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晩御飯と魔王と母

 ダメージを受けた十三(じゅうぞう)とコンは翠葉(すいは)月穂(月穂)により治癒を受けていた。

 ふと戦乙女(ヴァルキリー)がいた所を見返すとそこにはもうその姿はなく、魔石のはめられた双剣とコアだった魔石が残っていた。


「お、戦利品」


 魔石はそのまま経験値として割って分配、双剣はアイに鑑定をお願いする。


「戦闘お疲れ様でした、では戦利品の鑑定を行います。

 過去のデータに照らし合わせた結果、一つは『魔銀剣・炎』ともう一つは『魔銀剣・氷』です。

 魔素、魔石に反応して様々な特性を付与出来る魔銀鉄製の剣です」

「魔銀鉄?」

「ゲームや漫画等で出てくる『ミスリル』と言えば分かりやすいでしょうか?」

「「え!?」」


 十三と月穂がハモる。


「『ミスリルソード・炎』と『ミスリルソード・氷』です」

「スゲー! 本当にあるんだミスリル銀!」

「魔素が無い地上では何の効力も無い品ですが存在します」

「あ、そっか⋯⋯使えるの魔素のあるダンジョン内だけだったよね」

「今の所裏の協会の認証登録要でマジックバックだけは魔石を電池みたいにして使えるみたいだけど、まぁ武器は流石に地上ではいらないよな」

「これも剣術スキルいるの?」

「はい、最低で剣術スキル3程度は必要です」

「じゃあ使えないね私達」

「今の所は剣は正宗行きだな」

「三本持てないからとりあえずは収納しとくね」


 戦利品を回収してからは少し休憩して奥にあった扉から最下層へと降りていった。

 最下層は前回と変わらずくり抜かれたようなドーム型の部屋だった。

 中央には小さく盛り上がった祭壇があるのみで他は何も無い。


「前はここにアイがいたんだよな、吸収したボスゴーレムとして」

「はい、今現在ここには何も存在しないようです」

「じゃあ⋯⋯帰るか」

「そだね、疲れたから帰ってゆっくり休もう」

「あ⋯⋯正宗どうしよう?」

「従魔契約結ぶ?」

「正宗、お前どうしたい? 俺達と契約結んで一緒に仲間として行動するか、このままダンジョンに今まで通り残ってやるか?」


 正宗は首をかしげる、どうやら契約がよく分かってないようだ。


「見せたほうが早いね、コンちゃん良い?」


 コクリとコンは頷くと召喚解除で虚空へと消えた、同時に翠葉も消える。

 その後すぐに月穂が召喚魔法で呼び出し、その光景に少し正宗は驚いていた。


「正宗ちゃん、ちょっと良い?」


 月穂は正宗の前に契約の内容を契約魔法

の締結前の状態で正宗の額の前に展開する。

 魔素を通して直接脳内に情報が届く。


「これが契約魔法、内容は分かる?」


 コクリと頷いて応える正宗はその内容を見て直ぐに判断した。

 月穂の前に手を出す、ハイタッチの体勢だ。


「OKってことだね、じゃあ契約魔法締結するよ」


 パチンとハイタッチすると月穂はそのまま額を正宗に近づける。

 魔素でできた紙が正宗の額の前でバラバラとめくられていき最終ページがめくられると正宗の中に消えていく。


「これで契約は出来たよ、改めて宜しくね正宗ちゃん」

「宜しくな正宗」


 二人とハイタッチした正宗は契約魔法によって僅かな意思の流れが月穂と繋がっている事に気付く。

 それを使って一つお願いをする事にした。


「え、どうしたの? ふんふん⋯⋯なるほど、分かったよ」

「どうしたんだ?」

「正宗ちゃんがね、私達二人が地上へ帰っても召喚解かないで欲しいって、ここに残って経験積んでたいみたい」


 それを聞いてコンと翠葉も賛同する。


「コンちゃんと翠葉ちゃんも?」

「異空間に何があるか知らないけど、まぁ呼ばれない間退屈だもんな」

「じゃあ三人ともここに召喚したまま残していくから頑張ってね」


 とうやら三人とも強くなる為、ここを拠点に鍛え上げるようだ。

 ここに大根、木の精霊、ウサギ、という不思議パーティーが結成された。


「私達がまた近々探索にきたら召喚解いて呼び直すから、それまでご自由に」

「んじゃ戻りますか、アイ頼む」

「はい、では祭壇より帰還ゲートを開放します」


 三人を残して帰還ゲートで地上へと帰り、疲れきった身体を癒やす為にいつもの如く十三は風呂へと向かった。


「ふぅーっ⋯⋯極楽極楽。

 この後飯食ってゆっくりしたらあの二人のゲームタイムか⋯⋯ここまで身体酷使して大丈夫かな俺」


〔おい〕


「!? 何だ!? 誰だ!?」


〔俺だよ俺〕


「風呂場でオレオレ詐欺!?」


〔誰が詐欺師か! ルシフェルだクソガキ!〕


「何だ俺っ娘魔王か、ビックリするだろ急にどうしたんだ? VRゲームはまだ後だぞ」

〔分かってるよんなこたー、それよりだな⋯⋯あー⋯⋯あのな⋯⋯〕

「なんだゴニョゴニョ言って⋯⋯何かの病気か?」

〔違うわ! えーっとだな⋯⋯飯を⋯⋯その〕

「飯?」

〔あの食卓の飯を食ってみたい!!)〕

「何をもったいつけて言うかと思えば⋯⋯」

〔いつもあんな美味そうなもん指くわえて見てんだぞ! 限界だ! 食わせろ!〕

〈あー! ズルいぞルシフェル! 僕も食べたい!〉

〔チッ⋯⋯聞いてやがったかミカエル、だがこの提案は俺がしたものだ、今日は俺が食う〕

〈ぐっ⋯⋯仕方ない⋯⋯十三君、僕は明日の夕食でお願いしたい〉

「⋯⋯」

〔頼むよー! あんなのいつも目の前にあって食えないなんて地獄だぞ!〕

〈地獄も震える魔王が何を言ってるんだ⋯⋯〉

「はぁ⋯⋯じいちゃん達に聞いてみるよ」

〔よっしゃー!! めーしっ! めーしっ!〕

〈十三君ありがとーう!!〉


(あぁ⋯⋯自分の時間が段々と奪われていく気がする⋯⋯

 今まで俺の中から見ていたこれ迄の世界には無かった娯楽や食事などに興味があるんだろうけど⋯⋯

 しかし、こんなやり取りしてるとこいつ等が魔王と大天使と呼ばれてた奴等だなんて忘れそうになる⋯⋯)


 風呂の後、十三は正源へと内容を伝えると意外にも軽くOKの返事が帰ってきた。

 何か思惑でもあるのではと思う位にひとつ返事だったのでなんとも薄気味悪い。

 が、反対されてもそれはそれで当の二人が面倒そうなのでまぁ良いかと思うことにした。


 一旦部屋で少し寛いでから食卓が用意されている客間に行くと全員もう揃って座っていた。


「うっ⋯⋯なんか前にもこんな光景が⋯⋯」

「座りなさい十三や」

「ねー、まだお兄ちゃんなの? それとも」

「残念ながらまだお兄ちゃんだ、料理が来たら変わる予定だから」

「うー⋯⋯緊張するねなんか」


 末っ子の朱莉(あかり)は相手が魔王だって事を分かっているのかいないのか、そわそわしている。

 他の面子はといえば皆ピリついていた、普通の反応である。

 契約があるので無茶苦茶はしないと思うが、今まで幾度と世界を滅ぼしてきた元凶だ、平常心でいられる方がどうかしている。

 そこに十和呼と美沙が料理を持ってきた。


「お待たせー、今日のご飯は豪華だよー」

「お、きたな、じゃあ起きていいぞルシフェル」


 それを合図に十三が纏う雰囲気が少し変わる。

 閉じていた目を開けると黒目が赤黒く染まっていった。

 皆一様にゴクリとツバを飲み込む。


「す」

「??」

「す」

「???」


「すっげー!!! 夢に見てた美味そうな飯が目の前にー!!! 和食ってんだろ!! 知ってんだぜ!」


 嬉しそうに座りながら少し跳ねるのでテーブルがガタンガタンと揺れる。


「ちょっとルシフェルちゃん、そんなはしゃいだら料理が溢れるわよ、あとヨダレ」

「!?」


(ちょっとー!! お母さんいきなりルシフェルちゃんて!! 最初から距離感近すぎ!!)


 長女の那波が顔面蒼白になる。


「おっとそりゃダメだよな、スマンな母殿」


 ヨダレを拭きながらルシフェルは応えた。


「謝らなくていいわよー。

 さ、皆で楽しく食べましょー」

「おーっ!」


 その場にいる全員が思った。

 この人スゴイと⋯⋯一瞬で魔王の上いったと。


「ルシフェルちゃんはお箸は無理でしょ? フォークとナイフの方がいいかな、ハイどうぞ」

「お前気が利くな、褒めてやる」

「うふふ、ありがとー。

 今日の料理は美沙さんと特別に沢山作ったから遠慮なく食べてね。

 あと私は十和呼よ、お前じゃなくて名前で呼んでくれるとうれしいのだけど」

「かまわねーぞ、飯作ってくれたしな十和呼」

「私は美沙、月穂の母です。

 今日の私のおすすめは特別製の和牛ハンバーグとブリのあら煮よ」

「美沙? あぁ、あの娘の母殿か、特別製だと? グフフ⋯⋯遠慮なく食わせてもらうぞ」


 恐れを知らぬ母コンビと魔王を囲んだ宴が始まった。 

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