変化
十三達は翌日、新たな異変が無いのを確認した後に真姫に別れを告げて十石神社へと戻った。
「ただいまー」
「帰って来たか、どうじゃった?」
「救助活動後に2度目の魔法陣が顕れた後、倒れてた人達が目覚めたから家に帰して周囲のパトロール終えてとりあえず終了。
昨日の魔法陣後こっちは何もなかったの?」
「警戒はしとったが何も無かったわい」
「倒れてた人達が起きた理由も多分分かったよ」
「なんじゃと!?」
「あの魔法の効果は恐らく地球上の全生物への【魔臓器】の強制覚醒だよ」
「魔臓器の覚醒!? それで魔素を循環出来るようになって起きたのか、それも全世界で⋯⋯何と言う桁違いな魔法じゃ」
「覚醒しただけで呼吸法も魔法知識も無いから以前と何も変わらないみたいだけどね」
「魔素があって生物の魔臓器が覚醒してる地球の状態が欲しい理由⋯⋯魔法と古代の魔物が蔓延る時代が狙いだとしか思えないんだけど」
「歴史を知る者からしたらそうとしか考えられんのぅ、そしてその阻止は今のところ不可能に近い」
「止められないならそれを前提とした対策をとっておいた方が得策かもね」
「じゃな、後手に回るのはもう十分じゃろ、紫暮に報告を入れておこう」
正源はその後直ぐに紫暮へと報告を入れ、皆で昼食をとった。
その時、食後にスマホをいじっていた春名が驚いて声をあげる。
「ちょっとこれ見て皆!」
1つのスマホに皆が集まり覗き込む。
そこには指に小さな火を灯して狂喜乱舞している男の姿が映っていた。
「CG⋯⋯AI生成映像⋯⋯?」
「みたいに見えるけど私達はこれを知ってる」
「魔法の属性発動」
言いながら那波が指に火を灯す。
「魔法陣や体系、言語、呼吸法、何も知識は無い筈だから威力のある魔法は使えないと思うけど⋯⋯」
「適正ある属性を体内を巡る微々たる魔素で灯す事は人によっては可能と言うことね」
「そんな事を日々試してる奴がいる事実も中々だけど、拡散されたら世界中で魔法の存在が現実味を帯びる訳だ」
「アニメやゲーム、漫画、小説が大好物な人達には垣根は低いかも」
「日々、魔法を夢見てイメージトレーニングは修得済みって事か」
「そうなると後の最大の壁は⋯⋯呼吸法⋯⋯ミトコンドリア⋯⋯そして最後に必要な魔法に関する全知識」
「次の狙いが絞れたかもね」
「狙いが分かっても止められないならどうしようもないんじゃない?」
「呼吸法を全生物が獲得する方法⋯⋯と阻止⋯⋯」
「そんな方法思いもつかないよ」
「そういえば世界中の魔法を知る一族からはさ、その力に落ちた【暴走者】が居るんだよね? その人達が絡んでるってことは?」
「確かに【暴走者】はおる、がその数は多く無い。
一族もしくは国、組織の特殊部隊などによって殲滅されるからのぅ、まぁそれでも逃れた輩やその組織は確かに存在する。
しかし今回の件、そんな輩が引き起こせる範疇では無いわい」
「そっか、もしかしてと思ったけどこんな神がかった事が人に出来る筈ないもんね」
「人じゃなければ?」
「どういう事じゃ?」
「例えば私達はダンジョンで狼の魔物が暴走して神の下僕みたいな奴と戦った、エジプトの犬神アヌビスみたいな奴。
そして、十三が落ちた時に顕現した大天使と魔王ルシフェルとミカエル」
{途中に失礼します、ルシフェル様もミカエル様も、古代の神々と言われる者達も実在した人間、もしくは魔物です。
天使でも魔王でも、ましてや神でもありません、その絶大な力からそう伝えられてきただけです。
先日も伝えましたが神と言われる存在は古代でも確認された事はありません}
アイが情報の補足の為、会話に割って入ってきた。
「ルシフェルでもこんな魔法は無理だって言ってたよね」
月穂が以前のルシフェルとのやり取りを思い出す。
「言い伝えの最強の魔王や大天使でも無理となるともうさっぱりだな」
「いち生物が扱える魔素量、魔法陣なんてこの件の魔法からしたら小石飛ばすレベルだもんね⋯⋯」
「月を魔石に作り変えちゃってるんだ、小石でも大きいレベルだと思うよ」
「結局、何も出来ないのか⋯⋯」
「紫暮さんに伝えて世界中の一族に共有できたら何にも分からないのよりは心構えができてる分少しはマシだと思うよ」
「そうだね」
その日は紫暮への報告をして夕食をとり、その後は早めに休む事にした。
そして就寝前⋯⋯
[おーい、じゅうぞーう⋯⋯俺達のゲームの時間忘れてるんじゃねーだろなオイ]
頭の中で恨めしそうに響く声。
「グッ⋯⋯待ってたのかルシフェル」
[ったりめーだろ]
〈この大変な状況で何も出来なくてすまない十三君〉
「いや、謝る意味がわからないよミカエル、流石に誰にもどうしようもないし」
〈過去、数万年を経験してきていても今の世界の状況は分からない、あんな魔法見たこともないよ〉
[どーしよーもねー事はどーしよーもねーんだ、早く寝て体よこせ十三]
「いやまあその通りなんだが⋯⋯
分かったよ⋯⋯今日は地下寝か⋯⋯」
確かにどうにもならない状況をうだうだ言ってもしょうがないので自分の寝てる時間を明け渡すことにした。
VRギアをセットしてルシフェルに体を渡すと直ぐにパンゲアオンラインへとログインしていった。
「フハハハハー! 数日ぶりだぜ! 今日はどうすっかなー」
すると視界の端に通知音と共に音声チャット依頼が入った。
「なんだこれ?」
アイコンをクリックしてみると声が響いてきた。
「おかえりルーシェ! こないだフレ登録したミストラルだよ」
「おう、何か用か?」
「連れない挨拶だなー⋯⋯まっ良いか!
えっとね新しいイベント始まったの知ってる?」
「イベント?」
「知らないか、激レアアイテムとスキル獲得のイベントなんだけどね」
「激レアだと!!」
「あはは、やっぱそこに反応するんだね」
「どこでどうやるんだ!?」
「ある程度はソロで行けるんだけど、中盤から2人以上のパーティー推奨なんだ。
ということでさ、組むかい?」
「激レアアイテムゲットできるんだろ!? 仕方ねーから組んでやる、連れてけ」
「オーケー、話が早くて良いね! じゃあ最初の街の噴水のとこで待ってて」
「スタート地点だからもうそこにいる、すぐ来いよ!」
「オッケー」
通話を切って噴水に目をやった瞬間。
「お待たせー!」
「おわぁ!!」
「あははは、びっくりした?」
「すぐとは言ったが早すぎるだろが!! 現実と違って気配とか分かんねーんだ、いきなり後ろから声かけんじゃねー!!」
「ごめんごめん、ここ転移スポットだから転移石ですぐなんだよ」
「転移石? そんなもんあんのか、どうやって手に入れるんだ?」
「魔石商店で買うかモンスターからのドロップだね、たまにログインボーナスでも貰えるよ、後で教えるね」
「それでさっきの無礼はチャラにしてやる」
「お心遣い有難く頂戴致しまする」
「なんだそりゃ」
「あははは、ルーシェがそんなキャラだからやってみたけど違うよね」
「変な奴だ」
「よく言われるよ。
さて、時間ももったいないし行こうか? 詳細は歩きながら説明するよ」
「おう」
二人はイベント対象の討伐モンスターががいる場所の近くの街へ転移ゲートから移動し、【霞高山】へと向かった。
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