パンゲア創世記オンライン(PSO)④
「な⋯⋯!?」
(なんだこの手は? 小さっ! 細っ!!)
あまりに見慣れない自分の手に驚き身体と足元を見るが、何かに遮られて足が見えない。
足を見ようとしてその障害物をどけようと手を当てて再度驚く。
感触こそないがグニャリとそれは形を変えたのだ。
理解が追いつかず何度もどけようとするうちに頭が追いついた。
「まさか⋯⋯」
ぺたぺたと身体を触り身体を折って足を見ると、手と同じく華奢な足が見え、それと同時に視界の左右が遮られた。
何かと思って触ってみるととそれはメッシュの入った透けるような煌めく白金の髪の毛だった。
(長いしこの色⋯⋯髪の毛こんな設定したっけ?)
しかし、明らかに髪の質感が自分の設定したキャラと違う。
まさかと思い周りを見渡してガラス張りのショーウィンドウを見つけたので駆け寄った。
「な⋯⋯」
言葉を失った。
ガラスに写っているのは白金に煌めく髪が空の色を写しているセミロングの小さな女の子だった。
「え⋯⋯? 嘘⋯⋯なんで?」
自分が選んだはずだった細身のイケメン魔法使いとはかけ離れた姿に呆然とした。
必死にキャラメイクの時を思い出す。
《女性キャラはいいよ、ルシフェルが作ってたし、時間も惜しいからゲーム始めよう》
「って、あっ! まさか⋯⋯」
《女性キャラはいいよ⋯⋯》の後に何も確認せずにOKを連打していた。
「AIが、要らないよの否定の意味のいいよじゃなくて、《肯定の良いよ》と捉えていたんじゃ⋯⋯? もしそうだったら⋯⋯キャラは性別変更出来ないとかアイが言ってたよな⋯⋯」
スタート早々に軽く絶望をあじわい、横で案内してくれると言っている男の声はもう全く入って来なかった。
少女の姿にショックを受けて10分程してやっと思考が動き始めたミカエルは、もう一度自分の姿を見てうなだれ、そしてギルドに行かないといけないことを思い出す。
「そういえば十三君は移動に良くマップを使用していたな、マップアイコンは⋯⋯あったあった」
同空間を円移動することによってフィールドを移動、手に握ったハンドコントローラーによる実際の自身の位置は変わらない全方向移動、短距離テレポート移動(課金スキル)、もしくは某巨大企業が開発したウォークパネルで移動も出来るが高額、移動可能空間問題の為マップの決まった場所にはマップ上のアイコンクリックで瞬時に移動できるようにはなっている。
「ギルドの場所は⋯⋯これかな」
アイコンを触るとギルド施設の前に瞬間移動した。
目の前に建つ立派なギルドを見上げてつぶやく。
「もうキャラは変えられないんだ、気を取り直して始めよう」
中に入ると活気あふれる食堂と受付カウンターが見えた。
キョロキョロしながら受付へと歩いていると皆が自分を見ている事に気がついた。
「おい、あの子⋯⋯AI推奨の自動生成キャラ高額魔法使い構成じゃないか?」
「俺キャラとして動いてるの初めて見た⋯⋯可愛い」
「あの金額出すやついるんだな」
「初心者みたいだけど廃課金プレイヤー確定だな」
コソコソ話す声が聞こえてくる。
「OKを連打してる間にとんでもないのを選んでたのか? ⋯⋯十三君になんて謝ろう⋯⋯」
などと考えながらトボトボと受付まで歩いていき、受付に話しかけた。
「あの⋯⋯登録をお願いします」
「ようこそ『ガイア』ギルド支部へ!
登録ですね、かしこまりました。
ではこちらのプレートに両手をのせて下さい。
最初のステータスは皆さん同数値です、メインの職業を決めたらボーナスポイントをご自身で割り振って下さい。
手をかざしたら選択可能な職業が表示されます」
早速プレートに両手をのせてみる。
「おー⋯⋯沢山あるなー、でもやりたい職業はもう決まってるから」
迷うことなく魔法使いを選択する。
「よし! 頑張って魔法極めるぞー!!」
《名前》 ミーシャ
《種族》 人族(女)
《レベル》1
《HP》 10
《MP》 10(+5)
《力》 10
《魔力》 15(+5)
《防御》 10
《敏捷》 10
《運》 10
《スキル》
火魔法Lv1、水魔法Lv1、風魔法Lv1、地魔法Lv1、魔力回復極小Lv1
登録の際、キャラの名前は遥か昔の幼少期のあだ名をつけた。
ステータス確認後、基本通りMPと魔力にポイントを振ると受付嬢にクエストを受けてと言われたので一番簡単なスライム討伐を受けてギルドを出た。
「初クエスト受けたはいいけど装備が無いから買いにいかないと、やっぱり杖とか三角帽子とかいるよなー魔法使いだし!」
ミカエルは直ぐにマップから武具屋を見つけて転移した。
店の中に入るとちょっと厳つい店員が声をかけてくる。
「いらっしゃいお嬢ちゃん! ゆっくり見ていきな!」
店の名は手頃なものからゼロが並んだ高価な装備品、戦闘用衣装等で埋め尽くされていた。
キョロキョロと魔法使い用の武具が置いてある場所を探して首を回す。
「お、あったあった」
雑多に樽に入れられた安売りの物から、美しい造形が施された高価な品まで並んでいる。
「カッコイイなアレ⋯⋯でもゼロが沢山ついてる⋯⋯
一番安いのは樽のやつか、ほとんど只の木だな⋯⋯とりあえず防具も先に見とこう」
防具コーナーへ行くとそこには初心者用のスターターセットが置いてあった。
くすんだ青い布地の魔法使い衣装がセットで2500Gと書いてある、木の杖は300Gだった。
所持金はスタートの時点で3000G、これしか選択肢はなさそうだ。
「かなり貧相だけど仕方ないよな⋯⋯
あのー、すいませんコレと樽の杖下さい」
「嬢ちゃん初心者か、最初はそれで十分だ。
地道に頑張んな、無理な背伸びはするんじゃねーぞ」
「忠告ありがとうございます、頑張ります! 立派な大魔導士になりますよ!」
「おう、若いのに礼儀正しい嬢ちゃんだな! 気に入った、これ持ってきな!」
「えっとこれは?」
「MP回復薬だ、効果は極小だが初心者の嬢ちゃんには十分足りるはずだ、よく考えて使いな」
「ありがとうございます! 大事に使います!」
どうやら店のおっちゃんの好感度が少し上がって報酬として貰えたらしい。
何も無い初心者にはかなり助かるアイテムだ。
自動的に小さなインベントリに収納された。
「よーし! 最初の冒険だ! 待ってろスライムー!!」
気分上々で街の外へと初めての冒険に出た。
チュートリアルをスキップし、何の練習もしないまま戦闘に繰り出した結果、数時間後に衣服と杖の耐久値が無くなりボロボロになった高額課金スキンの少女が街の入り口に突っ伏して倒れているのをスクショされ、掲示板に晒されることになる。
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