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魔王と夕飯と招かれざる客

日本のご飯は本当美味しいですよね。

カンパチ大好きです。

 魔王の初和食、最初に手を付けたのは気になっていた毎日食卓に出ている純白の至宝。


「うめー!! この白い米ってやつ、こんな美味かったんだな!! 前はずっとイモか乾いたパンとかが主食だったから、んー! この甘みたまらん!」

「あの⋯⋯わ、私は長女の那波(ななみ)と申します、以前は他に何食べてたんですか?」


 恐る恐る長女が先陣を切った、中々の勇気だ。

 赤黒い瞳が那波に向けられるとビクリと身体を震わせた。


「あー、クソガキの姉妹か」

「ルシフェルちゃん、出来れば私の息子にクソガキはやめてあげて? はい、秋刀魚(さんま)


 魔王の前にある食べにくいだろう秋刀魚の塩焼きの骨を取ってあげながら十和呼が言う。


「む、そうか⋯⋯十和呼が言うならそうしてやろう」


 ヨダレを垂らしながら言うことを聞くルシフェルを見て皆が思った。


(餌付け⋯⋯ちょろい⋯⋯)


「あー、那波っつったか? 十和呼の家族だ覚えてやる」

「あ、ありがとございます!」

「前は畑から取れるイモとか麦、野菜は人間の所から奪って煮るか焼くかして食ってたな、あとは狩りでとれた動物や食料系魔物がメインだな」


 サラリと魔王の所業をバラしながら色々な皿へとと手を付けていく。


「和食とか無かったからなー、グフフフ⋯⋯美味すぎだろこれ」

「じ、次女の春菜です宜しくお願いします。

 今食べた和食の中で一番美味しいのはどれですか?」

「おう、春菜だな覚えてやるぞ。

 難しい質問だな⋯⋯

 今食った秋刀魚とかいう魚と大根とかいう野菜をすりおろしたやつ⋯⋯いや、合間にすする味噌汁も捨てがたい⋯⋯このブリ大根とかいうやつもすげーな、誰が考えたんだこの組み合わせ? いや、でもこのカンパチとか言う生魚切ったやつもヤベー、この黒いやつつけて食うとヤベー! 米が進む!」

「それは醤油って言うんだよ、私は末っ子の朱莉(あかり)です」

「おう朱莉、この醤油って塩辛いくせに料理と合わせると美味いんだな、意味がわからんどうなってんだ??」

「大豆っていう豆からできてるんだよ」

「豆だ!? 何したらこんな黒くなんだ? いや、美味いならどうでもいいか」

「さっき言ったおすすめの和牛ハンバーグも食べてよね」

「おう、この丸めた肉かどれどれ?」


 大根おろしと村の特産柚子ポン酢をのせて口へと運ぶ。


「はブァ!? なんじゃこれはー!!?」

「ふふふ、美味しいでしょ?」

「やーべー!! これはヤーベー!!

 味! 肉汁の甘み! 大根とかいうやつとポン酢とかいうやつとのコンビネーションで口の中が⋯⋯喜びで⋯⋯イッパイ⋯⋯」

「泣くほど喜んでくれて嬉しいわ」


 ずっと我慢してたんだろう、あまりの旨さに遂に涙がでてきたようだ。


「沢山あるから味わってゆっくり食べてね」

「あんまり急いでがっつくとしゃっくり止まらんようになるぞい」

「フハハハ、俺がそんなもんになるとでも思ってんのかジジイ? 状態異常なんざ無効だ無効」

「しゃっくりって状態異常扱いなんだ」

「ねーねールシフェルさん、ご飯にこれかけてみて」

「なんだこりゃ?」

「カツオと玉子のふりかけだよ、私の好物なんだ」

「どれどれ」


 ササッと白米にかけて頬張る。


「ムフフ、止まらなくなるよ」

「ムファ! なんだこりゃ!? 白米のレベルが上がった!? ヤバイ薬の類か!?」

「ハマるよねー、ムフフフ」


 様々な初めての味の洪水に涙しながら食べる様子は、魔王などとはかけ離れた只の言葉遣いの悪い俺っ娘だった。


「十三と相談して来れる時は何時でも食べに来てくれていいからね、美味しいご飯はまだまだあるんだから。

 今度は良い魚が手に入ったら美味しい寿司とか、和牛焼肉もいいわね」

「それが何か分からんが気に入った! ちゃんとクソガ⋯⋯違った、十三と割り当て相談して来てやるから作んの忘れんじゃねーぞ! 残さず食ってやるからな!!」

「分かったわ、腕によりをかけて作るから楽しみにしといてね」

「あの丸めた肉だけは必ずだせよ美沙!! 絶対だぞ!!」

「気に入ってくれて良かったわ、任せといて」

「この後、食後のデザートもあるんだよ、抹茶アイスの入ったフワフワお餅、私のお気に入りなんだ」


 と月穂が食後に更に甘味がある事を告げる。


「なんだとー! この飯の後にさらに美味いもんが!? お前ら俺を食い死にさせる気か!? ブハハハ!」


 その後、かなりの量があったがルシフェルは全てに手を付け、最後まで残さずキレイに平らげた。


「ムフー⋯⋯もう⋯⋯食えん⋯⋯」

「アレだけあった料理がキレイに消えたね、スゴイ⋯⋯」

「これお兄ちゃん起きたらお腹大丈夫かな?」

「胃薬だけ後で部屋に持ってってあげて那波」

「え、私? しょうがないなもー」


 こういう時はいつも私だと不満をもらしながらも承諾している横で、ルシフェルはボタンが飛びそうになっている腹を上にむけて寝転がった。


「う⋯⋯動けん⋯⋯食を介した重力魔法か⋯⋯」

「いや只の食べ過ぎでしょ、少し休憩してから部屋に戻るといいよ」


 月穂は声をかけると片付けを手伝い始める。


「このくだらん腐った世の中、現世にはこんな美味い物が⋯⋯あったんだな⋯⋯」


 ボソリと呟いて目をつむると寝息をたて始めた。


「寝ちゃった」

「満足そうで良かったわ」

「お母さんのハンバーグは定番確定だね」

「ふふふ、そうね」

「ん⋯⋯んんぅ⋯⋯あれ? ここは?」

「あ、もしかして十三起きた? 今ご飯食べ終わったとこだよ」

「そうかゥウップ⋯⋯何だこの腹の苦しさ⋯⋯ってぅうわー!! 腹! 俺の腹!」


 十三は見たことの無いほど膨らんでいる自分の腹を見て少しパニックに陥った。


「ルシフェルあいつどんだけ食ったんだ!? 寝て目覚めたら何で妊婦さんみたいになってるんだが!?」

「お兄ちゃん、赤ちゃん産むの? 名前は私が決めていい?」

「産むかー!!」


 真顔で聞いて来る朱莉にツッコんでしまった十三はハッ! と気付いた。


(これ⋯⋯面白半分にイジられ遊ばれる例のパターンじゃ⋯⋯)


 チラリと那波と春菜を見ると音が聞こえてきそうなニヤリと笑っていた。


(終わった⋯⋯当分遊ばれるやつだ⋯⋯)


 死んだ魚の目をして遠くを見つめ十三は諦めた。

 決して魔王からは逃げられないように、決して三姉妹からは逃げられない。


 ピンポーン、ドンドンドン!!


 インターホンが鳴ったかと思えば扉を叩く音が聞こえる。


「こんな時間に誰じゃ? あーええぞ、儂がでるから片付け頼むわい」


 女性陣に片付けを任せて正源は玄関へと歩いていく。


 ドンドンドン!!


「誰じゃ夜分に騒がしい」


 ガラリと引き戸を開けて正源は固まった。


(な!? なんで小奴がここに⋯⋯!?)


「正源様、何時までたっても約束の手合わせに来てくれないので赴いて来ましたよ。

 さぁ、道場へ行きましょうか」


(総司⋯⋯ほぼ引きこもりの術マニアがまさかこんな田舎くんだりまでわざわざ来るとは思わなんだわ)


 伏見総司(ふしみ そうじ)、伏見稲荷の祠一族の跡取り、『夢袖(ゆめつぐみ)』の紫暮おババの孫。

 以前、正源がイレギュラー報告に京都まで行った時に約束の手合わせをすっぽかされ、その後ヘリコプターで帰還中の正源を大量の紙鬼神で襲った張本人である。


「色々と忙しくてのう、今日も今まで客を食事に迎えておったところじゃよ」

「それは失礼、では道場で待たせてもらいます」


(小奴⋯⋯1ミリたりとも帰る気ないのぅ⋯⋯)


 今までのらりくらりと断っては逃げていたがどうやらそれもここまでの様だ。


(紙鬼神の相手面倒くさいんじゃよ⋯⋯)


 諦めた正源は心の中で呟いた。

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