全世界一次覚醒
2度目の夜空を埋め尽くす魔法陣を見て十三は直ぐにアイに問いかけた。
(アイ! 何か分かるか!?)
頭の中でアイに問いかける。
{いえ何も、前回同様に未知の魔法です}
アイの答えは1度目の魔法陣の時と変わらなかった。
「クソッ! 今度は何が起こるんだ!?」
「ここにいてもしょうがないわ、途中道中に気をつけながら救助者を収容した施設へ行くわよ!」
美沙の一声で皆は車に乗り込み、十三と真姫が担当したエリアの施設へと向かう。
車を駐車場に止めて中に入るとそこにいた全員が驚いた。
全員とは十三達だけではなく、救助者も含めた全員。
「皆!! 起きたんだ!!」
「ここはどこじゃ⋯⋯? おや、真姫ちゃん?」
「あれ? 私何でこんなとこに?」
「皆ー! 良かったよー!!」
真姫は近くにいたまだ小さな女の子に抱きついて涙を流した。
「え? え? 真姫お姉ちゃんどしたの?」
「志織ちゃんも皆もね、急に倒れちゃってここに運ばれてたんだよ、どこも痛くない? 変なとこない?」
「う、うん」
志織と呼ばれた女の子は自分の体をペタペタと触って確認するも異変は無い。
「何で起きたんだ? 魔素はまだ消えてないだろ?」
(アイ、どうなってるんだこれ?)
{救助者の状態を解析をした結果、1つ異変があります}
(異変!?)
{ここにいる人達の【魔臓器】が覚醒しています}
(え? どうやって⋯⋯
!! さっきの魔法陣か!! 月穂、聞こえたか!?)
(うん、さっきの魔法は多分これが目的だよね)
{発信源はやはり特定できません、魔法効果は恐らく地球上の全生物に対する【魔臓器】の強制覚醒がその効果だと思われます}
(最初の魔法で魔素を地上に満たし、2番目の魔法で環境適応させた? 誰が何の為に⋯⋯)
(星で描く世界を変える魔法⋯⋯本当に神様の力なの?)
{前回も伝えましたがその存在を確認出来た事実は無く、肯定も否定も不可能です}
(ねぇ、魔素があって魔臓器が働いてるなら魔素を知覚して体に流せるんじゃない?)
{理論上は可能です、しかし十三様や月穂様も体得している呼吸法【真呼吸】が無いと体内のミトコンドリアの極活性が出来ずに微々たる物になります。
今の状況は体が魔素を体内に取り入れても【魔臓器】により異物化せずに循環され、通常活動ができる状態になっていると思われます}
(人々にとってはほぼ今までと変わらないってこと?)
{人々には【真呼吸】も【魔象形文字】も【魔法陣】【魔法】の知識はありませんので魔法の行使はまず難しく、魔素があるだけでほぼ以前と変わらない状態にあると思われます}
(ほんと何が目的なんだよ⋯⋯)
{古代には本来魔素は無く、飛来した隕石がもたらしたと言われています。
その時点で私に自我はありませんでしたので人々の言い伝えを知るのみですが、魔素が地球に満たされた際に地上の生物のおよそ50%からそれ以上が死滅したと言われています}
(地球上の生物の半分⋯⋯)
{しかし今、魔素に適応できる以上その懸念は消えました}
(命の心配は当面無さそうか⋯⋯何にせよ結局は様子見以外出来る事はないんだよな⋯⋯歯痒いな)
アイのサポートによる思考加速とニューロリンクによる意思伝達で一瞬で月穂と現状を確認する。
「皆に異常が無いようなら帰宅してもらって他の救助者の確認と町の周辺調査したら今回の支部での活動は一旦終了かな」
「今日は支部に泊めさせてもらうけど念の為にもう一日こっちに滞在しようか?」
「ううん、救助者がいないならとりあえずは大丈夫だから明日解散でいいよ」
「そうか、何かあったらすぐ知らせてくれよな飛んでくるから」
「ありがとう、頼りにしてるよ」
「他の支部の人達はどうしてるんだ?」
「隣町とか少し離れたところを担当してる、多分明日には戻ってくるよ」
その後、他の収容施設で救助者の無事を確認しパトロールを終えると疲れたのか皆そのまま支部で眠りに就いた。
† † † † † † † † † † † † †
体が元々弱かった少女は中学に上がる頃、原因の分からない病に少しずつ蝕まれ学校に通うのも難しくなっていき、今では高校に通えずに入院生活を送っている。
少女のいる病院の一室はほぼ自室と化しており、本や漫画、携帯、パソコン、大好きなゲームで遊ぶ為のVRヘッドセットや様々なギアが置かれている。
その中でも少女はVRゲームが大好きだった、あまり動けない自分が仮想世界でなら動き回れる上に現実では出来ない事が可能だからだ。
通常、動き回る最低のスペースが必要な事があるVRだが、ゲームによってはグリップタイプのコントローラーなどで他の移動手段が可能なので彼女はそれを愛用している。
その夜、ゲームを楽しんでいた少女は途方に暮れていた。
急にゲームへの接続が途絶えたからだ。
携帯やネットは繋がっている。
すぐに公式サイトをチェックするが何の情報も無い。
「んー、残念⋯⋯遊べないや、何か問題でもあったのかなー?」
仕方なく携帯でSNSを眺め始めた。
「何これ⋯⋯AI生成動画? にしては上手いこと出来てる」
目に入ったのは夜空を埋め尽くす魔法陣の動画だ。
少女はずっとゲームに没頭していた為、外の異常に全く気付いていなかった。
「ニュースでも流れてる⋯⋯」
ふと気になってヨロヨロとカーテンを開けて外を見るとそこにはニュースと同じ様に人達が倒れている光景が目に入った。
「え⋯⋯何これ⋯⋯」
怖くなって直ぐにナースコールをするとしばらくしてから担当ナースが来てくれた。
「遠藤さん、外に人が!」
「起きたの? いやゲームしてたのかな?
最初見に来たときはVRゴーグルして動いてなかったから寝てるかと思ってたけど」
「ゲームしてた、それより外だよ!」
「もうニュースは見た?」
「夜空の魔法陣のやつ?」
「そうそれ、どうやら外にでると皆倒れちゃうみたいなの、外気に当たらなければ大丈夫みたいだから中にいた人は無事だよ。
でもだから外に救出にも行けなくて皆途方に暮れてるのよ」
「そんな⋯⋯何があってこんな事に⋯⋯」
「分からないわ、でも私達はとりあえず中で無事な人達のケアに当たってる」
「どうしよう⋯⋯怖い⋯⋯」
「大丈夫よ私達がいるわ、とりあえずこの室内でいつも通り過ごしておいて、何かあったらナースコール押してね、私はケアの必要な他の人達を回ってるから」
「うん⋯⋯」
それから少女は一晩をニュースやSNSをチェックして過ごし、そして2度目となる夜空の魔法陣の現象を目の当たりにする。
「う⋯⋯わ⋯⋯」
窓から見えるその壮大さにあっけにとられていると魔法陣は月へと収束し光を放った。
その後、外から声が聞こえてくる。
倒れていた人々が起き上がり始めたのだ。
「あ! 先生!」
フラフラと歩き始めていた男性に気付いてつい窓を開けて叫んでしまった。
窓が開いた瞬間に室内に薄甘い空気が入り込む。
(何の匂い? お菓子?)
「先生! 大丈夫!?」
「あ⋯⋯あぁ⋯⋯何があったんだ?」
「とりあえず中に入って来たほうがいいよ! ナースさん達もいるから!」
「分かった⋯⋯」
先生と呼ばれる男性が院内に入るのを見届けるとドサリとベッドに横になった。
「この甘い匂い⋯⋯何だろ? それとお腹の下が冷たいのにポカポカして体の中を回ってる」
体を巡る不思議な感覚に少女は困惑しながらも少し心地よさを感じ始めていた。
「あー、部屋まだ暗いままだった⋯⋯明かり明かり」
暗闇にあるランプのリモコンに手を伸ばそうと指を見るとそこには小さな光が灯っていた。
「え?」
理解出来ない状況も相まってしばらく自分の指から放たれる光を見つめていた。
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