千年樹
「おー、たけー⋯⋯」
「下あまり見ない方が良いかも⋯⋯」
半分くらいまで登ってきたところで改めて下を見ると、横に手すりや柵がないだけに高く感じる。
「この時点でもだいぶ周りが見えるな」
「うん、でも今の所は目ぼしいものは無いね、森と反対のあっちにもう一本大きな樹が見えるくらい、後はまばらに林や森が広がってる感じかな」
「だなー、あそこの樹はこの樹の半分くらいかな? 目立つのは今の所あれくらいだから後で行ってみようか」
「そうだね、って翠葉ちゃんちょっと待って! 早いよー!」
翠葉は嬉しいのか樹をペタペタと触りながら上へと掛けてゆく。
そして一本の太い枝へと渡り、ペタリと座り込んだ。
「翠葉のとこまで行ったら休憩がてら周りをまたチェックしてみよう」
「OK」
上を見て疲れたのかコンが十三の肩に乗ってきた。
「あー! おいズルイぞコン! いくら軽いからってそれはズルイ!」
ワーワー言いながら足は止めずにようやっと翠葉の居る枝まで登り着いた。
「うわー凄いキレイ! ここからだとかなり見渡せるね」
「幻想的だな、天井の光る鉱石の空と広がる自然。
本当に異世界みたいだ」
翠葉か「でしょ?」と言ってるようにこちらを向いてニコリと笑った。
「ここにずっと住んでたの?」
翠葉はコクリと一つ頷いた。
その目は懐かしそうに景色を見渡しながらも、異界から切り取られてしまった姿に悲しそうな色を浮かべている。
コンが横に座ってポンポンと背中を撫でてあげている。
「ここ、祠を攻略終えたら元に戻ったりするのかな?」
その発言にピクリと翠葉が反応する。
「分からないけど可能性はゼロではないと思うよ」
「だよね、翠葉ちゃんは帰りたい?」
小さく頷く。
「コンと契約したんだろ? じゃあもし戻っても召喚できるんじゃないのか?」
「あぁそうか、ならもう会えないなんてことはないよね」
優しくニコリと翠葉は笑った。
「さて、ちょっと周りを確認しようか、って⋯⋯ん?」
「どうしたの?」
「いや⋯⋯あの樹⋯⋯大きくなってないか?」
「え? そんな成長早い樹いるの?」
「風で揺れてそう見えてるだけかな⋯⋯? ほら、葉っぱ揺れてるし」
「風ないよここ、あそこだけ風吹いてるのかな?」
少し注意して観察しているとそれが大きな間違いだと気づく。
「ちょっ!? あの樹こっちに動いて来てないか!?」
「えぇ!? だから大きくなったように見えてたの!?」
それはゆっくりと、でも確実にこっち側に動いて来ているようだ。
「翠葉! お前の世界の大樹は動けるのか!?」
翠葉は首を縦に振った後に横に振る。
「? 動く樹はあるけどあれは違うってことか?」
コクリと頷く。
「魔物⋯⋯なんだな?」
もう一度コクリと頷く。
「確実にこっちに向かって来てる⋯⋯このままだとどうなるんだ? ただ移動してるだけか?」
少し震えていた翠葉が立ち上がり、魔法陣を展開させた。
「横を通り過ぎるだけじゃ済まないってことか」
「大きい⋯⋯十五⋯⋯二十メートルはあるんじない?」
翠葉の魔法陣の魔素に反応したのか、同時に殺意と威圧感が襲ってきた。
「!? この威圧感、雑魚じゃないな⋯⋯もしかして階層ボスとかか?」
「そんな⋯⋯あんな大きなのどうやって倒すの?」
「分からない⋯⋯でもこのままだとこの樹も無事じゃ済まないかもな」
翠葉はすでに戦闘態勢に入っている、横に座っていたコンも構えてはいないがスイッチはすでに入っているようだ。
「下に降りるぞ、流石にここでは戦えない」
登ってきたばかりなのに降りるハメになった。
「とりあえずこの樹に近づけないように戦ってみよう。
どんな攻撃をしてくるか分からないけどそれぞれ臨機応変に行くしかない。
いつも通り月穂と翠葉は後ろ、俺とコンは前だ。
翠葉、もし何か支援系魔法が使えるなら底上げ頼む」
翠葉はフルフルと横に首を振った、流石に上級魔法である支援魔法は使えないようだ。
「そうか残念、なら月穂と一緒に後方支援頼んだぞ! 他の敵が来ないか周囲の索敵もよろしくな!」
「翠葉ちゃんはとりあえず音魔法で敵確認を優先でよろしくね、私が後方支援に集中できるから」
翠葉はグッと親指を立てて応えた。
(まずは植物相手だし火魔法で!)
『猛る清き紅蓮の炎よ 焼き祓え⋯⋯【火牙】』
頭に着けている二つのの羊角装備が光り魔力を増幅させる。
大きめの火球が三十メートル程先にまで迫っている大樹に向かって勢い良く放たれた。
ドォーン! と大きな的に直撃した。
「効いたかな⋯⋯?」
煙が覆って見えない被弾場所が徐々に顕になる。
「無傷!? 魔法での防御も抵抗も何も感じなかったから直撃したはず⋯⋯
焦げ跡もなく無傷でいられる訳無いと思うけど⋯⋯」
「まさか⋯⋯火耐性?」
「植物最大の弱点に対して耐性持ってるの?」
攻撃を受けた大樹の殺意と威圧感が二人に向いたと同時にその前面に大きな魔法陣を形成した。
「攻撃来るぞ! 月穂、魔眼で解析頼む!」
「うん! それにしても大きい魔法陣⋯⋯陣の指示内容は【一部】【高速射出】だけ見えたよ!」
「一部⋯⋯枝葉か!? みんな俺の後ろへ! 月穂! 地属性の硬質化系を拳に頼む!」
大掛かりだからか大樹の魔法発動が遅い。
その隙に十三は赤黒い魔功術のオーラを纏い、同時に月穂が魔法を発動させる。
『壮大な父なる大地を身に纏わん⋯⋯【地装・大地ノ篭手】』
地装が纏われる前に無数の葉が大樹から放たれた。
(間に合え!)
十三はオーラを手に集中させて迎撃体制に入る、コンもオレンジの魔闘気を纏い十三の横に並んだ。
一枚目の葉を斜めに逸らすように弾いてみると軌道を逸らすのに成功した。
(いける!)
続けて後続の葉を迎撃していく。
横でコンは魔闘気オーラを厚く手に纏い弾いていた。
(物理に作用する魔闘気を使って弾いてるのか⋯⋯また暴走するかもしれないし俺にはまだ無理だな)
二人で百枚以上飛んでくる葉を撃ち落としにいく。
数枚弾いたところで月穂の地魔法での岩の篭手を纏った。
「よし! これでパリィじゃなくて弾き返せる!」
ギギギギギギギ!
(それにしてもなんて数だ、これ以上は目で追えない⋯⋯仕方ない、魔眼発動!)
体力の消耗に気を使わなければならないがこれ以上は完全に弾ききるのは無理だが横のコンはまだ余裕がありそうだ。
魔眼の発動で一気に視界が膨らみ、空間を把握する。
「うおおぉ! 全部撃ち落としてやる!」
ニ百枚くらい弾いただろうか? やっと葉っぱの雨は止んだ。
「ブハーッ! よし防いだぞ」
無駄な消耗を防ぐ為に直ぐに魔眼を閉じ、横にいるコンを見るとまだ涼しい顔をしている。
「流石コン先生は凄いな、フーッ、フーッ⋯⋯」
まだまだだな、とでも言うようにコンは指を左右に振る。
大樹は遠距離攻撃が効かなかったのをみると、ためらわず前進してきた。
「接近戦か、願ってもない!」
大樹は左右の枝を大きく振りかぶった。
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