第14話 次元の裂け目
第1部全16章38,000文字となっています。評価していただければ続き書きます。ダメそうなら新作頑張って作ります!
これまで戦ってきた数々の脅威は、全て世界を壊すための手段でしかなかった。そして今回の次元の裂け目。それは世界の終わりそのものを意味している。
王都の空は裂け、暗闇が世界を飲み込もうとしている。私たちはまだ戦わなければならない。
諦めるわけにはいかない……私は自分に言い聞かせる。
――――――――――
ギルドに戻った私たちは、次の対策を練るために集まっていた。
「世界の終わりなんて冗談じゃない!」ルーカスが苛立った様子で叫ぶ。
「落ち着け、ルーカス。今は考えるときだ」レオンが彼をなだめる。
ルーカスは不満げに鼻を鳴らしつつも、レオンの言葉には逆らわず、しぶしぶ立ち止まった。
私は、意を決して口を開いた。
「次元の裂け目を閉じる方法……未来視で見た古代の遺跡の魔法陣。きっとあの魔法陣さえ消してしまえば閉じることができるはず!」
「“はず”か……」レオンが考え込むように呟いた。
「アイリスが未来視で見たものなんだ。絶対に意味がある」エドガーが私の隣に立ち、真剣な目でみんなに訴えかける。
彼の視線に一瞬ドキッとするけれど、すぐに気持ちを切り替える。今は冷静にならなければならない。私は深呼吸をして話を続ける。
「あの規模の魔法陣を破壊するには、魔力のバランスを崩すための強力な魔法が必要。けど、そのためには――」
「膨大な魔力がいる、というわけか」エドガーが頷いた。
「そう……私一人の魔力では多分足りない」
私の自信なさげな声に対して、エドガーは私を見つめ、しっかりとした声で言った。
「わかってる。君の力が足りないなら、俺たちが補う」
こうして覚悟を決めた私たちは王都の北の外れにあるという遺跡に向かうことにした。
――――――――――
準備を整えた私たちは古代の遺跡へと向かう。王国の兵士やギルドの冒険者たちは王都周辺に集まっている魔物の対処をしてくれている。私たちの使命は、この裂け目を閉じること。全てを終わらせるために、遺跡へと急いだ。
私たちが辿り着いたのは、闇に包まれた古代の遺跡。周囲に漂う冷たく異様な空気が、この場所がただならぬものであることを示している。
「あいつはここにいるのか?」ルーカスが周囲を見渡しながら呟いた。
「ええ、感じるわ。黒ローブの気配が……強くなっている」
私は静かに深呼吸し、心を落ち着けた。この場所で、すべてが終わる。
「さぁ、来い。隠れていないで姿を見せろ!」エドガーが剣を掲げ、叫んだ。
彼の言葉が響くと、闇の中からゆっくりと黒ローブが現れた。
冷たい風が遺跡の石畳を吹き抜け、私たちの頬を切るような感覚がする。薄暗く、崩れかけた古代の遺跡が私たちを包み込み、その静寂が異様な緊張感を生み出していた。黒ローブから発せられる魔力が遺跡全体を飲み込むように見えた。
「ここの魔法陣まで分かってしまうとは……やはり、聖女は侮れないな」
その冷たい声に、私は全身が凍りつく。
「あなた……どうしてこんなことをするの?」私は力を振り絞って問いかける。エドガーがすぐに私の前に立ち、剣を構える。
「ふん、お前たちには分かるまい。私の世界への恨み、そしてお前への恨み!」
「私への恨み……?」
その言葉に、私は混乱した。なぜこんなに私に執着するのか――。
黒ローブは、静かにフードを下ろした。その瞬間、息を呑む。
「まさか……あなたは……」
そこにいたのは、私自身だった。鏡を見ているように、彼女の顔は私と同じだった。ただ、その瞳は冷たく、心の奥底にある暗闇をそのまま映しているようだった。声もこの世を呪うような低い声になっている。
「そうだ、私はお前の影。お前が召喚されたときに生まれた存在だ」
すべてが繋がった。
私がこの世界に召喚されたとき、何かが欠けているような感覚があった。そしていつも焦りや不安がつきまとっていた。その理由は、この黒ローブ――私の影のせいだった。
「私は聖女として召喚されたはずなのに、どうしてそんなことに……」
「お前が聖女として召喚されたからだ。この国はお前を光としてのみ必要とした。影の部分は切り捨てられたんだ。だが、私は消えなかった――お前から離れ、ずっと存在し続けていた」
「じゃあ……未来視が使えなくなったのも、あなたが近くにいたから?」
「その通りだ。お前がどれほど光を持っていようと、影の私なら未来は遮られる。私はお前の力を奪い、今度はお前を消す番だ」
彼女の目が鋭く光り、私は身震いした。彼女は私を消し去ろうとしている。自分が消されないために――そして、この世界を壊すために。
「どうしてそこまで……世界を壊すなんて、何のために?」
「お前には分からないだろう。お前が聖女として崇められる中で、私はただ、ここに捨てられた存在だった。元の世界で抱えていた不満、悲しみ、孤独感――それはすべて私に押し付けられたんだ」
私は言葉を失った。確かに、元の世界では多くのことに悩み、不満もあった。だけど、それをすべて影が背負っていたというの?
「だから、私は世界そのものを壊すことに決めた。お前の存在ごと消し去り、光も影もなくしてやる。そして、何もかもを終わらせる。それが聖女召喚の代償だ!」
彼女の言葉に、私の心は揺さぶられた。彼女は私自身の一部だ。私の苦しみを背負った彼女が、私を憎んでいるのは理解できる。でも、だからといって――。
「そんなこと、させない!」私は強く叫んだ。
「私はもうこの世界で生きていくって決めたの。仲間たちと一緒に!」
エドガーも強く頷いた。「そうだ、アイリスはお前なんかに消させない。俺たちは彼女を守る」
ルーカスとレオンもすぐに構えを取る。
「俺たちの聖女様を傷つけるなら、影だろうが容赦しない!」
「そうだ、影だろうと何だろうと、私たちは彼女を守り抜く!」
みんなと生きていくために、この世界に生きる人たちのために、私たちは戦う。
読んでいただきありがとうございます!
今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。
今後ともよろしくお願いします。