再び
「久しぶり十三ちゃん! って⋯⋯あれ? 十三ちゃん死んでまうの? 横に天使がき降りてきとるよ⋯⋯」
「何言ってんだ真姫⋯⋯人間だよ」
「え?」
口が開いたままの十三の幼馴染、仙頭 真姫が月穂を見て固まっている。
十三と月穂、引率の美沙は長い長い山道を車に揺られて室戸岬にある【夢袖】室戸支部へと到着し、挨拶をしたところだった。
「宝生 月穂です、今日からお手伝いさせてもらいに来ました。
今は母の美沙と一緒に祠の試練の為に十石神社に滞在させてもらってます。
今日からご迷惑かけるかもしれませんが宜しくお願いします」
「こんなキレイな人現実にいるんだ⋯⋯じゃなくて、あのこちらこそ宜しくお願いします。
田舎だし人手が足りなくて⋯⋯本当に助かる」
月穂に見とれていた慌てて挨拶を返す。
「十三ちゃん! 十三ちゃん!」
「何?」
「天使じゃないなら⋯⋯彼女?」
「ブッ! いきなりプライベート突っ込みすぎだろ!」
「だってデザインは見えないけどおそろいのネックレスの鎖が見えるよ」
(鋭いな⋯⋯女の子ってそういうとこ気付くもんなのか)
「あ⋯あぁ、これは祠の試練で拾った戦利品だ、魔素のあるところだと強化効果が少しついてるんだ」
「ふーん⋯⋯」
少し懐疑的な目を見せられて十三は焦ったが何とか顔には出るのは抑え、事前に打ち合わせで決めていたアイの扱い方を思い出しながら真姫に伝える。
思わず生唾を飲み込みそうになるのを我慢しながら話題を逸らそうと試みる。
「救助活動のほうはどうなんだ?」
「とりあえず人手が足りなすぎて⋯⋯外にいた人ほぼ全員倒れてるから全ての家、建物、道、くまなくチェックしないといけないし、救助者を見つけたらそこから運ばないといけないからね、呼吸法で身体能力と効率上がってるとはいえ大変だよー」
「時間も人も全部が足りないわけだ」
「ほんと来てくれて大助かり、ありがとう」
聞かれた真姫はその大変さからか思わずため息をつきながら答えた。
「収容場所は学校とかか?」
「室内にいて難を逃れた家族がいる人達は家に、それ以外は付近の公共施設の場所を使ってる状態」
「なるほど」
「これから救助に向かうんだけど、人を運んだりするの一人でかなり大変だから二人一組で動きたいけどそれでいいかな?」
「あぁ」
「じゃあ久しぶりだし十三と行く!」
「ん? あぁOK」
「じゃあ私はお母さんと行くね」
「え!? お母さん!? お姉さんじゃなくて!? 似てるとは思ったけど美人な上に若すぎませんか!? あ、挨拶遅れてすみません、娘さんに釘付けになってしまって⋯⋯」
「あらまあ、若いだなんて嬉しいわ!
月穂の母の美沙よ、宜しくね真姫さん」
「はい!
十三はこんな美人さん達を囲い囲まれる生活してんるだ」
「ちょ! 言い方!」
「短期で家に厄介になってるだけですよ」
「そうそう、祠の試練クリアの為に」
「戦利品あるってことはクリアしたんでしょ? あれ? 違った?」
「クリアしてから追加で鍛錬してるんだ、古武術習ってるんだよ」
シュッ! シュッ! と手刀を繰り出す様は恐ろしい程に様なっていない。
「ふーん⋯⋯そうなんだ。
ねぇねぇ、あわよくば狙ってるんでしょ? いや⋯⋯女性に免疫の無い十三ちゃんには無理か」
「さっきから失礼な上にプライベートつっこみ過ぎだっての」
「へーい、すいませーん」
「コイツ⋯⋯」
テヘッ、と舌を出して笑う真姫を見て十三は救助に向かうこれからが少し思いやられた。
それからは少し準備を済ませてから救助へ向かう事にした。
「あ⋯⋯美沙さんと月穂さん土地勘ないから組ませたらダメじゃん⋯⋯」
「あ、ほんとだ」
「よーし! 月穂さん私と組もうー!」
「はい、足手まといにならないように頑張ります!」
「じゃあ十三君、道は任せたわね」
「はい、美沙さん」
「じゃあスーパーを中心に分かれて行きましょう、私達は西と南ね月穂さん」
人口の少ない陸の孤島とはいえ一人二人で町をカバーはできない、しかし全ての道を埋めていきながら家等も訪問もして行くしかない。
分かれて歩いて5分もしないうちに月穂と真姫のチームは2人の救助者を発見、そのまま先にある体育センターへと運び込む
。
「ただ寝てるみたいに見えるね、倒れてる人達」
「魔素に当てられてるだけだから命の危険は無いんだけど、このまま意識無いと生命維持に問題でてくるよ。
体の弱い人を優先に点滴をしていってるけど人が全然足りないから中々⋯⋯
こっちのエリアはまだ未調査の方角だからまだまだ救助者がいる、大変だけど頑張ろうね」
「はい! 何でも言って下さい!」
「よし! じゃあまずは敬語禁止!」
「へ?」
「月穂さん歳はいくつ?」
「20歳です」
「一緒だ、十三にも敬語?」
「いえ、最初はそうだったんですが話し合って敬語は禁止しました」
「じゃあ私達も同い年だし敬語禁止でいこうよ」
「はい! じゃなくて⋯⋯うん分かったよ真姫」
「月穂は呼吸法身につけて祠も行ったんだよね、魔法使いさん?」
「うん、それしか出来ないけど⋯⋯」
「いやいや、魔法使えるんだよ! それしかって、あはははは」
「あははは、そうだよね」
「真姫はどうなの? 魔法使いさん?」
「私も魔法は多少使えるけど、メインは古武術流派の小太刀だよ、本当は刀を使う流派なんだけど長さと重さが合わなくて」
「刀使うんだ、カッコイイ!」
「刀を小太刀に合わせたからかなり我流なんだけどね、でもその辺の男共よりは強いよー」
雑談を交わしながら救助者を見つけては運び込んでいく。
大変な救助作業で時間があっという間に過ぎていき気付くともう日が落ちそうになっていた。
支部へ戻ると美沙と十三が夕飯の支度を既に終えて待っていた。
「うわー、ご飯だ! やったー!」
「勝手に冷蔵庫にあるものでありあわせたからあまり喜べるものじゃないけど」
「おにぎり大好きー! せっかくだし外出て岬で食べようよ!」
「お、いいなそれ賛成」
「じゃあ車で行くから道案内お願いね」
「らじゃー!」
足摺岬に並ぶ四国の先端、室戸岬。
その先端の山の上に展望台がある。
水平線が丸く湾曲して見える絶景へと日が落ちるのを眺めながらの夕飯を提案され、即全員が賛成した。
「うわー! 凄い景色! こんなの見たことないよ!」
「綺麗でしょ、大好きな場所なんだ。
途中のハイウェイの景色も絶景だし、これから天の川と満点の星が拝めるよ」
「皆疲れてるだろうしゆっくり食べながら地面にごろ寝して眺めよう」
「んふふ、楽しみね」
持ってきたおにぎりや卵焼き、タッパーに入った芋の茎の炒めものなどを皆でつまみながら喋っていると太陽沈んで星が顕になってきた。
「先日の騒動で星を見上げるのちょっと怖くなっちゃったな⋯⋯」
「まさかあんな事が起こるなんてね」
「これからどうなるんだろ? このまま続くってなったら魔素に適応出来ない人達は生きていけなくなっちゃう」
「そればかりは誰にも分からないよな、その原因を突き止めたとしても戻せるのかもわからないし」
「うん⋯⋯」
「今は考えても何も動かない、手の届く人達を助けるのが先決だよ」
「そうだよな」
「今出来ることを⋯⋯」
その時突如十三と月穂の頭に声が響いた。
{来ます!!}
(うわっ! 何!?)
(アイ!? びっくりした! 来るって何が!?)
その時、全員の背筋が凍りついた。
美しくも畏怖を抱かせる夜空を埋め尽くす魔法陣に目が釘付けになったからだ。
「ま⋯⋯マジでまたくるのかよ!」
「嘘でしょ⋯⋯」
「そんなこれ以上⋯⋯」
「どうなるのよ⋯⋯今度は⋯⋯」
空の魔法陣は前回同様、蠢き、相互に展開し、まるで生きている花火の様に空を埋めていった。
そしてそれはしばらくするとまたも月へと集約され、大きな光を地上へと照らした。
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