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デッサン人形と階層ボス

 十三(じゅうぞう)は魔闘気を発動させて構えをとる。


「俺もまだ扱いきれないけど魔闘気は存在感、威圧感を纒い物理に影響するオーラで、コンはこれを放出して空中を蹴って軌道を変えたり攻撃の威力を上げたりしてるんだ」


 気功に熟達した十三は感覚的に魔闘気の流し方、使い方は理解している、後は経験だけだ。

 正宗はそのオーラの存在感に気圧されながらもその力を手に入れようと食いしばり目を凝らす。


 それは全身から溢れ魔素を内包しているのが分かる。

 今まで意識してやったことの無かった自分の中の魔素をオーラとして体外放出をしようと試みるが上手くいかない。

 戦闘中にいきなりそこまでやる余裕もあまりないので、魔素だけは練り込んで身体に循環させ続ける、最初のステップはそこだと直感的に正宗は感じた。

 それを見て十三は声をかける。


「やるじゃん正宗、やっぱお前強いよな! センスある」


 かつて相対して破れた相手に認められ、正宗は心が高揚した。


(何だろうこの初めての感覚⋯⋯嫌いじゃない)


「よし、仕切り直しだ! やるぞ正宗!」

「キュ!」


 全力で魔素をみなぎらせて正宗は地面を蹴った。

 十三は左へ、正宗は右へ、挟み撃ちの形をとるとゴーレムは格下と見た正宗へと飛びかかった。

 それを見て正宗は避けに回らず、さらにスピードを上げてゴーレムへと向かう。

 不可思議な動きで拳が最短距離を飛んでくるのを身体を捻りながら躱して懐へ潜り込む。

 蹴撃と見せかけたフェイントで地面を蹴り、ジャンプしてゴーレムの顎を下から撃ち抜いて空中で回転し、かかと落としを脳天に入れる。

 パキリと頭にヒビが入るがゴーレムはそのまま腕を振り上げる。

 空中で動きの取れない正宗が防御姿勢をとった瞬間には十三がすでに飛び込んできており、ゴーレムの胴に拳をめり込ませた。

 吹っ飛んで壁からバウンドしたゴーレムに間髪入れず瞬歩で懐に入り肘打ちを入れる。

 さらにその瞬間、逆の肘にも魔闘気を集中させてインパクトの瞬間に放出、衝撃を倍加させた。

 耐えきれずゴーレムは大きなヒビを胸に散らせて崩れ落ちた。


「よし良い感じだ! 正宗! イエーイ!」


 手を正宗の顔の前にかざすがもちろんハイファイブなど知るわけもない。


「あ、そうか⋯⋯コン頼む」


 かわりにコンがハイファイブをパチンとする。

 それを見て理解したようでかざされた十三の手にパチンとハイファイブをする。


(この気持ちも⋯⋯悪くない)


 正宗は生涯初の共闘とハイファイブに身体の中が熱くなるのを感じた。


「あ、そうだ! 殲滅した昆虫達とゴーレムの魔石は正宗使ってくれ。

 但しここから先はは平等に経験値分配だからな」


 じゃらじゃらと正宗の前に広げた魔石の数は昆虫のおかげで中々の数だ。


(くれるの? これ全部?)


「正宗ちゃん、これは新しい仲間への私達のプレゼントだから気にせず受け取って」


 せっかくくれると出されたのだから断っても仕方ないと、コクリと頷き魔石を砕いて薄紫色の煙を全て吸収した。


(力が漲る⋯⋯これでまた強くなれる)


「さて、じゃあ翠葉ちゃんの故郷の魔素残滓を集めに階層マッピングだね」

「練り歩きますか」

「マッピング作成は私が行います」

「流石アイちゃん! 頼んだよ」


 途中幾度かの戦闘を交えながら階層の地図を隙間なく埋めていく。

 出てくる魔物はデッサン人形がほとんどで一度だけガーゴイルのような敵が出たが形が違うだけで特殊な攻撃はしてこなかった。

 意表をついた亀裂発生からの稼働さえ気を付ければゴーレムは難しい敵ではなかった。

 ドロップは魔石のみで他には何も無いが今までの魔物に比べて魔石が少し大きい。

 経験値階層みたいな所なのだろうか?

 ただ身体が石なだけに魔法はあまりダメージガ通らないので月穂と翠葉は危ない時だけの遠距離サポートに徹している。

 翠葉は年季もあってか魔素の扱いが上手いので月穂は細かいコントロールやテクニックなどを見様見真似で修練している。

 コツコツと経験を積みながら約三時間程で階層マッピングをコンプリートした。


「では階層の魔素を解析し翠葉様の故郷の手掛かりを探します。

 解析には僅かな残滓から情報を多岐にわたって抽出する為、かなりの時間を要する可能性がありますのでご了承下さい」


 翠葉はコクリと頷いて少し遠くを見つめた。


「さて、お腹も空いたしこのままさっきあったここの階層ボス部屋攻略して帰りますか」


 最初は二日以上かかった探索も、道があいかる上にレベルが上がって強くなっていた為、早朝に出て夕方には最下層手前まで来れる様になっていた。

 マッピングの終わり頃に見つけたボス部屋まで行き、重たそうな石造りの扉をグッと押す。


「気を引き締めていくぞ!」


 真っ暗だった中の壁にボボボッと灯りが灯る。

 その中心には着色のされていない軽鎧を纏った衣装を着たフィギュアのような物が石の剣を地面に突き刺して立っている。


「ゴーレム⋯⋯か?」

「以前吸収したゴーレムの情報にあります、あれは言うなれば、

『階層守護ゴーレム Ver・戦乙女(ヴァルキリー)

 階層ボスゴーレムパターンのうちの一つ、剣術戦闘に特価したスタイルです」

「今までの敵にいなかった剣術戦闘スタイル⋯⋯」

「一応千年樹からドロップした木刀はあるけど剣術無いから使えないんだよなあれ⋯⋯斬撃は地魔法と気で硬化して防ぐしかないかな」

「私が皆に地魔法かけるね、他のゴーレムと同じで魔法あまり効かなそうだし支援に専念する」


 月穂は『地装』の魔法陣の一部を複数に書き換え発動させる。


『壮大な父なる大地の護りを勇敢なる戦士達へと纏わせん⋯⋯《地装・守護装纏》』


 それぞれの身体に合わせて石の各部軽装具が生成されていく。


「おぉ、硬そうなのに重くない」


 生成された部分は小手、胸具、脛当て、前衛用に動きやすさが重視されたシンプルなものだ。


 コンには体型的に難しかったのか腹巻きと鉢巻が装着されていた。


「腹巻き⋯⋯まぁ他に防具着けれるとこ無いもんな」

 コンは自分の姿を見て少しテンションが下がったのか死んだ魚の様な目をして無反応のままだ。


「正宗、お前は気功や魔闘気使えないから無茶するなよ、危なくなったらコンと交代してくれ、それまではスピードで撹乱頼む」

「いつでもいいよ十三」

「よし、いくぞ!」


 十三が一歩踏み出すと戦乙女が地面から剣を抜いた。


「コンは月穂と翠葉の護衛! 正宗は奴の後ろを取ってくれ!」


 十三の掛け声で前衛三人がバラける。

 相手の反応速度を見る為、あわよくば初撃で倒すため全力の古流瞬歩で懐へ入り、練り混んだ魔闘気と外気功を一点集中で胸部へ叩き込む。

 

『崩華天穴』


 踏み込んだ足元の地面を抉りながらズドン! という音とともに拳を捻り込む。


 パキ! という音と共に亀裂が胸部から広がった。


「手応えバッチリ!」


 と言うと同時に左腕に激痛が走った。


「ぐぁ!」


 手を見ると石の剣がめり込んでおり、そのまま吹き飛ばされた。


「十三!」


 翠葉が直ぐに十三の元へと駆け寄り回復魔法をかける準備に入る。


「何だ⋯⋯? 胸部から破壊出来たと思ったのに」


 戦乙女を見ると胸部から花のように咲いた亀裂が閉じて繋がっていく。


「まさか⋯⋯あのデッサン人形のゴーレムみたいに自身で亀裂を作って衝撃を逃したの?」

「まじか⋯⋯初見であの技にそんな事するとかどんな戦闘経験とセンスだよ」

「特殊ゴーレムは数万年前の戦争で生み出された大戦用戦闘学習ロボットです。

 古代からの壮絶な戦争の経験を蓄積している殺戮マシーンとして大戦では活躍していました」

「戦乙女⋯⋯戦いの為の人形⋯⋯古代にあった戦闘用ロボット」

「そんなもん試練の祠の階層ボスに置くとか無茶苦茶だろ! この祠に来るのは俺達含め大概初心者みたいなもんだろ!」


 あり得ない配置に憤りを覚えるも、どうしょうもない。

 逃げようにも背後のドアは閉められている、倒すしかないのだ。


「コン! 俺と前衛頼む! 正宗は月穂と翠葉の護衛! 各自全力で行くぞ!」


 思いもかけない古代兵器との戦いが始まった。

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