夢の共振
(何だ今の!? 夢??)
十三はビッショリと寝汗をかいて心臓がバクバクいってるのを気にも留めず、先程の夢の内容に思考を巡らす。
(今までもそうだけど今回は異常だぞ、たぶん……見られた?)
ただの夢なのか他の何かなのか、少しパニックになりながらも考える。
古代の夢、昔の人々の記憶、先祖、一族、ミトコンドリア、契約、呪い⋯⋯
考えがグルグルするだけで纏まらない。
(シャツビシャビシャだ、とりあえず風呂だな、汗流さないと)
止まりそうな思考の中、習慣のように夢を見た後に入る朝風呂に意識が向く。
何時かはわからないが夜中か早朝だろう、まだ外は暗い。
(汗を流して落ち着いたらとりあえずもう一度寝るか、考えてもわからないだろうし⋯⋯寝れるかな?)
短く風呂に入ってスッキリした後、少し火照った体を冷ますため外のベンチに座りに行くと、そこに人影が見えた。
「!? 月穂さん?」
「え? 十三さん? すいませんもしかして外に出る時起こしてしまいましたか?」
「いや、例の夢で起きて汗かいたのでちょっと風呂と湯冷ましに」
「十三さんも例の夢で?」
「ちょっといつも見る夢と違って少しショッキングだったんで⋯⋯」
「私もです、夢の中で私と十三さんを鳥居で見られて⋯⋯そこで起きて寝れなくて」
「!?」
「どうしました? 十三さんは夢の内容どんなだったんですか?」
汗を流したばかりなのにまた冷や汗をかいてきた。
「月穂さんの見た夢、もしかして二人でピラミッドから転移して、ある場所の最深部の調査にでて、そこの最深部調査の結果が自分達の姿を見られる、とかいう衝撃的な内容だったりします?」
「!?」
月穂が少し青ざめる。どうやら同じ内容の夢を見たようだ。
(何だコレ? 同じ夢を見た挙句に夢の住人からこっちを見られる?)
「十三さん、こんなの普通じゃないですよね?」
「分からないけど、継承している別一族が縁ある場所に集まったからとか?単に夢の続きが同じ夜に合致したのか、でも夢からこっちを見られるのは⋯⋯」
「ですよね⋯⋯」
「勝手な憶測しか浮かんできませんけど偶然はまずなさそうですよねさすがに。
んー、ちょっと突飛な考えになりますけど、古代から継承してきたミトコンドリアが共振とかそういう事とか⋯⋯」
「細胞に囲まれたエネルギー製造機が他とコンタクトなんて⋯⋯いや、無くもなさそうですよね、ここまでくると」
「結局、何もできずに憶測と経過をみるしかないのかな⋯⋯歯痒いな」
「ですね⋯⋯」
「せっかくですし、少し眠気が来るまで夢のお話しませんか? やっぱり色々と気になりますし」
「いいですね、そうしましょう」
月穂は合いの手を叩いて賛成する。
十三と月穂はお互いに夢の内容をかいつまんで話した。
夢の視点が異なるのに内容が似通っている、少し予想していた事だがどうやら登場人物別に夢を見ているようだ。十三は●■▲視点、▲●■は月穂。
偶然であり、偶然ではないのかもしれない。憶測ばかりだが、それぞれの祖先から継承してきているのだろう。
「私達、もしかしたら遠い祖先の頃に一緒に生きて、一緒に生活して、一緒に戦ってたんですかね。こうさらに実感するとなんだかとても不思議な感じです」
「一族がお互いに懐古に包まれるのもここに起因してるのかな?」
「えーっと、あの……確証もまだないですけど……
今世でも宜しくお願いします」
ふと見ると、少し涙を浮かべながら手を差し出す月穂、自分の涙に少しビックリしているようだ。
十三も祖先の感情に揺さぶられたのか少し涙が目尻に溜まる。ゆっくりと握手を交わす。
月穂になのか、いるかもわからない神様に対してなのか、十三は心から湧き上がってきた感情を言葉に出した。
「宜しくお願いします。
そして⋯⋯ありがとう」
その言葉に月穂は揺さぶられたのか、大粒の涙をポロリとこぼして微笑む。
その後は二人とも部屋に帰りまた眠りについた。
夢の続きは見ずに、深く、深く。
次の日、十三はいつもの様に目覚ましの前にスッキリと目覚めた。
顔を洗ってキッチンへと向かう。いつも通りキッチンからは良い匂いが立ち込めている。
「「「おはよう」」」
「おはよう」
十和呼と美沙がキッチンに立っており、正源が卓についている。
ちょうどそこに月穂も来た。
「おはようございます」
「おはよう月穂さん、ちゃんと眠れたかしら?」
十和呼が尋ねる。
「はい」
と返事しながら十三を見て、十三も月穂を見る。
周りがそれを見て ?? の状態になる。
「え? 何? 何かあったの?」
「いえ、昨日十三さんと少しこれからの事を話してたのを思い出しただけです」
少しアタフタする十三を他所に、サラリと答える月穂。
「何を話してたかは別に聞かないけど、仲良くなれたんなら良かったわ」
と十和呼は優しく答える。
「若いって良いわねー」
美沙がポツリとこぼす。
まだ十分若いのに、と言いたかったが女性に年齢に関する事は言わないほうが吉だと判断し十三は流した。
そのままワイワイと雑談しながら温かく美味しい朝食を楽しむ。
当然の事だが三姉妹は相変わらずこの時間には起きてこない。
(この前、月穂さんが来る日に全員起きてきてたのは奇跡だったのか、俺のサポートをする約束はどこいったんだ? ちくしょう! 小遣い返せ!)
と内心文句を浮かべながらも、今の所は昨日の那波の喝と夜中の出来事で予想外に上手くいっている。
(よし、朝食後は道場で本格的に鍛錬だな、月穂さんも初めてだし気合を入れて挑まないとな)
食後はすぐに部屋に戻り準備を整え、道場へと向かう。
道場にはすでに正源が座していた。ほぼ同時に十三と月穂は到着する。
「座りなさい」
言われるまま二人は正源の前に正座をする。
「今日から約1ヶ月を目処に鍛錬を開始する。十三は呼吸法の維持、その間に月穂さんには戦闘訓練を行う。昼からは十三は呼吸法を維持しながらの戦闘訓練、月穂さんは祠入り口にて魔素を取り込みながらの鍛錬じゃ」
「「はい」」
「何を行うにもイメージのコントロールは最優先で重要じゃ。思考をプラスに保ち、しっかりと目標を描き、真実を解し、そこに向かって常に取り組みなさい」
「「はい!」」
十三は道場の横にはけ、あぐらをかいて真呼吸を始める。中央では道着を着た月穂は道場の中心で正源と向き合う。
(道着なんて着るの初めてだけどあってるよね?)
黒に赤のラインが入った道着をみて帯を締め直す月穂は少し緊張している。
人生初めての格闘技でなのだから当然だ。
「まずは型を覚えていく、しばらくの間は基礎鍛錬じゃ。型と組み手をゆっくり行いながら経過を見て約半月後を目処に実践に入る。
タスクは月穂さんのほうが十三より圧倒的に多い、時間を無駄にせず心してかかるように」
「はい! 宜しくお願いします」
気合十分の月穂、気負いすぎてもいないようだ。
横で十三は真呼吸しながら夢の事を考える。昨日までに得た情報をまとめてみる。
➀ 一族に継承される古代の記憶の夢
② 継承はミトコンドリアとの契約で女系遺伝する。
③ 夢の記憶は1パターンではなく、古代の個人の記憶が継承遺伝されていると推測する。故に他の登場人物の記憶は他の一族が受け継いでいると思われる。
④ 夢の内容は鮮明に覚えている。忘れては継承や警告への意味は無いだろうからそういう設定もミトコンドリアとの契約にあるのかもしれない。
⑤ 夢の時間順序はバラバラ。世界の破滅を見たあとに次の夢は日常生活やそれに続くものだった為。
➅ 近くに他の継承一族がいると夢の内容がリンクする可能性(今後、要検証)
夢の人物からこちらを見られたようだが、そういう魔法なのかは不明。
事象が何も確定していない時点で未来視など可能だとは思えない。
数万年前に未来の分岐のうちの一つ可能性を見たのかもしれないが、数万年先の分岐のうちの一つなんて天文学的な数字のレベルを超えている。
現実と混同した夢の中の何かのバグの可能性の方を今は支持する。
(次の夢の内容を月穂さんと共有して検証すればいくつか謎がとけるかな? なんにせよ色々な事が突飛すぎて判断のしようがない)
途方に暮れそうになっていると、月穂の型の練習が始まった。