことをやってのけるのだろうと期待を膨らませていた。
しかしここで問題が起きた。
今まで何も関心がなかったシアンヌが手のひらを返したのだ。
少し前までセドリックとは婚約破棄を認め、白紙に戻したのを今更ながら寄りを戻したいと言ってきたのだ。
これには私も驚いた。
今更ガードラス様と婚約を結んでおきながらセドリック様に再び言い寄るなんて、ガードラス様は今頃どんなお気持ちなのだろうと。
私の知った事ではないが、セドリック様に四六時中言い寄るシアンヌ様が少しばかり鬱陶しいと思わずにはいられなかった。
いつものようにセドリックが教室から出ていくと、待ち構えていたかのように陰から出てきたシアンヌとマリーは鉢合わせをした。
鬼のような形相をし、今にも襲ってきそうな雰囲気だ。
「あ、あの」
マリーが話そうとした時、遮るかのようにシアンヌは話を被せてくる。
「この泥棒猫っ! 貴方こうなることを知っていたでしょう! 分かっていながら婚約者である私に何も話さず、手柄をセドリック様と一緒に横取りしようなんて、とんだ卑怯者ね」
その言葉に唖然としたが、この雰囲気で真っ当な事を言っても通用するとは思えない。
私は理不尽だと思いながら、何をされるか分からないこの状況に恐怖を覚えた。
「ご、ごめんなさい。 私はそんなつもりでは………」
「私を嵌めてそんなに楽しい? どうせセドリック様を近づくために身体でも売ったのでしょう! 汚らしい女ね! 今に見ていなさい。 絶対に後悔させてあげるわ」
そう言い残し、鬼の顔をしたシアンヌは立ち去っていった。
何よ。ただの逆恨みじゃない。本当に馬鹿ねシアンヌ様は。
心の中で思っても何も解決しないのは分かっていた。でもそう思うほど馬鹿げた話だった。
これからどうしよう?私はどうやって学園生活をおくればいいの?
不安がマリーを襲った。
翌日、何も手につかないマリーに、鈍感なセドリックでも流石に異変に気付いたのか声をかけてきた。
「マリーどうしたんだ? 全然手が進まないじゃないか? 具合でも悪いのか?」
「…………」
「どうした? 何か悩みがあるなら言ってみろ。 俺で良ければ聞いてやるぞ」
「セドリック様、実は…………うっ…ううっ………セドリックさまぁ………っ!」
セドリック様の普段見せない優しい言葉に、私は不覚にも涙してしまった。
心地よい声。いつものセドリック様とは少し違い、優しくなったゆっくりとした口調。
堪えきれなかった感情が涙となって頬を濡らし、止めどなく溢れた。
そんな私をセドリック様は優しく抱きしめ、私が落ち着くまでずっとそばにいてくれた。
きっと用事もあっただろう。
私に割ける時間は日に日に少なくなっている。少し前までは近い存在だと思っていたが、最近はずっと遠い存在のようにも思えていた。
私が落ち着いて事情を説明すると、セドリックは、
「すまん。それは俺のせいだ。 俺がちゃんとしていなかったせいでお前には迷惑をかけてしまった。だからこの件の責任を俺が取ってくる」
と、言い残し急いで教室を出ていった。
セドリック様は何をするかは想像もつかない。
ガードラス様と剣を交えることをするかもしれないし、シアンヌ様に寄りを戻そうと自分から言い出すかもしれない。どう転ぶか分からないけど、セドリック様が不幸にならないようにと私は願った。
あれから数日経った。
セドリック様は学園を休んでいた。私も具体的に何をしていたかは分からない。
でも責任を取る為に休んでいる事だけは分かっていた。
シアンヌ様とまた寄りを戻したらどうしよう。
あんなシアンヌ様の顔を見てからは、もしセドリック様がシアンヌ様と寄りを戻しでもしたら素直に喜べない自分がいる。
そう思いながら今日も授業を上の空で受けていた。
頭に入らなかった授業を終え、いつもの教室に行くと、そこには数日いなかったセドリックが待っていた。
「よう。 マリー。 待たせたな」
「セドリック様! もうよかったのですか?」
「ああ。 全部解決してきたよ」
その言葉に不安がよぎる。
またシアンヌ様と婚約を結んできたら私はどんな顔をすればいいの?
肝心な私の心の準備は全く出来てない。
不安そうにしたマリーにセドリックはこう告げた。
「全て俺の商標登録した権利をシアンヌに譲る事にした。 だからこれからマリーは何も心配しなくていい」
「え……? どうして………そんなセドリック様の大切な物を……」
「要は世間体がどうだとか、プライドがとか、面子とか、彼奴等にとっては全ては金なんだよ。 自分達に利益がでるならそれで彼奴等は満足するんだよ」
セドリックは満足げな顔をしたが、私は納得出来なかった。
私達が重ねた失敗は一度や二度ではない。何度も何十回も失敗を重ね、知らないところで費やした時間は計り知れない。才能や努力だけでは片付けられない二人で作った大切な思いがこもった物を、何もせずにシアンヌ様は全て奪っていったのだ。
「そ………そんな…………私達の努力が………」
マリーは絶望し、膝から崩れ落ちた。見かねたセドリックは近寄りマリーを両手で強く抱きしめた。
「なに、また1から作り直せばいいさ。 俺とお前なら絶対にまたいい物が作れるさ。 だからそんなことをいちいち気にするな」
「でも、あれは私たちの頑張った証です……」
「そうだな。 あれは俺達が二人で作った物だ。でも、それよりも大事なものがあったんだ」
「それよりもって……一体なんでしょうか?」
「マリー。 それはお前のことだ」
唐突な言葉にマリーは言葉が詰まった。そんな事を想像もしていなかったからだ。
「……え………今……なんて………?」
私は絶望からか、願望が出てしまい、おかしな言葉が聞こえたと思ったからだ。
「俺と結婚しよう。 お前より大事な存在は、この世界に他にないと思ったんだ。だから俺にはお前が必要だ。 マリーの支えがなかったら俺はここまでやってのけることが出来なかった。 だからずっと一緒にいたい。 いさせてくれ。 生涯、側にいると約束するから、俺の側でずっと支えてくれないか?」
「―――っ!」
信じられなかった。あの恋愛に無頓着のセドリック様が、私に熱烈な愛の告白をしてくるなんて。
神様だってひっくり返る程の出来事だった。
マリーは熱った顔を見せ、返事をした。
「はい。私もずっとセドリック様をお慕いしておりました。 これからもずっと一緒にいさせてほしいです」
微笑みかけると二人は再び抱きしめあった。
「セドリック様………?」
「なんだマリー?」
「その………私のどこがよかったのですか?何の取り柄もない私が、本当にセドリック様と一緒にいてもいいんでしょうか?」
「お前のどこが取り柄がないんだ。 俺はずっとお前が俺にないものを持っていたマリーを羨ましいと思ってた。 俺がいくら努力しても手に入れらない手先の器用さ。 相手の事をくみ取り、それを正確に、いや、それ以上に仕上げる技術。 俺が無茶を言っても付き合ってくれる温かい心。 それが俺は嬉しかった」
「そんな大したことじゃないですよ」
「そんな事はない。 お前だけだったよ。 子供の頃から何一つ馬鹿にせずに俺と向き合ってくれたのは。 大人も俺と真剣に向き合った人は誰一人いなかった。 だからこそお前は俺にとって世界で一人だけ、信用出来る最愛の人だ」
真剣な顔をしてマリーに話しかけるセドリックは自分で言って顔を赤くした。
こんな赤面したセドリック様は見たことがない。
マリーは喜ぶと同時に疑問も浮かんだ。
「あの、セドリック様? 私と勝手に婚約を決めてしまってよかったのですか? ご実家の事はどう説明するのでしょうか?」
マリーがセドリックに聞くと意外な答えが返ってきた。
「なに、俺は四男だ。 それくらい自由にさせろって親父には言ってきたさ。 それに俺の妻になる人は俺の開発の助手をしている女性だからシアンヌなんかよりよっぽど将来性があるぞ。 これを逃したらカルステン家は大きな損失になるぞと逆に脅してやった」
やっぱり、セドリック様はセドリック様だ。
いつでも私の斜め上を行く行動を取る。
「もう。 セドリック様はいつも急過ぎます。 でも……嬉しかったです」
「ああ……」
こうして二人は両想いとなり婚約をした。
セドリックの提案で二人はフェリアル学園を卒業してから王都に小さな商会を建てた。
物流の中心地である王都では何かと便利だからだ。
そして、またもセドリックが開発した物があった。
「これはセドリック様?」
「ああ。 これは小型魔導焜炉だ。 前のとは違い、軽く薄くなり、更に温度調整も出来て、コストも下がったから価格も安いときた。 これで対抗出来る準備は整った」
「それって…………」
「ああ。 シアンヌのいるギルバード家に復讐す為だ」
私達は学園を卒業してギルバード家と完全に縁が切れるまでジッと耐えていた。
また新たに開発した商標権利を奪われる可能性があったからだ。
「はっはっは。見てろギルバード家! お前達が没落していくのが楽しみだ」
「ふふ。 そうですね。 私達から大切な物を奪った2人には仕返ししてやりましょう」
ガードラス家は富を手に入れ豪遊暮らしを続けていた。一度手にした優雅な暮らしは簡単には捨てれる筈もなかった。
◇
2人が期待した通り、小型魔導焜炉は、またも大ヒットし、劣化版となった初期型の魔導焜炉は全くと言っていいほど売れなくなった。他の商標登録された商品もセドリックが作った改良版により価値を失いギルバード家はみるみる内に没落貴族へと変わり果てていった。
発狂したシアンヌは剣しか取り柄のないガードラスに怒鳴りたて離婚した。
その後、セドリックが出した魔導具の商標登録を無理矢理変えようとシアンヌが商会で大揉めして捕まったと聞いた。
相変わらず、シアンヌ様は何を考えているか分からない人だった。
でもこれだけは分かる。あの人は最低な人間で、周りを振り回して人生を駄目にした。
いい気味だと思った。
あれから2年が経ち、二人は変わらず小さな商会で新しい商品の開発を続けていた。
その気持は昔から変わらない。
でも変わった事が事もある。
二人の薬指に付いた指輪だ。
「あなた、こうなることを知っていたのですか? 少しばかり話がうますぎると思うんですけど」
「そうか? 流石に俺にも未来は分からんさ。 でもある程度の結末は予想出来たがな。 金に目のくらんだやつに明るい未来なんてないってことだ」
肩を抱き寄せ、セドリックはマリーの頬に優しくキスをした。
「お前が妻でよかったマリー。 愛している」
「私もです。 セドリック」
小さな商会はまだ始まったばかりだけど、きっとどんな困難も二人でなら乗り越えていけるだろうと私はそう思った。
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日間ローファンタジー部門 55位獲得
元A級冒険者のおっさん少女を拾う。〜神童と呼ばれた男はアイテムボックス持ちのエルフ少女と一緒に王都で自由気ままにスローライフをする〜
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