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Los † Angels 【AI魔石とミトコンドリア】  作者: Amber Jack
第一章 紡がれた夢の祠へ
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新しい臓器

 【第五の太陽】とは、世界各地の数々の古代伝承が伝える幾度も繰り返してきた文明の破滅と再生の伝説。

 各地の伝承によりその崩壊と再生の文明の数や内容は異なるが、元になる一本の伝承から語り継がれて変化したものだ。


 正源が第五の太陽に触れたところで一同和やかな空気から一変、皆がゴクリと唾を飲む。


「今までの世界がそうだったように、今現在の太陽の時代も近く終わりを迎える可能性がある。

 夢に見たであろう、戦いと破壊の始まりじゃ」


 正源は一息ついてまた話し始める。


「ここ十石神社は神社ではなく地下深くにある祠を守護しておる」


 それについてはまだ知らなかった春菜と朱莉がエエッ!? と驚く。


「いい機会じゃからまとめて伝えるわい。 長女の那波はすでに試練を終えておるが、いずれ春菜と朱莉も挑むことになる地下洞窟。

 今や世界各地で使われている英語基準に言い直すとダンジョンというやつじゃな。

 日本国内に複数カ所、そして世界中にも点在しておるがそのほぼ全ては儂らのような一族が管理しておる。

 そこは魔素、海外ではマナと呼ばれる粒子で満たされており、普通の人間が入れば魔素に当てられまともに活動できんじゃろう。

 では、そこに踏み込むには?」


「⋯⋯真呼吸」


 十三がポツリと答える。


「そうじゃ、特殊な呼吸法により気を司る【丹田】とそこに繋がる【魔臓器】を覚醒させ、魔素を異物としてではなく、エネルギーとして循環させる。

 だから最低でもニ日はかかる地下探索を乗り越える為に真呼吸の維持が必須なのじゃ」


 丹田はわかるけど【魔臓器】?? と十三や妹達、月穂もキョトンとする。


「まあいきなり全てを理解するのは無理じゃから後程案内しよう、現代のダンジョンの入り口へ。

 何よりもまずは理解できないであろう魔素の体感じゃ。1時間後にここに集合、お主等三姉妹は留守番じゃ。」

「「「ええー!? ここまできてそんなのないよー!!」」」


 目の前にある宝箱の開封をお預けされて絶叫する三姉妹。なだめるのに暫く時間がかかった。


 その後、菓子を食べながらガヤガヤと雑談し、月穂と美沙は荷物を解きに用意された各々の個室に向かう。十三と三姉妹はそのまま客間で時間を潰していた。


 すると横にススス⋯⋯と寄って来る春菜。


「お兄ちゃん大丈夫? どう? 初恋に落ちた気分は?」


 心配してるのか面白がってるのか、ヒヒヒと笑いながら聞いてくる。


「ファッ!? ファッツコイとかそんなんじゃ⋯⋯キ、キレイな人だなとはお、思う⋯⋯ゴニョゴニョ」


「ニャハハ! 何、ファッツコイって!? ニャハハハハ! お腹痛いー!」

「ブハハハハハ! ファッツ何!? ブハハハ!」


どうやら若き朱莉と春菜のツボに入ったらしい。


「あんまりお兄ちゃんイジメないの、ド田舎の凡青年には惚れるなって言うほうが無理な話よあの容姿と物腰。

 プスッ⋯⋯ファッツコイ」


 頑張って笑いを堪えてたらしい那波も少し吹き出す。


「さて、からかうのはここまでにして、十三」


 急に佇まいを直し十三の顔をワシ掴み見つめる那波。


「色々大変だと思うけど、あなたが月穂さんを何があっても守るのよ。分かった?」


「ファッ⋯⋯はい」


 冷気が漂うような気迫で凄み、問いかけてくる那波に有無を言わされず返事をする。


(確かに那波の言うとおり、これからの鍛錬と探索、彼女の身と心を守らないといけないのは彼女自身だけじゃない。共に立ち向かう自分が守らないと。

 緊張してましたとかそんな低次元なこと言ってる場合じゃないよな、背中を見て安心してもらえるようにならないと!)


「少しは分かったみたいね、よろしい。

 いきなり全ては難しいでしょうけど、情けなさだけはすぐに排除しなさい。頼りないと一度でも思われた時点でそこからの挽回はとんでもなく遠い道のりになるわよ」

「ありがとう、那波。分かってる、いや分かってたんだよ。」


 十三の目に光が灯ったのを見て那波はひとまず安心する。


((那波お姉ちゃんカッコいい!))


 横で春菜と朱莉がキラキラと那波を見つめる。


 



 1時間後、皆が客間に集まった。


「では、行くか」


 正源を先頭に母屋を出て神社の裏へ向かうと、いつもは閉まっていて見えない所に、まるでピラミッドの入り口を思わせる場所があり、そこから地下へと続いていた。

 狭い回廊を思いのほか長く下った先にアイスディッシャーですくい取られたかの様な、石で出来たドーム状の部屋があった。

 そこには中央に三角錐の石が鎮座し、八方から中心の石に向かって小さめのオベリスクが壁からズラリと囲んでいる。

 よく掃除と手入れが行き届いているのは正源がしっかりと管理しているからだろう。


(小さい頃からの禁止区域、こんなになってたのか。それにしてもなんか空気重いなここ)


「どうじゃ分かるか? 空気の違いが」


 十三と月穂はコクリと頷く。


「門は閉じられ結界は貼ってあるがそれでも漏れ出てくる。

 ここは薄いがこれが魔素じゃよ。薄いとはいえ長く吸うておると昏倒するぞ、真呼吸を使え」


 言われて急いで呼吸法を使う。


 ヒュオッ!


(おお、少し楽になった、というかなんか少し力が湧いてくる。体の中に空気が循環してるのがわかるみたいだ。

 なるほど、真呼吸でこれだけの違いが起こるんだな。これで薄いのか、探索途中で真呼吸が出来なくなれば帰還は難しいだろうな。下手をすれば生命に関わるかも。

 なんとしても鍛錬クリアして呼吸法の三日維持、いやそれ以上に仕上げないとヤバイぞこれは)


「しっかりと実感できたようじゃの。

 十三や、お前はこれから毎日の呼吸法維持の鍛錬、組み手による戦闘訓練。

 維持時間が一日を超えたら、この場所で魔素を真呼吸で取り入れる鍛錬を行う」


 コクリと十三は頷く。


「月穂さんは見ておる限り呼吸維持は問題ないレベルじゃから、武術の鍛錬と魔素の扱いに重点を置いてゆこう」

「魔素の扱い⋯⋯」

「そうじゃ。戦闘訓練はワシが、魔素訓練は十和呼と美沙さんが行う」


 えっ!? 十三と月穂が十和呼と美沙を見る。


「任せておいて!宜しくね月穂さん」

「は、はい!宜しくお願いします」


 未知の魔素の扱いどうこうよりも十和呼と美沙がその指導者という内容に驚いた。


「さて、では戻ろうかの。今日は初日じゃしこの後は自由、明日から二人は朝6時起床、6時半朝食、その後から道場にて鍛錬開始じゃ」

「「はい!」」


 明日からの鍛錬を思い、決意の籠った返事を返す二人。


 その後、地上に戻って皆でワイワイと十和呼と美沙の作った夕食を堪能した後、部屋に戻ろうとする十三に月穂が声をかけた。


「十三さん、ちょっといいですか?」


 ドキリとして十三は立ち止まる。


「は、はい、何でしょう?」

「少し外の空気を吸いながらでも、これからのことでちょっとお話できればと思ったのですが」


 一対一。姉妹や母による救いの手はない。


(これは試練の時だ十三! 気合を入れろ! 何としても守るんだろ!  普通だ! 普通にするんだ!)


「わ、分かりました。庭にベンチがあるのでそこで」


 声は少し小さいが健闘している。

 ふと後ろを振り向くと部屋の隙間から皆がニヤケながら半顔を覗かせている。


(くそー! ちゃんといるんじゃないか! 面白がってんだろー! 春菜ー! 携帯こっち向けるなー!)


 二人は外へ出てベンチへと向かう。

 ひぐらしが鳴く林を背に座り、お互いに「ふぅーっ」と息を漏らした。

 そのタイミングが何故か可笑しくて二人とも笑いあった。それが功を奏したのだろう。お互いにあった緊張がほぐれ少し距離が縮まった。


「温かいご家族ですね」

「はい、毎日騒がしいですが最高の家族です」


 十三は素直に心から思っている感情を伝えた。


「この度の件、本当にありがとうございます。ネットでの夢相談がまさかのこの状況になるとは思ってもみませんでした」


 と月穂がお礼を伝える。


「こ、こちらもです」


 とはにかんだ笑みで答える十三。


「不安だった夢に仲間がいて、考えてもなかったファンタジーのような話がこれから始まろうとしてる。ワクワクもしますが不安もあります。

 何故祠に行かなければいけないのか?

 最終的に何がそこにあるのか?

 そこで終わるのかそこから始まるのか? 訳のわからない魔素に魔臓器、それを使ってどうするのか?


 夢は⋯⋯現実になるのか⋯⋯」


 月穂は疑問と不安を口にする。


「鍛錬、戦闘訓練、試練というからには危険があるのは間違いないと思います。それを二人で乗り越えていかなくてはならない。

 危険を前にして何よりも大事なのは信頼関係だと思うんです。十三さんに信頼して貰って背中を預けてもらえるようになりたいです。

 1日の鍛錬が終わったらその後二人でヨガ呼吸法の練習も兼ねて復習しませんか?  もっとお互いの事を知る事が今後の危機を乗り越える際の力になると思うんです」


 十三は関心すると共に自分への情なさが溢れてきた。


(この人はこの先や自分、そして俺のことも全てひっくるめて最善の案を提示してきた。出遅れた俺に出来るのは全力以上でそれに答える事だけだ!)


「えっと、色々と失礼があるかもしれないけど、お互いの好きなもの嫌いなもの、得意なこと苦手なこと、性格、癖、思考方向、全部叩き込んで何があっても太く揺るがない信頼の根を築きあければ⋯⋯たぶん怖いものなんて」

「ない! ですよね」


 と微笑みながら最後を決める月穂。顔を合わせ目を合わせ、お互いに手を出し握手をし、そして二人は笑い始めた。


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