攻略再開
話は決まった。
夢袖のスペシャリストが来るまでの一日半の間に祠攻略を終える。
異世界からの森の階層をクリアすれば恐らく残り一か二階層、出来ないことはない。
「気をつけてね十三、今度は月穂さんをちゃんと護るのよ」
「あぁ、分かってる、必ず二人無事に帰ってくるよ」
「月穂をお願いしますね、十三君」
「はい、必ず護り通します。
ては行ってきます!」
時間が無いので直ぐに出発をする。
月穂を背中に担いで柘榴の元へと歩く。
「柘榴、探索最後の場所まで戻してくれ」
柘榴は直ぐに次元魔法で転移を開始した。
暗転、そして微かな目眩と共に元の森の中へと戻ってきた。
直ぐにアクアは柘榴と共に次元魔法の隙間へと身を隠す。
周りを見渡すが倒した狼達の姿は無い、子鬼達にでも見つかって回収されたか、ダンジョンに吸収でもされたのだろうか?
狼が倒れていたであろう場所に行くとそこには魔石が落ちていた、恐らくアヌビスの従者の物だろう、かなり大きい。
「今まで見たことないサイズだな、月穂とコンとも分けれたらいいんたけどな」
と思いながら割ると、煙は三人に流れていった。
「え? 分割可能なのか? コン知ってた?」
コクリと頷くコン。
「教えてくれよ! 毎回誰が使うか結構考えるの大変だったんだからな!」
手首をクイクイと曲げておばちゃんみたいに、まぁまぁ、みたいなジェスチャーで応えるコン。
「いや、まぁ良いんだけど、知ってたらかなり楽だったからさ」
まぁ気にするなよ、行こうぜみたいな雰囲気でくるりと進行方向に向きコンはテクテクと直り歩き始めた。
「おぉい、待ってくれよコン」
月穂を抱えて歩き始めると、コツンと足に何かが当たった。
「ん? 何だこれ?」
小さい黒い何かが落ちていた。
拾ってみるとそれは小さなフィギュアのようなアヌビスの従者だった。
「人形? ドロップアイテムみたいなものなのか? それならとりあえず持っていっとくか」
十三はそのままポケットへと詰め込んだ。
「あ、もうあんな遠くに行ってる! 待ってくれよー!」
十三は追いつこうと小走りで追い掛けた。
歩いていくと意外とすぐに森が開けた、どうやら反対側に抜けたようだ。
遠方に巨大な樹が見える、大きすぎて先が天井の光る水晶にめり込んでいる。
「!?」
コンの頭の葉っぱに乗っていた翠葉が立ち上がって指差し、ぴょんぴょんと跳ね出した。
「あ、あれってもしかして記憶魔法で見た翠葉が座っていた大木?」
翠葉はコクコクと激しく頷き嬉しそうに跳ねまわる。
(それにしても嬉しそうだな、あそこにずっと住んでいたんだろうか?)
「う⋯⋯ううん⋯⋯」
「お、起きたか月穂」
「ここは⋯⋯?」
「森を抜けたところだ」
「森を⋯⋯? 何してたんだっけ?」
「狼と戦って月穂は重傷負ってたんだよ」
「狼⋯⋯あぁ、あの黒い⋯⋯お腹に衝撃を受けて」
バッ! と自分のお腹を確認する。
覚えているあの感覚、衝撃と共に従者の手がお腹から生えてきて、焼けるような冷たいような痛みが脳に到達すると同時に意識が途切れた。
貫通したはずのお腹に穴は見当たらないが服に血がべっとりと付いている。
「治癒魔法で誰かが治してくれたの? あ、もしかしてアクアちゃん?」
「あぁそうだ、アクアが結界の中でずっと治癒魔法かけててくれたんだよ」
「結界?」
「あーそうか、翠葉ー! 月穂が起きたんだ、説明大変すぎてまともに伝えれる自信無いから記憶魔法のやつ宜しくお願いできるかな?」
コクコクと頷いて月穂駆け寄り、額をよせて魔法を発動させた。
「うわ! やっぱり思いっきりお腹貫通してたんだ⋯⋯
あ、十三が切れた⋯⋯私の血かぶってる⋯⋯ごめんなさい。
うわー、凄い! 十三がコンちゃんと同じオーラだしてるよ! 使えるようになったんだね、って⋯⋯あれ? 黒くなっていってるよ? 頭に輪っかまで⋯⋯それに目が⋯⋯
クハハハ? 何その笑い方⋯⋯
え!? コンちゃ⋯⋯女の子!? クハハハの十三と知り合い同士??
うわ、コンちゃんつよ⋯⋯
あ! やられちゃった大変!
え? 十三が自分で自分に攻撃してる?
ミカエル? 悪魔王? ルシフェル?
十三、一人三役で何やってるの?
って⋯⋯は? VRゲーム⋯⋯?」
どうしても最後の単語のところで色々と崩壊するミカエルとルシフェルの顛末。
「そう、VRゲーム⋯⋯」
「それってあのめちゃくちゃ人気の?」
「めちゃくちゃ人気の⋯⋯」
「⋯⋯」
(ですよねー、言葉でないですよねー。
世界を滅ぼしてきたっぽいラスボスと世界を救ってきたっぽい英雄が、まさかそんな理由でなんて⋯⋯ねー⋯⋯)
「あ、コ、コンちゃんて凄いんだね! それに女の⋯⋯ムグッ!」
コンが急いで月穂の口を塞いだ。
十三は知らないのだ、記憶がはっきりしてるのはミカエルとルシフェルの喧嘩の最中、故に翠葉と融合してイリヤを顕現させたルシフェルとの戦闘は覚えていない。
(え? 内緒なの? わ、分かったよコンちゃん)
小声で訴えたところで月穂は開放された。
「何やってんだ二人とも?」
「な、何でもないよ! 何か虫っぽいのがついてたように見えたのを払ってくれたみたいで」
「虫? 魔物か!?」
「ううん大丈夫、大丈夫! 見間違いみたい」
「そうか、気配も何も感じなかったから驚いたよ」
苦しい言い訳だが何とかなったようだ。
(記憶魔法の内容だと私の中にも誰かいるみたい⋯⋯ルシフェルが言ってた。
それにしても悪魔と天使が同居なんて⋯⋯
VRゲームのおかげ(?)で収まってるようだけどこれからどうなるんだろう?
正源さんは祠を攻略しろと言ってた、たぶん何かあるんだ⋯⋯最深部に⋯⋯)
自身の中に眠る何者かの存在、十三の中の堕天使に不安を感じながらも、先に進まない事には何も分からないし外にも出られない為、前進以外に選択肢はない。
「とりあえずはあの大樹に向かうの?」
「そうしようかと思ってたんだ、翠葉の大事な場所みたいだし」
「じゃあ決まりだね、行こう翠葉ちゃん」
翠葉はぴょんぴょんと飛び跳ねて先頭を歩き始めた。
「気をつけろよ、何がいるか分かんないんだから」
すると前に使った音魔法のソナーを発動させながらまた歩き始めた。
「そっか、それがあったな⋯⋯大樹まで見晴らしの良い場所を歩かないといけないのはかなり不安だったけどこれで少し安心だ」
「うん、あの大樹に着いたら上に登って周りをチェックしないとね、どこかに階層ボスへの道が見えるかもしれないし」
「あそこからだとかなり見渡せそうだな」
警戒しながらも進んでゆき、幸いなことに魔物に出会わずに大樹の近くまて辿り着けた。
「この大樹、途中からダンジョンの天井に飲み込まれてるけど高さどれだけになるんだろ?」
「ざっと見た感じだけでも周囲五十メートル以上あるよねこの幹⋯⋯」
「登るのちょっと大変だぞこれ」
翠葉がそれを聞いて少し得意げに歌い始めた、詠唱だ。魔法陣を展開させると染み込むように樹に消えていき、それと同時に枝がニョキニョキと生えてきた。
どうやら足場を作っているようだ。
「わー、これなら登りやすそう! ありがとう翠葉ちゃん」
エッヘン! と言っているのが聞こえそうなほど胸を張って得意顔をしている。
約三十メートル先の頂上付近を目指して皆で登り始めた。
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