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第3話 聖女と冒険者

第1部全16章38,000文字となっています。評価していただければ続き書きます。ダメそうなら新作頑張って作ります!

「ここが、王都かぁ……」


 馬車の窓から見える王都の風景に、私は思わず息を呑んだ。高い城壁に守られた壮大な町並み、石畳の道を行き交う人々、露店からはパンや焼き肉の香ばしい匂いが漂ってくる。

 召喚されたとき、しばらく王都にはいたけど、王城から出ることはなかった。こんな景色だったんだ、とちょっと感動した。


「田舎から出てきたみたいな顔をしているぞ」


 隣に座っていたエドガーが、少し笑いながら私をからかうように言った。彼の口元がほんの少しだけ微笑んでいるのが、また悔しいけど、ちょっと嬉しい。


「えっ、そんなことないし!」


 私は慌てて否定する。だって、私は日本で生きてきたんだから、これくらいの町並み、驚くことじゃないはず……って思ったけど、やっぱり異世界の王都は特別だ。昔ゲームで見たファンタジーの世界が現実になったみたいで、思わず興奮してしまう。


 ――――――――――


 馬車が止まると、私たちはまず冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドは、ここで生き抜くための力をつけるための拠点でもあり、何よりも新しい仲間を得る場所だとエドガーは教えてくれた。私にとっても、これからの生活に欠かせない場所になりそうだ。(王城には戻りたくないし……)


 ギルドの扉を開けると、中はまるで市場のように賑やかだった。武器を手入れする冒険者や、依頼を確認する人々が忙しそうに動き回っている。天井まで届くほど高い木製の梁や、壁にかかる巨大な掲示板――見た瞬間に「これが本物のギルドか……!」と、胸が高鳴る。


「うわぁ……本当にゲームみたい」


「ゲーム?」エドガーが不思議そうに眉を上げる。


「あ、なんでもない、ただ……すごく賑やかで、なんだかワクワクしちゃう」

「おいおい、ここはお前の遊び場じゃないぞ」


 彼は軽く注意しながらも、どこか優しさが滲んでいた。無駄に緊張しないように、少しだけ冗談を交えてくれているんだろう。私は感謝の気持ちを込めて頷いた。


 カウンターに近づくと、ギルドの受付嬢がにっこり微笑んで出迎えてくれた。金髪に青い目、はっきりした顔立ちで、まさに異世界の「受付嬢」という感じだ。


「初めてのお越しですか? お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「はい、アイリス・フォン・ルクスです」


 自分の新しい名前を言うのは、まだ少し慣れていない。でも、ここで私は「アイリス」として生きるんだ。


 受付嬢は私の名前を聞くと、何かに気づいたように目を大きく開いた。


「もしかして……聖女様、ですか?」

「えっ……あ、はい、そうですけど……」


 周囲が一瞬でざわついた。聖女という言葉に敏感に反応した冒険者たちが、こちらをちらちらと見始める。あまり注目されるのは得意じゃないんだけど……。


「聖女様がギルドにいらっしゃるなんて、珍しいですね! 何か特別なご依頼でしょうか?」

「い、いえ……冒険者として、これから力をつけたいんです」


「そうなんですね!」受付嬢は微笑んで頷いた。

「では、冒険者登録の手続きをしましょう。スキルや魔力の確認も行いますので、こちらにどうぞ」と案内してくれた。


 登録手続きの後、私は少し緊張しながらギルドホールを歩いた。多くの冒険者たちが私に注目しているのを感じて、少し居心地が悪かった。目立つのは苦手だけど、これからは必要なことだと自分に言い聞かせた。

 そんな風に思いながら歩いていると、突然声をかけられた。


「へぇ、聖女様が冒険者になるってか。面白いじゃないか」


 振り返ると、そこには長身で黒髪の青年が立っていた。鋭い目つきだが、どこか遊び心を感じさせる表情。彼は無造作に手を振りながら軽い調子で近づいてくる。


「俺はルーカス・レオストール。王都随一の魔術師だ。君が聖女様なら、さぞ特別な力を持ってるんだろう?」

「特別な力って……まだ、そんなに使いこなせてないんだけど……」


「まあまあ、そんなこと気にするな。力はこれから磨いていくものだ」彼は笑いながら肩をすくめた。

「俺も協力してやるよ。聖女様がどんな力を持ってるのか、興味あるしな」


 彼の自信満々な態度に少し驚きつつも、そのフランクな調子がどこか気楽に感じた。こういうタイプは、あまり壁を作らずに接してくれそうだ。


「ありがとう、ルーカス。でも、本当にまだ全然なんだよね。未来視は少しずつできるようになってきたけど、それだけじゃ足りないし……」

「未来視か。ますます面白いな! よし、じゃあその力を見せてもらうついでに、今から一緒に訓練でもしようぜ」


 すると背後から低い声が聞こえた。


「おい、ルーカス。また新人をからかってるのか?」


 振り返ると、そこには屈強な体躯を持つ青年が立っていた。彼の眼差しは、私のことを見定めるような鋭さがあったが、その中にはどこか優しさも感じられた。


「からかってるわけじゃないさ。ちょっと彼女に興味があるだけだよ」


「お前はいつもそうだな」と、彼は呆れたように言いながらも、私に向かって微笑んで自己紹介してくれた。


「聖女様、私はレオン・ヴァルガスと言う。今後、共に戦うことになるだろう、よろしく頼む」

「え、ええ、よろしくお願いします!」


 レオンの優雅な礼に、少し緊張しながらも私も笑顔で返す。聞くと彼は王国の第三王子で、冒険者としての訓練も積んでいるという噂の人物だった。彼のような強い仲間がいるなら、きっとこの先もっと力をつけていけるだろう。そんな予感がした。


 ――――――――――


 その日の訓練は、正直かなり厳しかった。ルーカスは魔法の基礎から私に教えてくれ、レオンは剣の扱い方を見せてくれた。エドガーも私の剣技に的確なアドバイスをしてくれる。


 でも、一番の課題はやはり未来視だった。集中しようとすればするほど、力がうまく発揮できない。訓練中に未来視を使おうとしたけど、ぼんやりとした映像しか見えず、焦りばかりが募る。


「どうすれば、もっと安定して未来が見えるんだろう……」


 訓練後、私は一人でギルドの外に出て、夜空を見上げながらため息をついた。冷たい夜風が髪を揺らし、遠くに見える王城のシルエットがぼんやりと浮かび上がる。星がキラキラと輝いているけど、私の心は晴れなかった。


 未来視はこの世界で私に与えられた「聖女」としての力だと言われている。でも、その力を完全に使いこなせているとは、とても思えない。


「焦るな、アイリス」


 ふいに後ろから低く優しい声が聞こえた。振り返ると、エドガーが立っていた。彼はいつも通りの冷静な表情を浮かべているけど、その瞳の奥には優しさと心配が見え隠れしている。


「力は徐々に成長していくものだ。君は、十分努力している」


 エドガーはまっすぐ私を見つめながら言った。その目に迷いはない。彼が私を信じていることは、言葉以上にその目から伝わってきた。


「でも……私、聖女なのに……」


 エドガーは私の隣に静かに立ち、空を見上げた。しばらくの沈黙の後、彼はふっと笑みを漏らす。


「力を無理に引き出そうとすれば、逆に見失うことがある。君はこの世界に来てまだ短い時間しか経っていないんだ。焦る必要はない」

「ありがとう……エドガー」


 思わずこぼれたその言葉に、彼は静かに頷いた。

 エドガーの言葉はいつも冷静で、的を射ている。それでも、どこか私は焦りを感じていた。この異世界で私は本当に「アイリス」としてやっていけるのだろうか。


「今夜はしっかり休め。心と体を休ませないと、力もついてこないぞ」


 エドガーが私をまっすぐに見つめて言ったその瞬間、私の胸がぎゅっと締め付けられるような感覚が走った。彼の優しさ、強さ、その全てに私はときめいていたのかもしれない。だけど、それを自分で認めるのが怖かった。


「うん……わかった」


 私は彼の言葉を受け入れ、少し安心したように微笑んだ。そんな私を見て、エドガーもふっと優しい笑みを浮かべてくれた。その瞬間、二人の間に流れる静かな時間が、なぜかとても心地よく感じた。


「私は、私のペースで進めばいいんだよね……」


 小さな決意を胸に、私はギルドの中へと戻っていった。

読んでいただきありがとうございます!


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今後ともよろしくお願いします。

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