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古代兵器 戦乙女

 戦乙女(ヴァルキリー)は戦闘開始からまだ一歩も動いていない。

 十三(じゅうぞう)の渾身の初撃は衝撃だけ流され吹き飛ばされ、反撃によるダメージは相手の武器が石の剣だった為に腕は切断されず打撲で済んでいた。

 翠葉(すいは)の治癒魔法でほぼダメージは回復したが、そう何度も受けることは出来ない。

 追撃を止めるよう間髪入れずに月穂(ゆえ)が魔法で支援する。


『穢れ無き太陽の力を集め放て⋯⋯《光牙》』


 月穂は魔法のダメージの有無を確認する為に十分な距離から一発放つ。


 戦乙女は避けることもせず身体に受けた、結果は少しの焦げ跡が付くだけだった。


「やっぱり効き目あんまり無いか⋯⋯

 それでも少しでも支援しないとね!」


 月穂はマジックバック『エルフのポーチ』から千年樹からドロップした無詠唱魔法アイテム『迅雷の杖』を取り出して掲げた。


 刹那、轟音と共に一本の雷が戦乙女に落ちる。


「中級魔法級が無詠唱なの凄いけどやっぱり消費魔素半端ないねこれ」


 しかし、その分あってか戦乙女の動きが少し止まる。


「流石に少しダメージはあるみたいだけど足止め程度か⋯⋯」


 しかしその隙を逃す十三とコンではない、左右から同時に剣を持つ腕と胴へと攻撃する。

 胴への攻撃は亀裂によって流されたが、腕は折れて剣と共に飛んでいき地面に刺さる。


「よし、腕一本!」


 と有利を確信したのも柄の間、亀裂の入った胴から身体が半分に裂け、中から石ではない本物の剣が二本現れた。

 そして右腕がメキメキと再生し、両の手で二本の剣を抜いて亀裂が閉じられた。


「マジか⋯⋯」


 二本の剣には魔石らしき宝石が埋め込まれている。


「特殊効果付きとかやめてくれよ?」


 戦乙女は双剣を眼前でクロスさせてから開くように切り払うと右からは炎、左からは冷気が漏れ出した。


「やめてくれよー!」

「私が魔眼でコアの魔石の位置は伝えるから何とかして潰さないと!」

「前やったように翠葉の蔦で足止めして俺とコンで挟み撃ちしてコア破壊が現実的か⋯⋯」


 戦乙女が重心を少し低くした瞬間、立っていた地面がえぐれた。


「早!?」


 十三は迫りくる二本の斬撃を小手で何とか受けるが炎と氷がそこから侵食してくる。


「熱っ!!」


 横からコンが滑り込んできて足に蹴りを入れようとするが亀裂が入り攻撃をいなされた。

 その体勢のコンを狙って氷の剣を突き刺そうとするのを見て、十三がコンを蹴り飛ばす。

 それと同時に戦乙女から距離を取った。

 ガラリ、と音がする方をみると腕から石の小手が割れて落ちていた。


「体術じゃ相性悪過ぎる、こっちも武器がいるな⋯⋯」

「千年樹からドロップした抜けない木刀ならあるけど⋯⋯」

「受けるだけでもできるしそれで良い、それと料理用のアーミーナイフも二つ頼む」

「分かった」


 月穂はマジックバックを漁って獲物を取り出す。


「正宗ちゃん、これをあの二人に渡して!」


 正宗はアーミーナイフ二本をそれぞれ十三とコンに投げて渡し、『千年樹の御神刀』を抱えて十三の元へと走り出した。


「サンキュ正宗! これでとりあえず剣は受けれる」


 戦乙女は御神刀のポテンシャルを脅威ととったのか、ターゲットを正宗に変更して地面を蹴った。


(なっ!? 間に合うか!?)


 咄嗟に地面を蹴って正宗に向かって飛び出したが、戦乙女は一瞬早く双剣を振りかぶって十字に薙いだ。


「正宗ー!」

 

 ガキン!


 と音がして戦乙女の双剣は止まった。


「!?」


 切られたかと思った正宗は双剣を受けていた、少し輝く抜かれた御神刀によって。


「あの木刀、剣術スキルがある程度無いと抜けないはずなんじゃ⋯⋯?」


 正宗はこれまで戦闘によく木の棒や長い人参の魔物を振り回したりフェイントに使ったりしながらスピードを武器に戦ってきた。

 長年駆使し鍛え上げた戦闘スタイルだったがどうやら長い棒と人参は剣術スキルに分類されていたらしい。


「なんで抜けたのか分からないけど良かった! その破邪の木刀、伸縮機能付いてるらしいから上手く使いこなせ! 分かるか!? 伸びるんだよその木刀!」


 十三のジェスチャーを見て理解した正宗は直ぐに試してみる。

 双剣を受けながらも意思を通すと少し伸びた、それを見てニヤリと笑い双剣を弾いて切っ先を戦乙女に向けて伸びろと念じる。

 魔素が少し木刀に流れ、一瞬にして相手との距離をゼロにして胸部を突き抜けた。


「すげ⋯⋯木刀とは思えない威力だな」


(軽い⋯⋯そして手に馴染む)

 

 長年使い慣れたかの様なその木刀を握り直して戦乙女に向き直りニヤリと笑った。

 それと同時に戦乙女の背中がヒビ割れてぐぐっと盛り上がるとそこから新たな腕が二本生えてきた。

 その手には最初に持っていた石の剣が握られている。


 その隙をついて月穂が『光牙』を放ち、戦乙女の首の根元に焦げ跡を付ける。


「あそこがコアのある場所だよ!」


 魔眼で魔素の集まるコア部分を特定した月穂が印を刻んだ。


「ナイス月穂! よし行くぞ!」


 アーミーナイフの十三とコン、そして正宗の三方向からの同時攻撃をコア目掛けて仕掛ける。

 それをものともせず戦乙女は四本の腕と蹴りでいなしていく。

 短い獲物で何とか凌ぐのが精一杯の十三とコンは少し焦り始めた。


(無機物のゴーレムは体力関係ないからジリ貧だぞこれ⋯⋯この猛攻、防いでるだけで神経と体力削られる。

 月穂と翠葉の魔法も効かない⋯⋯どうする)


 5分程続いた嵐のような斬撃戦、拮抗しているようだったが、やはり格闘技メインの十三とコンのアーミーナイフでの戦闘は慣れないせいか徐々に押され始め、小さなナイフで対応していた二人の間で拮抗が崩れた。

 遂に戦乙女の剣が十三とコンを捉えたのだ。


 深くはないが二人とも腕を切りつけられて十三の腕は焼かれ、コンは腕一本凍った。


 戦乙女がその穴をついて炎と氷を最大限にして攻撃しようとした瞬間、正宗が無動作から木刀を伸縮させた。

 戦乙女はモーション無しの攻撃に対応できず石の剣で喉元を庇い受ける。


「今よ翠葉ちゃん!!」


 戦乙女の足元からズズズッと幾つもの蔦が足を絡めとっていく。


 動きが止まったと同時に十三とコンが首元のコア目掛けてオーラ全開で打撃を挟み撃ちにし、正面からは正宗が木刀の刀身をさらに伸ばした。


 バギン!!


 三方向からの同時に攻撃で亀裂による回避も叶わず胸から上が割れて吹き飛び、魔石が落ちる。

 ガクリと足が折れて座り込む戦乙女はもう動かなかった。


「ぶはーっ! やった⋯⋯」

「ナイス翠葉ちゃん!」


 月穂は翠葉とハイタッチした。

 それを見て正宗はテクテクと十三の前まで歩いていき手を前に差し出す。


「はは、やったな正宗!」


 バチン!


 その後コンともハイタッチをする。


(やっぱり嫌いじゃない⋯⋯これ)


「それにしても正宗、お前剣術使えたんだな」


 しっくりと手に吸い付く御神刀を見つめる正宗は自分の戦闘スタイルに確信を持った。


(自分の武器は拳じゃない、これなんだ)


「気に入ったみたいだな、やるよそれ」


 え? と驚いた表情を見せる正宗に十三はさらに伝える。


「俺達には使えないし、何より長物を使った戦闘がたぶん本来なんだろ?

 但し大事にしっかり使いこなせよ、それが条件だ」


 コクリと頷く。


(これでまた強くなれる⋯⋯)


「偶然とはいえ隻眼だったから正宗って名前着けたけど、まさか剣術使いとは⋯⋯」


 何のことか分からずに首をかしげる正宗の活躍によって辛くもボス撃破を成した。

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