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Los † Angels 【AI魔石とミトコンドリア】  作者: Amber Jack
第一章 紡がれた夢の祠へ
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ようこそド田舎へ

 正源(しょうげん)による厳しい道場での鍛錬を終え、風呂に入った後は泥のように眠った。

 翌日、目覚ましがなる前に目覚めて気持ち良く1日を迎えるのだが気分は良くない。

 何故なら今日の一大イベント


月穂(ゆえ)さんお出迎え】の為である。



 憂鬱な気分を朝風呂でスッキリさせた後、いつも通り十和呼が早くから朝食の用意をさている良い匂いの漂うキッチンへと歩く。


「おはよ⋯⋯うぉっ!?」


 いつもは自分と十和呼、正源がいるキッチンには珍しく三姉妹を含む全員が揃っていた。


「何? どうしたんだ皆先にいるなんて?」


 三女の朱莉(あかり)が答える。


「月穂さん来るの待ち遠しくて早く起きちゃったよ、ニャハハ」


(遠足前の小学生か⋯⋯13歳だからまぁまだ似たようなものかな)


 次いで来年から高校生の次女、春菜(はるな)が眠そうな目をこすりながら呟く。


「アカリに起こされた⋯⋯」


 今年から大学へ通っていて夏休みに帰郷してきている姉、長女の那波(ななみ)が眠そうに十三に訴える。


十三(じゅうぞう)のフォローや対策を考えてたら眠れなくなったよ⋯⋯」


 暴走、沈黙するかもしれない兄のバックアップをしようと一生懸命に月穂対策を考えててくれたんだろう、責任感の強い那波。


「あーそれは、その⋯⋯申し訳ない」


 そして家族皆揃っての朝食に嬉しそうな十和呼。


(爺ちゃんは朝はここにいるか道場にいるからいいとして、妹達が俺より早く全員揃ってるなんて普通じゃない)


 今日からの波乱を含んた生活を象徴するかのようなほのぼのとした異常事態、十三は先を考えるのがさらに怖くなってきた。


 朝食を終えてしばらくすると出迎えに近隣の街の駅まで行く予定になっている。近隣といえど山谷越えて車で約一時間以上のド田舎である。

 滅多に街へ行くことは無いのでいつもはこのお出掛けイベントに少しワクワクするが、今回は違う。

 皆の期待と不安が混在した非日常が始まろうとしている。




 一方、その台風の目となっている月穂というと、元来の性格からか落ち着いていた。

 生活が新しい環境に置かれる楽しみも少しはあるが、急に無理に鍛錬と探索の同行をお願いしてしまった為に少し申し訳ない思いもあり、結果プラスとマイナスで相殺しあっているような感じである。


 明るい水色の二両編成の電車の窓を少し開け、爽やかな晴れた夏の朝の風と蝉の声を車内に取り込みながらこれからの生活に思いを傾ける。

 シンプルながら薄桃色の落ち着いたワンピースの胸元に光る十字架のネックレスを指でクルクルと弄りながら、あと少しの電車の旅を楽しんでいた。



 そんな二人の思いも他所に、これからお互いに、そして人類に、生物に、物質に、世界に、法則に⋯⋯

 あらゆる世界を巻き込む距離が縮んでゆく。




 山間部のトンネルとトンネルの間の谷間にスポッとハマったような何もない無人最終駅。最終駅なのにそこが行き止まりではなく、トンネルが続いているよく分からない作りの最終駅。

 月穂はトンネルに入った時になった塞がった感覚の耳を、鼻をつまんで息を出し耳の閉塞感を治そうとしている。

 電車がゆっくり止まると母の美沙と一緒に荷物を棚からおろして木のベンチが一つだけの細いホームに降り立つ。乗降客は自分達だけのようだ。


「うーん、澄んだ空気」


 月穂は胸いっぱいに緑にむせ返る空気を吸い込む。体の中から浄化されるような気すらする清らかな空気は、それだけで癒しの魔法がかけられているようだ。


「何年ぶりかしら、全く変わらないわね」


 美沙も味わうように呼吸を繰り返しながら過去を思い出している。


「出口はこっちよ、行きましょう」

「お母さん、ちょっと待ってよ」


 澄んだ空気に心を奪われて我を忘れて立ちすくんでいたところを、現実に引き戻されて慌ててついて行く。


 駅の中からは見えない出口では十三ら家族が並んで待っている。


「電車きたよ! ほらほら!」

「はいはい、見れば分かるからはしゃがないの」


 三女の朱莉がはしゃいでいる横で冷静に答える次女の春菜。

 そして、その横で彫刻のようにガチガチに固まっている十三。気にしないように落ち着こうとすればするほど余計に考えてしまい、さらに硬度か増してゆく。


「どうにもなりそうにないわね⋯⋯」


 長女の那波が、呼吸すら忘れているように見える十三にポツリと漏らす。


「ほら、もうでてくるわよ」


 十和呼が言ったところで無人の改札出口から二人の女性が現れた。


 その瞬間、時間が止まったかのように十三も皆も動かない。

 なぜなら異国の姫のような、もしくはまるで天使のような容姿をした少女が目の前に現れたからである。十三はビデオ通話で見たから月穂の容姿は知っていたはずだが、あの時は情報過多でテンパっていて分かっていなかった。

 実際に目の前で見た瞬間時が止まった。

 目の前まできたところで挨拶を交わす。


「おはようごさいます、お世話になります。宝生美沙と、こちらが娘の月穂です」

「初めまして、月穂です。宜しくお願いします」


「お久しぶりね、美沙さん。わざわざこんな遠い田舎までお越し下さってありがとうございます。

 月穂さんには自己紹介しておかないとね、久世十和呼です。

 こっちは上から、那波、十三、春菜、朱里。こちらこそ宜しくお願いしますね。ほら、皆もご挨拶しなさい」


「「「宜しくお願いします」」」


 十三以外が声を揃える。彼はまだあちらの世界に行ったままだ。

 春菜が見えないようにゲシッ!と足を蹴る。


「痛ッ! あ、よ、宜しくお願いします」


(ナイス春菜)


 と那波が心の中で賞賛する。


「さ、立っててもなんですから行きましょうか。十三、荷物もらって車にのせて」


 言われてギクシャクと近づきながら荷物を受け取りにいく。


「く、車に載せるので預かります」


 近づくけば近づくほど月穂の容姿の解像度が上がってゆく。


(うわー⋯⋯テレビ以外で初めてみるよこんなキレイな人。目の色が凄い、よくビデオ通話で平気だったな俺。

 とりあえず落ち着いていかないと、なんとしても醜態たけは晒すまい)


(おー、お兄ちゃん頑張ってる! 凄い、偉いぞお兄ちゃん!)


 ギリギリ動いている十三を見て朱莉が心の中で応援する。


「私も手伝うわ」


 と長女の那波が手を貸しにいく。


(うわー、リアルお姫様みたい。これは思わず見惚れちゃうよ。こんなのなんの免疫もないド田舎青年が見たら一撃でしょ)


 まさしくその通り、皆まで言わずとも一撃である。ド田舎青年でなくとも一撃だろう。


(でも、中身が化け物の可能性があるから一応気をつけないと)


 那波は警戒心を出さぬよう観察するよう今一度自分を戒める。


「ありがとうございます」


 と月穂がお礼をいいながら荷物を渡すと、十三はそそくさと8人乗りのファミリーカーのトランクへと載せていく。距離が近いと緊張して頭が回らなくなるのでササッと離れて作業に没頭することにした。


 しかし、試練の時はこれからだった。


 車の助手席には十和呼に並んで美沙の母親チーム、後ろの座席には三姉妹。そして一番後ろの席に十三と月穂である。


(どうしてこうなった??)


 パニックで汗だくである。


(何を話せばいいんだ? やっぱり天気か? 景色なんてただの田舎道だからなんもないぞ? どうする俺、見た目より重たかった荷物の話でもするか?  いやいやこれから住むんだから荷物多くてあたり前だし!

 うおー! 考えろ俺! 沈黙はアウトだろ? てかなんで俺が助手席じゃないんだ!?)


「電車はどうでしたか? あの電車、古い田舎電車だから揺れが激しいから気分悪くなったりしませんでしたか?」


 那波が察してか後ろを振り返って月穂に会話を振る。


(ナナミー!! あんた最高だー!! 後で祀り上げてさしあげるぞー!)


 神の救いの手に、訳のわからないことを心の中で絶叫し涙を流している十三。


「素敵な旅でした! 窓を開けてたら景色も綺麗で風も心地よくてずっと眺めてました!」


 満面の笑顔で話す月穂。

 これに三姉妹もあっさり撃沈した。

 十三は幸いにもこの笑顔を硬直して涙していた為に見ていない。


 車はゆっくりと山谷越えて村へと向かう。

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