第2話 力を引き出すために
第1部全16章38,000文字となっています。評価していただければ続き書きます。ダメそうなら新作頑張って作ります!
「このままじゃ、全然役に立てないままだ……」
馬車に揺られながら、私は窓の外に広がる風景をぼんやりと眺めていた。広がる青空の下、草原がずっと先まで続き、遠くにはキラキラと光る小川が見える。聞こえてくるのは、鳥の囀りと風の音だけ。ここはソラウス村。王都から数日離れた静かな村だ。
私はこの村に、自分の力を引き出すために送り込まれた。未来視の力がうまく使えない私を、一度王都から離して、落ち着いた環境で修行させるためだ。これから王都に戻って本格的な訓練を受ける前に、この村で力の基礎を学ぶ。
自分の力で生きていくためにもこの未来視の力だけは使えるようになっておきたい。
けれど、それが簡単じゃないのは、もうこの数日間で痛いほどわかっていた。
「アイリス、疲れていないか?」
エドガーが馬車の外を警戒しながら話かけてくる。風が彼の金色の髪をふわりと揺らし、その姿はまるで物語に登場する英雄のようだった。声は相変わらず冷静で、何かにつけて私を励まそうとしてくれているけれど、私にはその言葉がどこか空回りしているように感じてしまう。
エドガーは聖女お付きの騎士に任命されいつも同行している。最初は「アイリス様」と堅苦しかったので、アイリスと呼び捨てするようにお願いした。もしこのイケメンに元の名前で「彩花」と呼び捨てにされたら、ときめいていたかもしれないが、「アイリス」だとそこまでの感情は湧かなかった。
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ソラウス村に着いた時、その穏やかな空気に圧倒された。静かな森に囲まれたこの村は、王都の喧騒とは全く違っていた。農作業をする人たちの穏やかな笑顔、道端で遊ぶ子供たちの無邪気な笑い声、そして、何よりも時間がゆっくりと流れているような空気。
「ここが、私が訓練を受ける場所……?」
村の長老であるロランドは、温かい笑顔で私を迎え入れてくれた。そして、村の神官であるレイナが、私の指導を担当することになった。レイナは、柔らかな雰囲気で私に接してくれ、彼女の優しさは緊張していた私の心を落ち着かせた。
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訓練の日々は、静かに始まった。
ソラウス村には、「聖なる泉」と呼ばれる場所があり、そこは昔から魔法の力を引き出すために使われてきたという。私はその泉のほとりで、毎日瞑想をし、心を落ち着ける練習をしていた。
「アイリス様、この泉は特別な力を持っています。あなたの心が穏やかであれば、この水が真実を映し出します」と、レイナが教えてくれた。
私は泉の水面にそっと指を伸ばし、冷たい水に触れた。澄んだ水は、私の指先に軽く揺れ、その反射がまるで私の心を映しているように感じた。
「うまくいくかな……」
「焦らないで。あなたの心が整えば、自然と力を発現できるわ」とレイナは優しく微笑んだ。
そう言われても、うまく集中できずに何度も失敗してしまう日々が続いた。未来が見える瞬間もあれば、全く何も感じられないこともあって、私は苛立ちを感じていた。
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しかし、村での生活は意外な形で私を癒してくれた。
特に、村の少年リーフとの交流が大きかった。彼は私の訓練の合間に、村を案内してくれたり、時には一緒に遊んだりして、気分転換をさせてくれた。
「未来が見えるなんて、すごいな!」リーフは目を輝かせて言った。
「でも、まだ思うように見えないんだよね。たまにしか……」私はため息をつきながら苦笑い。
「それでもすごいよ! 僕なんて、未来どころか明日のこともわからないよ。けどさ、今を楽しめればそれで十分だよ!」
その無邪気な言葉に、私は少しだけ心が軽くなった。確かに、焦る必要はないのかもしれない。リーフは魔力も持たない普通の少年だけど、そんな彼が毎日を楽しんで生きている姿に、私は「今を生きること」の大切さを感じ始めていた。
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村での平穏な日々は、突然の危機によって破られる。
ある日、ソラウス村が異形の魔物に襲われた。エドガーはすぐに剣を抜いて村の外に出て行ったが、その獣は想像以上に巨大で、村の守りは崩れそうだった。
「アイリス様、助けて!」リーフが慌てて私の元へ駆け込んできた。
私はその声に驚き、何が起こっているのか理解するまでに数秒かかったが、すぐに外へと飛び出した。エドガーが獣に向かって戦っていたが、その動きは素早く、簡単には倒せそうにない。
「どうしよう……!」
その瞬間――ふと、頭の中に映像が浮かんだ。魔物が右に跳び、エドガーが攻撃される未来――。
「エドガー! 左に避けて!」
私は思わず叫んだ。エドガーは驚きつつも、すぐに私の言葉に従い、鋭い動きで左に避ける。その直後、獣が襲いかかってきたが、エドガーの剣がその脇腹を突き刺すことができた。
「……やった、見えた!」
未来視の力が、今、私を救ってくれた。私は心の中で叫びたくなるほどの達成感を感じた。自分の力が役に立ったのだ。
エドガーが獣を倒し、村人たちは安堵の息をついた。ロランドとレイナも駆けつけ、村の人々が私たちを取り囲んで感謝の言葉を述べてくれた。
「未来視が出来たんだな。よくやった、アイリス」エドガーが私に微笑んで頷いた。
それは今まで以上に優しく、そして誇らしげだった。胸が高鳴り、顔が赤くなるのを感じながら、私は少し照れくさくなりつつも答えた。
「うん、ありがとう……」
エドガーの瞳が私を優しく見つめ、その温かさに胸がジンとした。彼の手が私の肩に触れ、その瞬間、まるで安心感が全身に広がるようだった。
これで自信がついた。この村での経験が、私を一回り成長させた。未来視の力をもっと引き出すために、そして王都での本格的な訓練に備えて、私はようやく準備が整った気がする。
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翌朝、私たちは再び王都へ向けて旅立つことになった。
村の人々が見送ってくれる中、私は胸を張って馬車に乗り込んだ。まだまだ完全ではないけれど、この異世界で自分がやるべきことが少しだけ見えてきた気がする。
「もう少し頑張ってみよう……」
未来が少しずつ見えてきた今、私はもう迷わない。エドガーの信頼と、村での経験を胸に、新たな旅が始まる。
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