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第10話 代償への覚悟

第1部全16章38,000文字となっています。評価していただければ続き書きます。ダメそうなら新作頑張って作ります!

「代償……」


 あの黒ローブが消えた後、その言葉について考える。一度戦いで勝利したくらいじゃ未来はかえられない? 彼が最後に呟いた「代償」という言葉が、私の心をざわつかせていた。


(何か見落としている? 私が聖女であることの代償って……?)


「アイリス、どうした? ケガしたのか?」


 エドガーがそっと私に近づき、心配そうに聞いてきた。彼の優しい声に、私はふと我に返る。


「ごめん、ちょっと……考え事をしてただけ。あの人が言ってた『代償』って、何のことなのかなって」

「そのことか。確かに、気になるな」


 エドガーは考え込みながら、私の隣に立つ。その距離が近すぎて、少しだけドキッとしたけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「エドガー、私たちは勝ったんだよね?」


 彼は真剣な表情で私を見つめ、少しだけ頷いた。「そうだ。君のおかげで勝ったんだ」


 彼はちゃんと肯定してくれる。私はまだ胸の奥にざわつきはあるけど、彼の優しさに少し安心した。


 しかし、いくら悩んでも、もうここで出来ることはないので、私たちは滅びの神殿を後にして王都に戻ることにした。


 ――――――――――


 雪が舞い散る中、近くの村に停めておいた馬車に乗り込む。皆は疲れ果てていた。ルーカスはぐったりと眠り込み、レオンは黙って外を見つめている。そしてエドガーは、静かに私の隣に座っていた。


 馬車の中はひんやりと冷たい。白い雪景色が窓の向こうに広がっているけれど、心の中にはまだ黒い霧のような不安が渦巻いている。


「ねえ、エドガー。あの黒ローブが言ってた『代償』って、何だと思う?」


 彼は少し考えてから、静かに言った。


「それはまだわからない。だが、あいつが簡単に退場するとは思えない。君が見たという滅びの未来が完全に消えたわけじゃない気がする」

「そうだよね……。未来を変えるために必要な何かがまだ見えてないのかも」


 エドガーが私をじっと見つめた。


「アイリス、君が未来を変えるためにどれだけ努力してきたか、俺は知っている。だから、どんな代償が待っていたとしても、君はきっと乗り越えられる」


 彼の言葉に、胸がまた少しだけ高鳴った。


「ありがとう、エドガー。あなたがいてくれて、本当に心強い」


 彼は微かに笑い、私の手をそっと握った。その手のぬくもりが、冷たい馬車の中で私を包み込む。こんな時でも、エドガーがいることで不安が和らぐ。


 その時、ルーカスが寝ぼけた声でぼそっと何か言った。


「寒い……レオン、なんかあったかいのくれ……」


 レオンは呆れたように笑いながら、隣にいたルーカスにマントをかけてやった。


「お前はいつもだらしないな。少しは自分で何とかしろ」


「無理……今は動けない……レオン、お前しかいないんだ……」ルーカスはふにゃふにゃとした声で返事をし、半ばレオンにもたれかかる。


「まったく、世話が焼けるやつだな」


 そう言いながらも、レオンはルーカスに優しくマントを直してやって、馬車の揺れに合わせて二人がなんとなく寄り添っている姿が微笑ましかった。


 エドガーもそれを見て微かに笑みを浮かべた。「あいつら、仲がいいな」


「そうだね……」私も小さく笑いながら、二人のやりとりを見ていた。


 こんなふうに、仲間と共にいる時間が、今は何よりも大切なんだと感じた。


 ――――――――――


 王都に戻ると、街の様子がいつもと違っていた。


 以前、魔物の集団に襲撃されそうになったときと同じだ。通りを行き交う人々の足取りも重く、まるで不安な影が覆い尽くしているかのようだった。何かが、確実に起こっている――それが肌で感じ取れる。


「どうしてこんなに静かなんだ?」レオンが、少し不安そうに周囲を見回した。


「私たちが離れている間にまた何かがあったのかもしれない」私は王都の様子に異変を感じ取りながら言った。


 ギルドに到着すると、そこでも異様な雰囲気が漂っていた。ギルドの仲間たちは顔を曇らせ、まるで何か大きな問題が迫っているような気配が漂っている。


「これは……どういうことなんだ?」ルーカスが、ギルドの受付に尋ねる。


 彼女は少し顔を俯かせ、困惑した表情で答える。


「……実は、最近、王都の地下水路で異変が起きているんです。強力な魔物が現れ、冒険者たちも対処に苦しんでいる状況です」


 その話を聞いて、私たちは言葉を失った。王都の中まで魔物が進行してきている……そんなことが、私たちが戦っている間に進行していたなんて。


「もしかして、これが……代償?」私は静かに呟いた。


「その可能性はあるな」エドガーが冷静に分析する。「黒ローブが言っていたことが、これに関係しているとしたら、俺たちはまた新たな脅威に直面しているかもしれない」


 ――――――――――


 その夜、私は未来視の力に頼ることにした。


 一人静かに目を閉じ、未来を見ようと集中する。何が起こっているのか、このまま放っておけばどうなるのか――それを知るために、私は再び未来視の力を使った。


 目の前に浮かんだのは、再び滅びの光景だった。街が崩壊し、人々が逃げ惑う。未来は、変わっていない。


 「どうして……どうしたら未来は変えられるの……」


 黒ローブの言葉が脳裏に蘇る。


「代償を覚悟しろ……」


 その声が、耳元で囁くかのように思い出される。


「くっ……どうしたら……」


 その時、背後から静かな足音が聞こえた。振り返ると、エドガーが立っていた。


「アイリス、何をしている?」


「未来が……まだ変わってないの。滅びの未来が、まだ消えてない」


 私は焦りと不安でいっぱいだった。彼がそっと私の肩に手を置く。


「大丈夫だ、アイリス。今は未来が変わらなかったとしても、今度こそ俺たちで変えよう。君は一人じゃない。俺たちがついている」


 その言葉に、涙が込み上げた。未来視の力は確かに強大。でも、未来を変える力は、仲間と一緒に戦うことでしか得られないのだと感じた。


「エドガー、ありがとう……あなたがいるから、私はまた立ち上がれる」

「俺は君を信じてる。なにが待っていようとも、俺たちで乗り越えていこう」


 彼の両手が私の肩をぎゅっと握り締め、私はその温かさに包まれた。これからまた新たな戦いが待っている。でも、私はもう一人ではない。エドガーや仲間たちがいる限り、どんな未来だって変えられる。

読んでいただきありがとうございます!


今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いします。

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