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『気仙』正源と太極図

 十三(じゅうぞう)が負けを認め、正源(せいげん)が手合わせの相手をするハメになってから約一分、百鬼の群れの間を正源が流れるように歩くだけでバサバサと異形達が紙に還っていく。

 まるで散歩でもするかのような雰囲気で行われる所業は映画のワンシーンでも見ているかのようだ。


(爺ちゃん⋯⋯凄え⋯⋯)


「ふーっ、老体にちとは堪えるわい⋯⋯

 さて、お主は儂に百鬼の相手をさせに来たのか? 違うじゃろ?」

「まさか貴方の相手が百鬼に務まるとは思ってませんよ。

 ウオーミングアップみたいなものでしょう?」

「身体は温まっておるがもう少し老体を労わんか、無駄に疲れるわい」

「百鬼は呼び出した以上、何か成さずに帰すことが出来ないもので⋯⋯ご協力ありがとうございます。

 青龍は帰せますのでこの後はようやっと自分との手合わせをお願いしたく」

「老体はそろそろ寝る時間なんじゃがのぅ⋯⋯」

「そう言わずにお付き合いお願いしますよ、待ち焦がれた時間がようやくきたのですから」

「分かった分かった、じゃが三分だけじゃ、良いな?」

「ありがとうございます正源様、では早速お願いします」


 正源は身体の質量が変わるのではないかというくらいの重厚な気を内に巡らせる。

 対して総司も気を巡らせるがその差は雲泥、そこで何枚かの小さな紙を頭頂、眉間、喉元、心臓、腹、下腹丹田、脊柱底骨の七ヶ所に貼ると虚空に縦横に指を切る『九字の印』と共に真言を放つ。


「『弁天開法』」


 紙が身体に吸い込まれると正源に匹敵するとんでもない気が溢れだした。


「無理やり気弁を開けたか、まぁあんな力を使った後じゃ、後は術ではなく己の身体で戦うのみよの。

 何時でもかかってくるがえぇ」

「では⋯⋯お言葉に甘えて」


 少しの残像を残して総司の姿が掻き消えると同時に正源の掌が総司の拳を止めた。


「良い拳打じゃ、修練をちゃんと積み上げておるの」

「ありがとうございます」


 お互いの力を拳と掌で確かめて次の打撃に入ろうとした瞬間空気が揺れ、総司がバックステップで離れた。


「ちと殺気を込めただけじゃぞ、退くでない」

「ちと、ですか⋯⋯たまったもんじゃないですね」


 腕を持っていかれたかと錯覚する程の殺気を感じて下がった総司は冷や汗をかく。


「折角じゃから手合わせではなくお主にはまだまだ足りない実戦レベルでやるからの」

「願ってもない」


 少し揺らいだ気を叩き直し、総司は重心を落とした。


「『陰陽八卦』」

「『久世古流八卦』」


 八卦の武術から派生したオリジナルの古流武術の型を双方が構えると、地を這う気の流れで八卦の陣が刻まれる。

 それぞれが互いの間合いであり領域。


「陰陽師とやるのは紫暮を怒らせてボコボコにされて以来じゃわい」

「婆様を怒らせたんですか? 命知らずですね正源様は」

「ふはは、若かったんじゃよ。

 さて、時間が経つだけ疲れるからゆくぞ」


 正源は握った手を前にかざして気を込めた人差し指を弾く、すると空気の壁を破り小規模のソニックブームとそれに伴う熱が発生し、高温の衝撃弾が飛んだ。

 総司は反射的に腕を前に構えて衝撃に備えるが20mほど後ろへ飛ばされる。


「指を弾いただけで⋯⋯」


 十三は正源の常識を超えた一撃にただただ驚愕する。


「純粋な気による身体強化でそれですか⋯⋯流石『気仙』と呼ばれる現代最強の一角」

「指一本弾いただけじゃ、驚くな」


(『気仙』? 現代最強の一角? 爺ちゃん二つ名もつてるのか!?)


「ではこちらもいかせて貰います」


 両手をパンッ! と打ち合わせて気を集中させる、それと同時に正源がもう一発先程の指弾を放った。

 総司は合掌していた手をグイッと引き離すと右に白、左に黒の気が灯っており、その間の手と手を挟んだ空間が灰色になっていた。

 音速の指弾はその空間にぶつかると音も無く消え失せた。


「その歳で使うのか⋯⋯『陰陽太極図功』」


 八卦、太極、共に大陸から伝わりし武の流れを更に陰陽の理と気で太極の空間を具現化させたもの。

 その効果は凄まじく、事象を宇宙の理の元に分離させると言われている。

 気を陰と陽に分け太極図を描けるのは秘伝を伝える陰陽師の一族の一部、体得できるのは更にその一部。

 陰陽の多様な術に加え、武術においても他と一線を画す。

 陰陽師が他を圧倒する強さの理由の一つである。


「対人で使うべきものではありませんが、貴方相手なら問題ないかと」

「まぁ、退屈な手合わせ組手よりはマシかのぅ」


 正源は気を手に集中させると一歩踏み出した。

 その一歩で総司の後ろへと移動して首と腰へ当てがい気を流そうとするが、総司がその両手を受け止めようと合わせる。

 気安く触れるわけにはいかないその陰陽の灰色を伴う手の寸前で止め、両手をバチンと合わせた。

 衝撃波が立体円状に広がるのを総司は灰色の空間を自身の前に展開して衝撃を遮断する。


(魔素無しであの次元の戦い⋯⋯爺ちゃんの動きなんてもう全く追えない⋯⋯

 さっき総司をブチのめすとか思ってた自分をブチのめしたいよ)


 先程の衝撃で地面にクレーターが出来ていた、その中心には二人はもういない。

 その後、幽かな影と共に欠けた満月のような衝撃波が幾つも発生していた。

 正源の攻撃を総司が一部掻き消して出来ている衝撃痕だ。


(ここまで防ぐとはの⋯⋯驚きじゃわい)


 センスももちろんだが、総司の歳の若さでどの様にこの域まで達したのか?

 もし来年手合わせすればもう追い抜かれているのかもしれないと思わせるその総司の実力に改めて感服する。


(なんて速さと衝撃! 流れるように間合いを抜けてくる⋯⋯攻撃に転じる隙が無い⋯⋯)


 と総司の心が一瞬怯んだ瞬間、正源が足を地面に踏みつけた。

 半円の衝撃波が総司を空中へと弾き上げる。


「グッ!? しまっ⋯」


 打ち上がった総司のさらに上、正源は既にそこにおり、両の掌を総司に向けて気の塊を放とうとしていた。


「『気仙砲・崩玉』」


 気仙・正源の二つ名とも成った純粋な外気功の塊を放つ技。

 まるで小さな恒星の様な気の塊は遮るものを静かに破壊してゆく崩壊の光。

 総司は空中で身動きが取れないながらも太極図功を気仙砲に向けて発動させた。

 灰色の空間が一部を飲み込むも、気仙砲はそれをさらに飲み込んで総司に直撃し、そのまま地面にクレーターを形成する。


 舞い上がった土埃が落ち着くと、元あった台地は形がだいぶ変わっていた。

 新しく出来たクレーターには中心にはボロボロになった総司が倒れていた。


「ちとやり過ぎたかの⋯⋯」

「グッ⋯⋯うぅ⋯⋯」

「大丈夫かの?」

「まさか⋯⋯太極図で相殺出来ないとは⋯⋯思いませんでした」

「半端にやるとこっちがヤバかったでの」

「正源様の力の⋯⋯一端が見れたので⋯⋯満足です」


 そう言って総司は意識を手放した。


「喜ぶか⋯⋯全く末恐ろしい奴じゃな」


 その時、台地での戦いが収まったのを見て十和呼と月穂(ゆえ)が近づいてきた。

 形の変わった台地と飲み込めない事態に十和呼は目を細める。


「何事ですかお義父さん? 誰か客人が来たのかと思えば遠巻きに龍が現れて、その後は天変地異かと思うような振動と衝撃音⋯⋯そしてあそこに倒れてる人は?」

「あー⋯⋯客人じゃ」

「客人がボロボロですけど」

「⋯⋯色々あったんじゃよ。

 とりあえず客人と十三の治癒をせねばいかんのでダンジョンへ運ぶ」

「十三も!? 後でちゃんと話して下さいね本当に」

「もちろんじゃ」


 月穂は十三に駆け寄るとアイに魔素のサポートを頼んで簡易的に治癒魔法をかける。


「ちょっと大丈夫なの!? 何があってこんなボロボロに!?」

「はは、肋骨が何本か折れたみたい⋯⋯」

「笑ってる場合じゃないよもう⋯⋯軽く治癒かけたけど立てる? ダンジョンまで歩ける?」

「肩を⋯⋯貸してくれると助かるかな」

「じゃあちゃんと寄りかかってね、無理に動かないでよ」

「あぁ、ありがとう月穂」


 突然の来客からこの事態、十三達三人以外は訳のわからないまま、正源は総司を担いで全員地下のダンジョンまで向かった。

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