表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/120

パンゲア創世記オンライン(PSO)②

 ルシフェルはゆっくりと目を開けた。

視界に開けたのは何度も十三の中から夢現に見ていたバーチャル世界。

 魔法やスキルを駆使して楽しそうに狩りをし、キャラやペットを育成し、レアアイテムを収集し、家を建て、魅力的な課金アイテムに心躍り、そして誰も死ぬことのない世界。

 これらの事はルシフェルがいた今までの滅んだ世界ではほぼ現実として存在した、最後の一行以外は。



† † † † † † † † † † † †



 十三は夢を見ていた。

 いつもの前世の夢とは違う⋯⋯。



 恐らく魔素の波長、共振によるある種の特殊能力だったのだろう、少女の母や一族は魔物との僅かな意思疎通ができた。

 それ故、忌み神の眷属、魔の物だとして国や人々は一族を追いやり、そして滅ぼした。

 一人で海岸の洞窟で貝殻やキレイな石を集めていた少女は一人難を逃れ生き残った。

 村へ戻るとそこには一族の亡骸が山と積まれ、そして燃やされていた。


 パキン


 と頭の中で何かが割れる様な音がした。


「いやぁあぁあああー!!!!」


 小さな身体が張り裂けんばかりの絶叫と共に、少女の身体からオレンジ色のオーラが吹き出し、それは直ぐに漆黒へと染まっていく。

 頭の中でした音は身体の中の気と魔素ををせき止めるリミッターが壊れた音だった。

 僅かに見える歪む視界の中、地面に転がっている国の軍の紋章のついた装飾品が見えた。


「オ前ラカ⋯⋯」


 吹き出した漆黒のオーラが頭上へと収束し光輪を成す。

 そのまま少し歩き始めるが立ち止まり、薄っすらとした意識の中で遠い国の場所を思い出す。

 その距離を煩わしいと思った瞬間、漆黒のオーラが今度は背中へと収束し黒く美しい翼を成した。

 バサリと広げて動かしてみる、少し身体が浮いた。

 血の涙と、裂けたような笑みを口に浮かべて空へと羽ばたき夕日へと消え、その日⋯⋯一つの国が滅んだ⋯⋯


 無意識下で一族の特殊能力『魔素共振』が発動されていたのだろう、行く先々にいる魔物達をほとばしる漆黒のオーラを絡め強制的に引き連れながら現れた少女、人々の目には正に魔物の群れを伴う魔王の様に映っただろう。


 気がついた時には滅んだ国の真ん中で魔物に囲まれた少女がいた。


「皆をカエせ⋯⋯国⋯⋯ニンゲン⋯⋯ミナゴロシニシテヤル」


 共振は強烈な少女のオーラに増幅され伝播し、飲み込んだ。

 ダンジョンにいる魔物、僻地にいる魔物、空、海、全てへと感染していき、世界はパニックへと陥った。




† † † † † † † † † † † †


 

 幾度も壊滅させてきた世界、幾度も失敗してきた世界。

 軍を率いて追随する仲間もでき、全てを壊し、全てを手に入れてきた。

 十三の中から初めてVRのこの世界を見た時、『くだらない非現実』と嘲笑していた。

 しかし、十三が楽しそうにその擬似世界を生きるのを見ているうちに、少しずつ傷付いて壊れた心に染み込み始める。


 壊れない世界⋯⋯やり直せる世界⋯⋯失わない世界⋯⋯


 徐々に興味を持ちいつか自分もやってみたいと思い始めた、何も理不尽に失わない世界を昔の姿で走り回りたいと。

 さらに仲間と軍を率いた頃から軍備強化の為に力を入れ始め、様々な素材やアイテム収集をしていた。

 そこから芽生えたコレクターのような収集癖がゲームの膨大なコレクションや称号収集にレアアイテム、課金アイテムにビリビリと反応した。

 現実だと入手し手元にある満足感は満たされるが基本何の変化もない、がゲームだと称号を得たり、評価やポイントが上がったり、トレードしたり、作ったりと自身のキャラに全て数値でかえってくる上に、コレクション画面が埋め尽くされていく。

 その充足感がルシフェルの収集癖の琴線に触れたのだ。


「くふふふ⋯⋯待ってろよー、欲しいものは全部集めてやる!」


 視界には操作方法のチュートリアルが映し出されている。

 手や足の動作、画面操作の仕方。

 イヤイヤながらも一つ一つこなしていく。


「お、戦闘訓練か」


 眼前には地面にプルプルとプリンのように揺れているスライムがいる。


「簡単、簡単」


 手に現れたチュートリアル用の木の棒で殴りかかる。


「うわ動作おっそ! これがクソガキの身体能力か⋯⋯」


 頭で思ったように身体がついてこない、イメージと現実との差が激しすぎて運動できない子ムーブになっている。


「これは⋯⋯ちょっと⋯⋯いやかなりキツイかもしれん⋯⋯」


 バタバタとした戦闘の末、ボロボロになりながら何とか買った。


「ゼーッゼーッ⋯⋯ッき、きっつー!」


 無駄な動きの繰り返しのせいで体力も直ぐに枯渇する。


「チュートリアルしてなかったらスライムに初見でやられてたなこれ⋯⋯

 ここはまだ広いからいいが、現実の壁と障害物もあるから当たると激痛⋯⋯」


 現実の障害物はセンサーで感知され映像が投影される為、気を付けていれば大丈夫だが気を抜いて忘れるとエライ目に合う。


「あまりに現実にダメージを負われた場合、私が貯蔵している魔素を使用して簡易治癒魔法をかけますので言ってください」

「おう、そんときゃ頼むぞ」

「チュートリアル戦闘は後数回ありますのでご健闘を」

「え⋯⋯まだあんの⋯⋯」

「魔法とアイテム、スキルの使用を終えたら最初の街へと移動されますので、そこからは自由です」

「思ったよりハードじゃねーかこのゲーム⋯⋯

 うらああぁー! やってやらー! 来いやー!」


 ルシフェルの気合とは裏腹に、チュートリアルが終わる頃にはズタボロになっていた。


「ち、治癒⋯⋯お願い⋯⋯しまヒュ」

「何故敬語なのか分かりかねますが、承知しました」


 回復後、チュートリアルを終了して最初の街でようやくのスタートを切る。


「ふぅ⋯⋯チュートリアルで死亡するかと思ったぜ⋯⋯

 さて、確か最初はギルドとか言うとこに行って登録と確か職業決めるんだっけか?

 えーと、マップの出し方は⋯⋯これだったかな?」


 虚空に指を這わせるとアイコンがズラリと並んだ、その中からマップの絵のアイコンを触る。

 マップには様々な施設やNPCやプレイヤーが映し出されている。


「おーすげー、えっと⋯⋯ギルド⋯⋯これかな?」


 建物の案内とマークを触ると一瞬にしてその場所へと移動した。


「時空魔法の『瞬間転移』みてーで楽だな、魔素消費ない分こっちのが手軽でいいや」


 大きな扉をタッチしてするとゆっくりと開いていった、魔王は躊躇せず中に入っていく。

もし少しでも興味があればブックマークや下の星評価を頂ければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ