イベント報酬
イベント期間限定エリア【霞高山帯】。
ここにしかない採取アイテム、モンスターなどが存在する特別区画。
ルシフェルとミストラルはイベントの詳細やログインボーナスの獲得の仕方など、ゲームの知識を確認しあいながら進んでいた。
「何か視界の端で点滅してるのがあると思ってたまま触ってなかったこれがログインボーナスか」
「そ、基本ログイン事に小さなアイテムとかが貰えるんだ、取っててまぁ損は無いよ」
「お、モンスターいるぞあそこ」
「見つけたら全部狩っていこう、ドロップアイテム集めないとイベント進まないから」
「先手やらせろ、前回試せなかったやつやらねーとな」
「あー、インゴットの」
「あぁインゴットの」
ルシフェルはゆっくり歩いて苔の塊の様なモンスターが気付く距離まで進む。
20メートルほどの距離に近づいた所でモンスターは気付き突進してきた。
「苔のスライムか? まぁ関係ねー、ぶっ放してみるか」
前回の報酬にあった鉱物インゴット、それをインベントリから射出スキルで打ち出した。
空気を切るゴゥ! という音とともに回転して飛んでいき苔スライムをブチッと潰した。
「ふはは、いけるじゃねーの! おっと忘れる前に回収回収」
ドロップは苔むしたコインが1枚、恐らくこれがイベント攻略に必要な物だ。
「おおー、中々の威力⋯⋯インゴットが武器になるとか⋯⋯」
「ハハッ、手間かからねー上にタダだぜ」
「スキルMPも微々たるものだしコスパ最強じゃない?」
「飛ばしたアイテムが壊れなきゃな」
「あ、そうか」
「使い捨て出来そうな武器ドロップありゃー使いやすいんだがな」
「んー、それはドロップ率上がらないと厳しい⋯⋯あ⋯⋯」
「ふん、気付いたか? そうだ、収集家のスキルの1つ【ドロップ率アップ】だ」
「考えてるね」
「当たり前だ、さぁどんどん潰していくぞ」
「僕の出番あるかな⋯⋯」
そこからルシフェルが見つけ次第インゴットでモンスターを潰していき、中間地点へと到着した。
「あそこにある苔むした石の祭壇でコインを使わないと先に進めないらしいよ、中ボスみたいのが湧くらしい」
「けっこうあるぞコイン」
じゃらじゃらとインベントリからコインを出すと80枚はこえていた。
祭壇の中心へ行くと下から柱がせり上がってきた、その先端には貯金箱のようにコインを入れる穴が空いている。
そこにコインを入れていくと50枚を入れた時点で柱が下に沈み始めた。
「来るよ!」
祭壇が崩れ始めたと思ったらまるでロボットの様にガコン! ガコン! と組み立てが始まり苔石のゴーレムが現れた。
「苔やらキノコやら色んなものが生えてるね、ガーデニング用かな?」
「分けわかんねー事言ってねーで構えろ、お前の出番もくれてやる」
「やっさしー」
ミストラルは魔法陣を展開させ左手を前に突き出しそこに右手をバチンと合わせると両手を引き離す。
「先手いくよ! 武器召喚【サラマンダーアロー】!」
両手の動作をトレースして炎の弓矢が現れ、右手を話すと小さな炎の龍が放たれた。
動きの遅いゴーレムに直撃するも表面の苔が焦げただけで本体にはあまりダメージは無いようだ。
「やっぱりゴーレムに属性系は相性悪いなー、じゃあこれはどうだ! 従魔召喚【鎌鼬】!」
地面に描かれた魔法陣からつむじ風が巻き起こる。
そこから現れたのは尻尾が鋭い鎌になっている金色のイタチ。
「薙ぎ払え!」
つむじ風が鎌鼬を包み込むとフッと消え、次の瞬間にはゴーレムの後ろに立っていた。
ギャギギギン!! と遅れて斬撃がゴーレムを包む。
「うわー⋯⋯傷跡残るけど大したダメージになってないや⋯⋯」
「じゃあ俺の番だな、高速の鉄と石ってどっちが硬いんだろな?」
先程レベルが上がり【射出スキル】を1つ上げていたルシフェルは試しインベントリから高速回転させた鉄インゴットを放った。
ガゴンッ!!
ゴーレムの頭部から重々しい音が響くと同時に距離を詰めていたルシフェルはインゴットをインベントリに自動回収、再度近距離から鉄インゴットを打ち出した。
流石に回転運動を加えた高質量の物理の塊は効くようだ、ゴーレムの頭が凹んでひび割れている。
「おー効いてる効いてる!」
ヒットアンドアウェイでガンガン鉄をぶつけまくっているととうとうゴーレムの頭が割れた。
「インゴット1個しかねーのめんどくせーな、ちょっとボコボコに曲がってるしどっかで買うか」
「勝っちゃったよボスキャラに⋯⋯収集家って非戦闘職だよね⋯⋯」
目の前の現実を受け止めるのに少し戸惑うミストラルを横目に、ルシフェルはドロップアイテムを回収する。
「なんだこりゃ? 【仙人の霞】?」
「イベントドロップ品だよ、それを持ってこの先の仙人のとこに行くと全キャラ対応の新しいスキルを習得可能みたい」
「そうなのか、スキルとかよりコレクションアイテムくれよな」
「この先のゲームで重要になってくるスキルらしいからとっとかないと後で大変かもよ」
「めんどくせー」
「まぁまぁ、そう言わずにモノのついでだよ、行っとこう」
「ちっ、しゃーねーな」
文句を言いながらも先へと進み始めるとミストラルが質問をしてきた。
「ねえ、今バズってる動画のニュースみた?」
「動画? ニュース? なんだそりゃ?」
「知らないか⋯⋯さっきの街、人ほとんどいなかったでしょ? 現実世界の夜空に魔法陣が現れて人達が倒れて世界中がパニックになったんだよ」
「あぁ、それでかガラガラだったのは」
「運営が頑張ってくれてるのか誰も管理してないまま動いてるのか分からないけど、今ゲームしようとしてる人はほとんど居ないんしゃないかな?」
「邪魔が居なくていいんじゃねーか」
「プレイヤー居ないとゲーム終わっちゃうよ」
「む、それはダメだ」
「お前はゲームしてていいのか?」
「僕はこれしか出来ないから⋯⋯」
「まぁ俺もそうだな」
「あはは、似た者同志たね」
「⋯⋯」
「そう、それで動画なんだけどね、男性が指に火を灯してる奴が嘘かホントか議論を呼んでるんだ、特殊能力だ、AI生成だ、魔法だ何だってね」
「それがどうした?」
「魔法だよ魔法! 現実世界に魔法陣が現れたんだよ! 間違いなく魔法だと思うんだ!」
「属性魔法ぐらいで何をそんな⋯⋯あ⋯⋯」
「属性魔法? 火属性の魔法だとは思うけど?」
(しまった⋯⋯今の世界は魔法ないんだったか)
魔法が身近にあるルシフェルにとっては何をそんなしょうもない事に、と思ったが直ぐに思い留まった。
「ひ! 火! 火を出したんなら火魔法だろ!?」
「だよね! 僕は本物だと思うんだ、すごいよね! あー使ってみたいなー魔法」
「ま、まぁ便利⋯⋯だよな?」
「ログアウトしたら僕も試してみるんだ」
「あぁ、が、頑張れよ」
「うん!」
そんな会話をしながら歩いていると滝とその麓に小さな寺のようなものが見えた。
「あそこかな? モンスター出なかったね」
「拍子抜けだ、さっさと行って帰るぞ」
建物の中に入ると中は古い東洋の寺をイメージした内装で、お香炊かれている煙の奥に人影が見えた。
近づいていくとそこに見えた人影は後頭部が少し長く、まさに誰もが仙人と口を揃えて言うだろう老人が座っていた。
もし少しでも興味があればブックマークや下の★星評価を頂ければ励みになります。