魔法専用兵器と大賢者
ゴーレムver魔導乙女との戦闘は魔法の攻撃と防御の応酬になっていた。
だが現状、月穂とアイ対魔導乙女という2対1という構図になっており数的優位に立っていることもあり押している状況だ。
「このまま手数で押したら勝てそうかな」
「時間は少しかかりますが可能です」
その時、そのやり取りが理解できたのかは不明だが魔導乙女の様相が変わった。
身体に浮かぶ詠唱の変わりの古代文字、その身体の左右でズレが出たのだ。
「文字の流れが変わった、何あれ?」
「左右で別の魔法が構築されている様です」
「同時に二つの魔法を展開してるって事!? それに文字量がとんでもなく多い!」
「どうやらその様です、強力な魔法が予想されます」
魔導乙女の左右の手から別の構成の魔法陣が生成された。
「多重防壁を貼ります、月穂様は次の攻撃魔法の準備をして下さい、魔法陣構築はサポートします」
月穂は直ぐに光魔法の準備に入る。
『穢れ無き太陽の力 星の極みで揺らめく波光 女神のヴェールに触れし者 星の想いに焦がれ落ちゆく 撫で焦がせ⋯⋯【極光焦帯】』
頭上高くに魔法陣が複数形成されそこから極光のような帯が顔を見せた。
月穂の魔法の発動中に魔導乙女の構築した巨大な魔法陣から魔法が二つ同時に放たれる。
一つは巨大な岩での頭上からの質量攻撃、もう一つは氷で出来た龍が口を開けて襲ってきた。
「一つは中級魔法の氷! アイ大丈夫!?」
「はい、月穂様は攻撃魔法に集中して下さい」
頭上からの大岩がズシン! と障壁にぶつかると岩から太く鋭い棘が無数に飛び出した、障壁の幾つかがパリンッ、 と割れた。
そのまま大岩は消えすに質量にまかせて押しつぶしてくる。
正面からくる氷の龍は大きく開けた口で障壁にぶつかるとさらに障壁が割れた。
それだけではなく開けた口から氷の槍を伴ったブレスを吐き出した。
「ぐぅ⋯⋯!」
「強度を上げる為、残りの障壁を融合させます」
何枚もあった障壁のうちの残りを一つに融合させて攻撃を凌ぐ。
それと同時に月穂の魔法が上空から魔導乙女へとオーロラのように舞い降りた。
ジュバッ!!
物体を蒸発させるような音が魔導乙女を包み込むと大岩と氷の龍が掻き消えていった。
月穂の放った光のオーロラが魔導乙女の表面組織を焼き焦がしたのだ。
それにより表面を覆っていた古代文字が掻き消えて魔法が消滅した。
「さすがにあの強力な魔法二発同時に加えての魔法障壁は不可能だったみたいだね」
「解析して探っていたコアとなる魔石が内部を移動していて掴めなかったのですが今止まりました、破壊します」
すると融合させていた障壁に魔法陣が映り込む、そして障壁は形を三叉の槍に変えると、キュンッ! と空気を弾いて魔導乙女の腹部を回転しながら突き抜けた。
コアを失った魔導乙女はスザッと砂に姿を変えて地面に落ちていく。
「ふぅ⋯⋯勝った」
「障壁が割れまくった時に助けに入ろうかと思ったけど、やったな!」
「アイいなかったら一人で勝てなかった、魔法のレベルが違いすぎたよ」
「やっぱアイは凄いな」
「ありがとうございます」
「あ、何か光ってるよゴーレムいた所」
砂の隙間からキラリと光を放つものを拾い上げる。
「魔石と⋯⋯もう一つ、何だこれ? 鉱石?」
淡い光を揺らめかせる美しい石を掴み上げる。
「魔銀の鉱石です、ミスリル鉱石のほうが分かりやすいでしょうか」
「おお! 前回のミスリルソードに続いてファンタジー鉱石きた!」
「前回は戦乙女から魔銀剣の炎と氷だったよね、ボスゴーレムは毎回ミスリル落とすのかな?」
「どうだろ? まだ二回しか戦って無いから分からないけど次回もそうなら確定なのかもな」
「でもこれ、誰が加工するの?」
「⋯⋯」
「魔銀の加工は特殊な魔素加工技能が必要ですが現代ではその技術は失われており扱える者はいませんので加工不可能です」
「えぇ⋯⋯じゃあただの石じゃない」
「部屋に飾るか⋯⋯」
加工方法が無いならどうしようもないと諦めたところでアイが付け加えた。
「表向きにはですが」
「「え?」」
「日本に一人、世界にあと二人、裏の世界で継承され続けた一族が存在しています」
「裏の世界⋯⋯」
「全力で関わりたくないね⋯⋯」
「必要であれば正源様、紫暮様に尋ねればご存知かと」
「めっちゃ身近じゃん裏の世界! 怖いわなんか!」
「暫くミスリルは封印しといたほうがよさそうかな」
「だな、裏の世界の住人とかなりたくなさすぎる」
「じゃあマジックバックに収納で」
「賛成ー」
すでに完成品ミスリルソードを二本所有している時点で変わらないと思われるがアイは何も言わずにおいた。
「そういやコン達に出会わなかったな、どこで経験積んでるんだろ? ゴーレム階くらいで出会うかと思ったけど」
「会わなかったね、だいぶ離れたとこで行き違ったのかな?」
「かもな、まあまた直ぐにダンジョン潜るからそのうち会うだろ」
「そだね」
実はその時、コン達三人が予想外のとんでもない大冒険をしていた事は誰も知らない。
「じゃあ戻ろうか」
「そうだな、帰って風呂だ」
中央の祭壇へ魔素を流してゲートをくぐり地上へと帰ると、いつもよりかなり早く攻略出来た時間を十三はそのまま風呂へ、月穂は魔導乙女との戦闘を経て痛感した実力不足を実感しさらに上の魔法の座学を始めたのだった。
それぞれ時間を過ごし夕食の時間が近づいてくると十三は一つ思い出した。
「そういや今日の夕食はミカエルが食卓に座るんだったっけ、昨日のルシフェルに続いて今日も俺は夕飯お預けか」
大好きな母の食事が食べれないのは残念だが約束は約束だ。
夕飯の時間、毎度のごとく賑やかな食卓へと向かうとテンション高い末っ子の朱里が待ちきれずいきなり質問をぶつけてくる。
「今お兄ちゃん? それとももうミカエルさん!?」
「まだ俺だよ残念ながら」
「何だ本当に残念な兄だよ、早く大天使さん出してよ」
「ヒドイなオイ、兄を泣かせたいのか?」
「早く早くー」
「聞いてすらいねー⋯⋯」
「早くって言ってるのにー」
「分ーかったよ、おいミカエルいいぞ」
目を一度閉じてゆっくり開けると金の混じったオレンジ色の瞳が現れる。
「はじめまして皆さん、ミカエルと言います、宜しくお願いします。
十和呼さん⋯⋯自身の意思では無いとはいえ息子さんの体をお借りしていることお詫びします」
「あらあらご丁寧に、こちらのこそ宜しくお願いしますねミカエルさん、息子の事は気になさらず。
今日は美味しいもの沢山食べて下さいね」
「はい! ありがとうございます」
「今日もご馳走を用意してあるので楽しんで下さいね」
「月穂さんのお母様、美沙さんでしたね、もう待ちきれないくらいいい匂いです、堪能させてもらいます」
「私、三女の朱里です! 大天使様に会えるなんて光栄です!」
「宜しくお願いしますね朱里さん。
私はあなたの想像している神の使いや天使ではありません、そう呼ばれていただけです、私の呼び名は様々でその内の一つたいうだけです」
「そうだったんだ、てっきり本物の神の使いだと思ってた」
月穂も本物の天使だと思っていたようだ。
「私は長女の那波です、兄が迷惑かけてないですか?」
「宜しくお願いします那波さん、迷惑だなんて⋯⋯迷惑かけてるのはこっちだから逆だよ」
「次女の春菜です、実は今日の料理は私も手伝ったんです、夕食楽しんで下さい」
「宜しくお願いします春菜さん、それは楽しみだ、どの料理か教えて下さいね」
「ミカエルさんが食べた後に教えます、先に知ってるとちゃんとした感想聞けないので」
「分かった、正直な感想を伝えさせてもらうよ」
「さぁ、メシか冷めてしまうわい、頂こうじゃないか」
全員で頂きますと合唱し、ミカエルは生まれて初めての現代料理を口にしていく。
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