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Los † Angels 【AI魔石とミトコンドリア】  作者: Amber Jack
第一章 紡がれた夢の祠へ
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吹き抜ける風

 山道に揺られる車内では、母親同士、三姉妹と月穂とでワイワイと盛り上がっている。

 ただでさえ緊張、萎縮している男一人の十三がそこに突っ込んでいけるはずもなく、皆の話を聞いてるふりして意識を遠くにやっている。


(真呼吸の練習でもしておこうかな、明日から特訓だし⋯⋯)


 遠い目をしたまま小さく、ヒュオッ! と独特の呼吸音が鳴る。

 それに月穂(ゆえ)が反応する。


「あ、ヨガの⋯⋯じゃなくて真呼吸でしたっけ?」


 横で話しかけてきた月穂はなんの違和感もなく真呼吸を使い続けている。


(一体どういうヨガをしてたらほぼ永続で呼吸法を維持できるんだ? もしかしてヨガってうちの古武術よりも物凄いものなのか!?)


「み、三日維持できないと試練まで辿り着けないので⋯⋯少しでもた⋯⋯鍛錬を」

「では私のヨガも一緒にしますか? もしかしたら少しはお役に立てるかもしれません」


(あ、それはありがたいかも⋯⋯)


「せっかくだししっかり教えてもらいなよお兄ちゃん」


 少しニヤリとしながら春菜が後押ししてくる。


「で、ではよ⋯⋯宜しくお願いします」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」


 近距離で微笑みを見てしまった十三(じゅうぞう)はそのまま硬直した。


「あの、どうかしましたか?」


 さらに下からグッとのぞき込まれて完全に十三の思考機能が停止した。


(ヤバっ! なんとか乗り切れるかなーとか思ってたけどこれは無理だわ。さりげない一発一発の破壊力が半端ない! 何とかしないと⋯⋯)


 フリーズした十三を見て那波が動く。


「あー、真呼吸に集中するとたまに周りが見えなくなっちゃうんですー。あまりお気になさらずにー」


(ちょっと無理があるけど押し通すしかないー⋯⋯)


 那波は冷や汗を流しながら状況を説明しエヘへと笑う。


「うわー、瞬きも止まってる! 凄い集中力ですね、では邪魔しないようにしないとですね」


 良いように理解してくれた月穂。


(ふぅ⋯⋯なんとか凌いだ)


 那波(ななみ)は安堵の息をもらした。


 その後は三姉妹と月穂で話を弾ませる女性陣と、フリーズしたままの十三の形を保ったまま田舎道を右へ左へと抜けて十石神社へと走ってゆく。


「カブトムシとクワガタ取り放題だよ」「ホタルがね凄くキレイなんだよー」

「うちの村の井戸水めっちゃおいしいんだよ」

「お腹すいたら畑の野菜洗って食べてね」

「芋の茎の炒めものがオススメかな」


 など、食いつかないだろう昆虫情報や、田舎話なで盛り上がる。


「え? モデルさんじゃないんですか? じゃあ天使ですか?」

「瞳すごいキレイですね、青い色ステキ。私達と同じ色と世界が見えてるんですよね?」


とか、


「あの大きい木、絶対ト◯ロいるやつですよね!?」

「フフフ、どうかなー、でも黒い奴はいるんだよねー」


 などと言いながら十和呼が持ってきてたおにぎりを頬張っているうちに、大きな赤い石の鳥居が見える目的地に到着した。


 田舎道に突然現れた大きな木の回廊に囲まれた巨大な鳥居、しかもそれが13も連なっている。

【荘厳】その言葉がピタリと当てはまる。


 車から降りた月穂はただ立ち尽くし、ある種異様な鳥居を見上げる。

 これから始まるいつもと異なる生活、いやこれから起こる異世界のような現実の入口に立っていることはまだ知る由もないが、心がざわついているのは感じていた。


 荷物を運ぶ為にまだ車内でフリーズしていた十三を春菜が半笑いでハタキ起こす。


(イテテ⋯⋯あ、もう着いてたのか)


 腑に落ちない起こされ方をした十三は渋々と荷物を運び出す。

 ふと見ると今度は月穂がフリーズしている、鳥居を見つめたまま。


(まあ、いきなりこんなのあったら普通ビックリするよな。見慣れ過ぎて何とも思わないけど)


 フリーズしままの月穂を残して皆先に歩き始めていた。


(おいおい、何で誰もケアしないんだよ! ⋯⋯し、仕方ない)


「あ、あの、皆先に行きましたよ」


 ハッと月穂が我に戻る。


「あ、すいませんちょっと見入っちゃって、荷物持ちます」

「だ、大丈夫です自分が持つので行きましょう」

「そうですか、ありがとうございます」


 荷物持ちの問答しても無駄だと思ったのか直ぐにお礼を言って十三と並んで歩いて行くと、温かい風がフワリと二人の間を後ろから抜けていった。

 二人は何気にその風を振り返る。

後ろには何も無く、ただザワつく緑が広がっていた。


 連なる鳥居を抜けるとシンプルながらも長い年月を耐えてきたしっかりとした造りの神社が見えている。

 その敷地を横に抜けると二階建ての母屋とその半分くらいの離れが建っており、さらに蔵と連なる道場が見えてきた。

 ジャリジャリと丸石の敷き詰められた敷地を歩いて母屋へと向かう。二人以外はもう中に入っていったようだ。

 遅れて入って行くとすでに皆靴を脱いで廊下を歩いていくところだった。


 玄関には鮮やかな生花と盆栽か飾られシンプルながらも奥ゆかしさを演出している。

 靴を入れる棚はヒノキで造られ彫り物もされている。靴を脱いで並べた二人は客間へと歩いてゆく。とても優しく良い木の匂いに月穂はホッと少し心が落ち着く。

 客間は恐らく二部屋が繋がっているのだろう、その間には豪華な欄間が天井から下に施され奥には掛け軸と赤い鎧が見えている。

 古き良き、古来の日本が凝縮されたような空間だ。中央の長いテーブルには冷やされたお茶と茶菓子がすでに正源により用意されていた。

 皆、各々場所を見つけてもう腰を降ろしている。

 月穂は正源の横へ行き挨拶を交わした。


「初めまして、宝生月穂(ほうじょう ゆえ)と申します。

 無理な相談を快く受けて頂いてありがとうございました。少しの間お世話になります、宜しくお願いします」


 しっかりと目を見つめてハキハキと挨拶とお礼を伝える月穂に正源は関心する。


「こちらこそ初めまして、十三の祖父、久世の当代当主、久世正源(くぜ しょうげん)と申す。

 礼儀正しいお嬢さんじゃ、美沙さんの育て方がよく見える。うちは賑やかで良いんじゃが、田舎育ちのせいかじゃじゃ馬が多くてのー」

「何をおっしゃってるんですか正源さん、こんなに立派なお孫さん達が沢山いらつしゃるのに」


 その孫達が少しムッとしたが、月穂を見た瞬間勝てそうに無いのを悟ったかすぐに納得のいった顔をする。


「さぁ、長旅は疲れたじゃろう、座ってよく冷えた茶でも飲んでゆっくりしなさい」

「はい、ありがとうございます」


 と、月穂は十三の正面に座り、氷の入ったお茶に口をつけると「わぁっ」と驚きと喜びの声をあげる。


「美味しい! 少し甘苦いアイスグリーンティ!」

「村で摘んだ抹茶を使ってるのよ、美味しいでしょ?」

「はい! とても美味しいです。一口でファンになっちゃいました」


 十和呼が自慢気に言うのも、実は彼女も栽培を担っている自慢の茶葉だからだ。

 そうして皆が飲み物に口をつけたところで正源は話を切り出した。


「さて、今日から約一月、十三の鍛錬と試練が始まるところ、縁あって宝生家も同行となった。

 そして皆もすでに感じておろう互いに感じる懐旧の情、これは遙か遠い先祖より刻まれた血筋の証、ミトコンドリアの持つ記憶と懐古のDNAじゃ」

「不思議な感覚ですよね、暖かく、優しく、懐かしい。旧知の仲のような、家族のような」


 改めて皆を見回して月穂が噛みしめるように慈しむように言葉にして確かめる。


「不思議だったんだよ私、こんなの初めて、村の人や家族以外の人とこの感じ」


 と灯里が興味津々に二人をみている。めったに人の来ない僻地故に、人との交流が少ない田舎で人珍しいのもあるのだろう、灯里は目をランランとさせて二人をずっと見ている。


 三姉妹は女系遺伝が要因なのかすでに夢見が始まっていて、あらかたの継承話は十三よりも前に受けている。


「そうじゃな、儂らは古代から連綿と続く一族の大樹の最先端じゃ。枯らさないよう、途切れないよう次の代へとバトンを渡していかねばならん」


 皆を見渡して一族の意義を確かめさせる正源。


「そしてもう一つの意義。第5の太陽の終わりへの準備じゃ」

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