最下層
ゆっくりと歩いて下層への場所を探す途中、鳥の魔物二匹に襲われが月穂が『雷の杖』のひと振りで倒してしまった。
威力を試す為だったがあっさり一撃で倒してしまったせいで高威力ということだけは分かった。
「反則だよなーその杖⋯⋯詠唱無しでその威力⋯⋯」
「通常の魔法より魔素消費はだいぶ多いから使いどころは考えないとだけどね、それでも反則級なのは間違いないかな」
「翠葉の冠はどうなんだろ? ちょっと魔素流してみて」
翠葉が魔素を流すと冠がザワついた、そして直後に前方に向かって鋭い葉が多数射出された。
「あれって大樹の遠距離攻撃の⋯⋯」
「だな、しかもまた詠唱無し⋯⋯」
「どういう仕組みなんだろ⋯⋯」
「さぁ⋯⋯?
まぁ深く考えるのはよそう、答えが出る訳もないしな」
「そうだね、ありがたく使わせてもらっちゃおう」
「この感じだと果実も何かありそうな予感がするけど、お腹別に減ってないしまた後でにしようか」
「うん、それで良いと思うよ」
「じゃあ気を取り直して、出発!」
「おー!」
「あ、翠葉、適度に索敵魔法だけ宜しく」
コクリと翠葉は頷いた。
暫く進むと高台が見えてきた、中心に滝が流れているのも見える。
近くまで行くと滝の横に洞窟のような空洞があり、その縁が舗装されたかの様にキレイに切り取られている、人工物のようだ。
「あれかな? 地下への道? あそこにくり抜かれたような地面は大樹が居たところなのかな?」
「それっぽいな、やっぱりあの大樹は階層ボスだったぽい、フィールド移動型ってことだったんだろう」
「あの強さでボスじゃなかったら怖いよ、ヤダよ」
「だよな」
「でもこの階層に来て正しい方向に向かってたんだね、逆行ってたらと思うとゾッとするよ」
「この階だけで数日かかってたかもな」
「野宿も大変だからホント良かった」
「まぁまだあれが下層の入り口と決まった訳じゃない、気を引き締めて行こう」
「うん」
四人は警戒しながらも洞窟の入り口に着いた。
入り口はかなり大きい、高さ五メートル、幅三メートルくらいはあるだろう。
入り口の壁の縁は滑らかに加工された石で覆われていた。
「暗くて中が見えないな⋯⋯」
「待って」
『穢れ無き太陽の力を集め灯せ⋯⋯《光牙灯》』
ポッ! と丸い光の球がユラユラと月穂の頭上を漂い始めた。
「おぉ、便利だなそれ」
「浮いてる球をコントロールするの難しいんだけど、これで見えるでしょ?」
と中を覗いてみるとその壁には魔法陣の様に古代文字や図形が描かれていた。
「読めるか? 月穂」
「んー、星⋯⋯願い⋯⋯動き⋯⋯所々の単語は分かるけど法則性が分からないからダメだ」
「そうか⋯⋯魔素の反応は分かるか?」
「ちょっと待ってね」
月穂は魔眼を使って見てみるが特に魔素を感じる所は無かった。
「魔法関連では無さそうだよ、魔素は感じない」
「まぁ、降りる以外の選択肢は無いよな」
「だね、時間も限られてるし行こう」
警戒を怠らず下層へと踏み出した四人は洞窟内の様相に息を呑んだ。
青色の壁の全面にビッシリと金色の古代文字が書き込まれている様はまるで古代王都の神殿の中のようだ。
暫く進むと前方に威圧感のある荘厳な扉が見えてきた。
「でかいな⋯⋯巨人でも通るのかここ?」
十メートルは超える大きさの扉は見るだけでも畏怖を感じるほど重厚な作りをしている。
「どうやってあけるんだろ?」
「んー⋯⋯あ、あそこに手形みたいなのがあるよ」
月穂が指差す方向に二つの掌の形をした場所があった。
「両手をかざせってことか?」
「これ、両方右手だ」
「?」
「二人分の手形ってことかな」
「あぁ、なるほど、そういうことか」
扉は二人の人間の右手を要求しているらしい。
「見ててもしょうがない、やるか」
「うん」
二人が手形にゆっくりと手を合わせると、掌から強制的に少量の魔素が扉に流された。
すると重厚な扉に青く光る魔素が幾つもの線を描いて広がり、ゆっくりと扉が開き始めた。
十三と月穂は息を呑み扉が開ききるのをまった。
ガゴンと音を立てて扉が開ききると四人は視線を合わせてしずかに中へ歩き始めた。
扉を通るまでの荘厳な通路とは違い、無機質な回廊が奥へと続いており、装飾も文字も傷一つ何もない。
少し歩くと奥に広がる部屋が見えてきた。
丸く何かでくり抜かれたかのような歪み一つない半円ドームの部屋、その中心に下に顔を向け座禅を組んている人型の人形かいた。
「月穂、魔眼頼む」
「うん⋯⋯
頭の中心に魔素の集まりがあるのが見えるわ、たぶんあれが魔石」
「分かった」
グッと内気功を練り構える、他の皆も臨戦態勢に入る。
するとデッサン人形のような容姿の灰色の身体から気配が漏れ、目や鼻の無い顔の中心がボウッと青く光った。
「待ッテイタ、運命に愛サレタ天と地ノ子ラヨ、紡ガレタ夢ニ囚ワレタ呪ワレシ一族ヨ」
「!?」
「喋った!」
音の振動ではなく直接頭に言語が流れてくる。
「名ヲ問ウ」
「え? 名前?」
「俺が久世十三、彼女が宝生月穂」
「クゼ ジュウゾウ、ホウショウ ユエ
登録完了。
最初ニ、コノ最深部へ到達シタ際ノ報酬ヲ与エル」
「報酬⋯⋯」
人形が手を少し上げると地面から先端に光る石がついた石柱がせり上がり、光の帯を虚空に投射した。
「映像?」
「時ハ数万年前ニ遡ル」
光の帯が広がりドーム全体に投射された。
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